元旦に想う
江戸時代後期の儒学者佐藤一斎(1772年~
1859年)は、42歳から82歳までの40年間、
1133条にも及ぶ膨大な人生指南の書、「言志四録」
を書き続けました。
門人も多彩で、佐久間象山、大橋訥庵(とつあん)、
山田方谷、横井小楠(しょうなん)、中村正直などが
います。
佐久間象山の門下からは、勝海舟、坂本龍馬、
吉田松陰、小林虎三郎が、吉田松陰の門下からは、
高杉晋作、久坂玄瑞(げんすい)、木戸孝允
(たかよし)、伊藤博文などが輩出しています。
西郷隆盛は、101の項目を抜き書きして、自ら
「手抄(しゅしょう)言志録」を編み座右の書としました。
いわば、幕末から明治維新を駆け抜けた青年たち
を最も震撼させ鼓舞させた書物です。
斎藤孝さんも、その著書「最強の人生指南書―
佐藤一斎『言志四録』を読む」の中でこう述べて
います。
「幕末から明治にかけて、新たな時代を切り開いた
人々の活力。そして、論語にみられる人生に対する
ブレのない見方、それらを現代の日本人は痛切に
求めているのです。
『言志四録』は、これらの二つの要素を持ち合わせた
類まれなる書なのです。
現代においても『最強の人生指南書』である。
私はそう断言します」
前置きが長くなりました。
その佐藤一斎が65歳(数え66歳)の時、65歳を
機に覚悟を新たにするという意味で書いた文章が
あります。
「余の齢(よはひ)今も六十六にして、猶(な)ほ未だ
深く理路に入る能(あた)わず。
而(しか)るを況(いはん)や知命・楽天においてをや。
余齢幾(いく)ばくもなし。自ら励まさざるべからず」
知命とは、天から与えられた自分の使命を自覚
することで、楽天とは天から受けた運命を楽しむ
ことです。
私も、2月10日で満65歳になり、高齢者の
仲間入りします。
佐藤一斎の境地の足元にも及ばねど、その一端を
学びながら、覚悟を新たにしたいと考えています。
「敬忠、寛厚、信義、公平、廉静、謙抑の
六事十二字は、官における者のよろしく守るべき
ところなり」
(注)
敬忠―人を敬い、忠節を尽くすこと。
寛厚―寛大にして重厚であること。
信義―人から信頼され、義に厚いこと。
公平―公明正大で私心なきこと。
廉静―慎ましく利益に心ひかれないこと。
謙抑―人に対して、謙虚で、
自分を抑えていること。
この六事十二字は官吏(人の上に立つ者)のよく
守るべきことである。