人間なんて

本当にいい加減な

生き物である。


今の今まで

素敵な人と思っていても

『百年の恋も冷める』ともいうように

たった一秒で

その印象や関係などが

180度真逆に振れることもある。


それは異性や恋人だけではなく

同性でもあるのではないだろうか。


そんな象徴的なシーンを

見たことがある。


場所は成田空港

到着ロビーの男子トイレ。


僕が誰もいないトイレで

小さい方の用を足していると


30歳ぐらいの

一人の男が入ってきて

左隣で用を足し始めた。


するとそこに

もう一人の男が駆け込み

先に入って来た男の

さらに左隣で

用を足し始めた。


3秒ぐらいして

後から入って来た男が

先に入って来た男に

驚いた顔をして


「山田じゃね?」


と声をかけた。


先に入っていたもう一人の男は

隣の男を見て目を見開き


「田中ー!」


と答えた。


別に見ようと思わなくても

こういう感じな時は条件反射的に

意外と一挙手一投足を

見てしまうものである。



「いつぶり?8年ぶりぐらいじゃね?」


「だよな!」


「マジすげー偶然じゃね。

ちょっと感動なんだけど」


「こんなことあんだな!」


この少ない会話から

二人は学生時代か20代前半までに

どこかで同じ釜の飯を食べた

同級生か同僚か

とにかく一時期

深い付き合いをしていたが

それから8年近く全く会わず

久々の感動的出会いを

まさかの成田空港男子トイレで

果たした訳である。


偶然などそんなもんである。


関係ないが

二人の用は足され続けながらの

話である。


もっと関係ないが

私もまだ同じ状況である。

しかし

少し先に入っていた私は

多分二人よりも先に終了することは

想定の範囲内である。


「え?どこ帰り?」


「グァム」


「マジで!俺香港」


何に対しての

「マジで!」かは

さっぱりわからないが

とにかく二人の感動の再会の熱は

用を足すという

とても短い時間だが

グイグイと高まっていく。


「マジかー。いや何か感動じゃね」


「ビックリだよ」


「いや・・・マジなんかすげーよ。こういうの」


と後からトイレに入って来た「マジ」連発男が

感動に浸り

4秒ぐらい二人が

いい感じの沈黙した直後に


それは起こった。


「ブー」


この空気の中

意外中の意外

先に入っていた男が

おならをしたのだ。


こればかりは

想定外。


すると

「マジ」男が2秒ぐらいして


「・・・ないわぁ」


と言った。笑


さらに


「・・・ないだろ。この感じの中」


本当にそうだ。笑


関係ない僕でさえ

心の中で

「えーーー・・・」

と嘆いたくらいだ。


「ごめんごめん(笑)」


いやいやいや


軽いなーこいつ。


「いや。ごめんとかそういう・・・ないわぁ」


ホント、その通りだよ。


さっきまでの

8年ぶりの偶然の感動の再会ムードは

どっかに吹き飛び

一瞬にして暗雲が垂れこみ始めた。


僕はちょうど用が終了したので

その幸せも束の間

一転した地獄の中から

息を止め続け

スーツケースの回転台に

向かいながらも

早くこの話を妻に伝えようと

半笑いになる自分の顔を

何とか抑えながら

足早に階段を下りて行った。


あの後

彼らはどうなったんだろうか。


一秒前の世界のままなら

多分さらに偶然の意味を

色濃くしながら

携帯の赤外線の一つでも

交わしたに違いない。


しかし

一人のメルトダウンによって

全ては水泡と化した。


(「メルトダウン」という言葉は

“予期せぬ脱糞”という意味もあり。

念のため。)


あの後

二人は「マジ男」が折れる形で

一応の体裁を整え


「またな」


ぐらいなことを言い

それぞれのスーツケースを

取りに行ったに違いない。


しかし

メルトダウンした方は

デリカシーがなさそうだったし

よくよく思い出せば

そこまで「偶然の出会い」という度合は

薄かったように見受けられる。


問題は田中だ。


やっと今

彼らの名前を思い出した。


早々にわかりやすい

名前という情報があったにも関わらず

出来事のインパクトで

先に入った男とか

マジ連発男とか書いていたが


田中と山田ではないか。


そんなことはどうでもいい。

田中は


「またな」


と山田に背中を向けた瞬間


もう一度

呟いたに違いない。


「ないわぁ」



ま、ないな、あれは。


このように

人間などいい加減なもので

たった一秒でガラリと

真逆にもなるという教訓的な話である。


少々

画が汚いが。


しかしだ。


僕はブランディング・プロデュースも

仕事の一つである。


この画が汚いエピソードから

もう一つ何が言えるかと言えば


「この真逆もできる」


ということである。


最悪な時点からの

180度真逆への

最高のブランディング。


最初から書いているように


人間なんていい加減な生き物


なのだ。


だから


どん底だろうが

負けっぱなしだろうが


ブランディング・プロデュース


でオセロの黒は

一気に白へと返されていく。


もうお分かりだろうが


今の日本も


プロデュースの再構築により

一気に勝ちへと転ずることもありえる

ということである。


とか最後に書いているが


いつか書こうと忘れていた

田中と山田の話を

書きたかっただけである。


おちまさと


あの二人

何か同窓会とかで

再会してないかなぁ。


山田は照れもなく

すっかり自分のメルトダウンを

忘れてるんだろうなぁ。


田中は図々しいように見えて

デリケートだろうし

「こいつ偶然会ったときよ」

とみんなに言おうと

ずっと思って来たのに

当日になったら意外と言えない

いや言わないでいいじゃん

逆に言わない方がいい

みたいな何の逆だか

わからないが

自分の理論武装して

へらへら笑って

とりあえず楽しく同窓会を

過ごすんだろうなぁ


とか

何をこんなに

田中と山田のことを

考えてるんだろう。


どこの誰かも知らないのに。



ないわぁ。