「こんな日もあるさ」(その2)
「30代の息子を交通事故で亡くした父親と一緒に、
息子が住んだマンションに行った。
部屋はそのままになっていて、椅子の背には
ジーンズとセーターが掛かっていた。
居間で息子の思い出を聞いた。
私はひとりで部屋を見せて貰った。
少しして父親の姿が見あたらないことに気づき、
部屋をのぞいて回った。
父親はセーターを手に、そこに顔をうずめていた。
私は見てはいけないものを見たような気がして
後ずさった。
私に気がついた父親が顔を上げ、照れたように
笑って言った。
『アイツの匂いがするんです』。
父親はそうやって悲しみに耐えていた。」