いったいいつからこんなに
虫が苦手になったんだろう。

今ではかつては楽しんで
触れた虫達の殆どに触れない。

一体何がそうさせたのか。

そんな今一番
どうでもいい事を
考えながら
僕は寝室に飛び込んだ
一羽の蛾と壮絶な闘いを
繰り広げていた。

片手にはダイソンの掃除機
もう片手にはコロコロクリーナー。

蛾は鱗粉を撒き散らし飛ぶので
壁に押し付けて捕獲は御法度。

しかもすばしっこいので
掃除機の筒の先を壁に
押し付けて逃げられれば
寝室中、壁が筒の丸マークだらけに
なってしまうではないか。

だから
フワッと壁とは1ミリの距離感で
吸い取るしかない。

しかし
なぜここまで気持ち悪がり
怖がっているのだろうか。

昔だったら
手で捕まえて窓から逃がして
はいおしまいだったろうに。

カーテンが
ダークブラウンなので
蛾が同化する。

もうこうなったら
カーテンで捕獲だ。

カーテンなら
あとはつかないし
拭けば鱗粉も取れるはず。

照準はカーテン戦へと
完全シフトチェンジした。

しかし
蛾は思いの外すばしっこい。

今カーテンに止まったと思い
そーっと掃除機を近づけると
気配で逃げる。

その逃げ方が気持ち悪い。

一度顔の方に飛んで来てから
別の壁にとまる。

その度に奇声を発して
逃げる46歳。

それをコロコロを持って
加勢しようとするが
様子のおかしなパパに
腹を抱えて爆笑している娘。

iPhoneプール沈没事件の時の
再来だ。笑

さらに今度は捕獲しようと
掃除機の筒を押す時には
恐怖心を飛ばす為の
独自の雄叫びを発し

それにまた
コロコロを持ちながら
転がって爆笑している娘。

もうこれを20回は
繰り返しただろう。

ある時
完全に蛾を見失なった。

しかし必ずやつは
この部屋の中にいる。

エイリアンの
シガニーウイバーの
気持ちが多少わかる。

娘大爆笑の中
一度リビングに戻り休戦。

しかし
もう寝る時間だ。

娘はソファで眠り始めている。

やつがいるかも知れないが
パパは娘を抱いて行くしかない。

寝室をチェックし
やはりどこにもいない。

格闘中
開けていた窓から出て行ったに
違いないと
ポジティブシンキングで
部屋を暗くし
娘を横にした。

一本メールを返えそうと
真っ暗の中
iPhoneをつけ打ち始めた瞬間!

やつがiPhoneの光に!

ギャー!

再び電気をつけ
格闘再開!

娘よ、すまん、
パパは絶対に勝たなければならない
時があるんだ。

寝起き機嫌の悪い事が多い娘は
第2ラウンドの開始に
泣くかと思いきや意外にも
早速腹を抱えて大爆笑!

毎回寝起き蛾と闘ってれば
いいのか。

敵もさっきのバトルで
疲れているはずだ。

何気に1時間以上
186cmの人間と闘ったんだからな。

逃げ方はさっきと一緒だが
動きは鈍い。

ただ壁を傷つけるや鱗粉の件は
何も解決していない。

娘は笑い続ける。

妻はさらに遠巻きに
笑い続ける。

何一つ笑ってなく
掃除機をマシンガンのように
抱え獲物を狙っている男が一人。

もうそろそろ方をつけたい。

何というコスパの悪さだ。

蛾一羽ごときで
もはや2時間掃除機片手に
格闘している。

費用対効果の悪さは
甚だしい。

そうか。

気配に気づいてるんだから
気配を消せばいいんだ。

気配を消して
何気なくコロコロを
カーテンに止まっている蛾に
あと5ミリまで近づけ
サッと静かに押せば
闘いは終了し
寝室に平和が訪れるのだ。

まずは
カーテンの前をぶつぶつ
独り言を言いながら
行ったり来たりする。

もうまるで
インテリアショップに
カーテンを見に来た単なる客である。

ただ様子がおかしいのは
手に長めのコロコロを持っている
ことぐらいだ。

この遮光カーテンいいわねー

みたいな小声の呟き。

娘は体をよじって笑っている。

妻は蛾からは
安全地帯を確保しながら
笑いながら見ている。

ふ。
笑っているのも今のうちだぜ。

もうすぐ
みんなパパにひれ伏すのさ。

完全なるカーテンを見に来た客
を演じながら
蛾に対しては
お前なんか気づいてもないし
気づいていたとしても見ねーし
と恋愛シミュレーションSNSゲーム
では時には言われたいだろう台詞
の気持ちを持ちながら

そーっと
コロコロの粘着面を
やつの5ミリまで近づけた!

しかし
相変わらず
完全なる
ウインドウショッピング状態。

どうしようかな~
カーテンの色決めってむずか
うりゃーーっ。

獲ったどー!

蛾獲ったどー!

倒れて笑う母娘。

早速
妻が持って来た
コンビニ袋に入れた!

室井さん
確保しました。

さあ
散々
人のマヌケな奮闘ぶりを
笑って見ていた諸君見たまえ!

まず娘に近づけると
今の今まで笑い転げていたくせに

やだ!やだ!

とビニールをマジ怒りで拒絶。

ママに近づければ

いいから

と四文字で処理。

僕の頭の中では
蛾入りコンビニ袋を
高々と掲げた
僕の両足に妻も娘も
すがるという
スターウォーズポスター的な絵を
イメージしていたのだが

ただ一人で掲げておしまい。

ま、でも
あれだけビビって
あれだけ騒いで
2時間じゃね。

一体いつから
こんな虫ごときに
ビビるようになったのだろう。

でも
あんなに妻と娘を
腹の底から笑わせたんだから
いっか。

おちまさと

photo:01


この形で
銅像を作って
今日の栄誉を称えて欲しい。

津波が何もなく平和なハワイの家に
突如現れた悪夢のオアフ決戦。

勝利の美酒に酔いたい気分だ。


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