大将は、大納言邸に入りびたりの女君に代わって三条邸で若君(息子)たちの世話をしていた。

死の穢れに遭うと三十日間の物忌をしなくてはならないため、女君と一緒に喪に服すことができなかったのだ。

「立っていると穢れを避けられる」というので、日々 故大納言邸を訪れた。死の穢れを避けるために立ったまま女君に対面し、父の死を悼む女君の姿を見て泣き悲しんだ。大納言の死後の葬儀のことなども、「穢れが何だ、私が手配しよう」とするけれど、父の右大臣に

「新しい帝が即位して間もないのに、死の穢れを落すために長々といらぬ暇をいただくのは、本当によくないことだ」

と切にたしなめられた。

女君も、

「幼い子供たちをわたくしの実家に迎え入れれば、子供達も物忌をしなくてはなりません。それはかわいそうなことです。

ですが、あなたがこちらにいらして、子供だけ三条邸に残すのも心配です。

お願いですから、あなたはお籠りにならないでください。」

と言うので、大将は自分の屋敷で、慣れない一人住みをしていた。女君が居ないので、子供達の相手をして遊びながら、寂しい思いをしていた。

そして、大納言が位を得てすぐに死んでしまったことを鑑みては、

「思ったことを急いでしてさしあげて、本当によかった」

と思った。

 

大納言邸では、葬儀にふさわしい日取りだというので、大納言の死の三日後に葬式をすることに決めた。大将が参列すると聞いて、四位や五位の貴族達の大勢が参列に加わり、立派な葬送となった。

「本当に、大納言が生前に言っていたように、死後も幸せなことだ」

人々はそう、口々に言った。

 

 

 * * * * *

 

 

題名に「寂しがりやの大将」とでもつけてやろうかと思いました。

父親が死んで喪に服さなくてはならないのは女君だけですが、死の穢れにあたると大将まで物忌をしなくてはなりません。

ただでさえ女君は大納言の看病で三条邸にいなかったのに、大納言の死後は死の穢れのために四六時中 女君に会うこともかないません。

女房がたくさんいるとはいえ、子供の面倒を見る必要もありますしね。

大将、気分はすっかり男やもめです。

女君のことが大好きだとは知っていましたが、ここまでとは。

 

葬式なら参列しても穢れにはならなかったのでしょうか。

大将は、自分が参列することで多くの貴族が参列するように仕向けます。

豪勢な葬式は、大納言に対する最後の手向けだったのでしょうね。


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人形かわいがるなら、子供かわいがりますよね。

女君はこれを聞いて、ひどく北の方をあわれんだ。

「北の方のおっしゃることはもっともですわ。わたくしたちには、何も残してくださいますな。ましてや、あちらのお屋敷には大勢の方が住んでいらっしゃいます。今さら慣れぬ場所に引っ越させるなんて、おかわいそうではありませんか。地券は北の方やそのお子様に差し上げてください。」

と強く言うが、大納言は

「わしがあなたに差し上げたものを、他の人に与えることはできません。わしが死んだら、あなたの好きなようにしてください。」

と言って耳を貸さない。

よい石帯など、まれにあってもみな大将に差し上げてしまう。

越前守は

「やりすぎじゃないだろうか?」

とも思ったが、親が気に入った相手のことだから、特に口は出さない。

 

大納言はやるべきことは全て良いように処理し、何事につけても女君への感謝をしめして

「あなたのおかげで、私はとても日の目を見る事ができました。」

と何度も何度も繰り返し、「出来の悪い娘たちがたくさんおります。どうか、どうかよろしくお世話してください。」と頼んだ。

女君は

「承知いたしました。どうして姉妹の方々を見捨てておけましょう。私のできる限りのことはさせていただきます。」

と答え、大納言は「嬉しい」と喜んだ。

 

大納言は

「娘たちよ、女君のお言葉に従いなさい。女君をお慕い申し上げなさい。」

と娘たちに言い置きながらも徐々に体が弱っていくので、誰も彼もが嘆き悲しむ。

そしてついに、七日にお亡くなりになった。

十一月のことであった。

惜しまれる年齢ではなく、老衰で死ぬのは道理と思われていた。

それでも子供達や仕えている者たちが男も女も集まって、大納言の死を惜しんで嘆いていた様子も、本当にあわれだった。

 

 

 * * * * *

 

 

とうとう大納言がご臨終しました。

末期の願いを女君に託し、心残りも後の憂いもなくし、当時からすればかなりの長寿でしたから、もう文句なしの大往生なのでしょう。

女君も、父に頼られて嬉しかったようですし。

 

死の直前の大納言は、女君が断っても、良いものを残そうとします。

越前守は、あまりの父の婿びいきに多少思うところがあるようですが、死を間近にした大納言に何を言っても仕方がないとあきらめています。

それほどまでに、大納言は女君を思って世を去っていったのですね。


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しかし大納言は、

「子供のことを心配していないわけではない。しかし、この屋敷が無くても路頭に迷うことにはならないだろう。私が長く中納言の位にいた、その身分相応には娘たちを世話しなさい。遺産が足りなくなっても、他の兄弟が面倒をみてくれるだろう。越前守、私の変わりに姉妹の世話をなさい。

それから、三条邸がうちの家だって?とんでもない!本来は女君の持ち物だ。

大将殿も、私が少しばかりの気のきいた品を残すことなく死ねば、『大したことのない者だった』とお思いになるだろう。もう、何を言おうとお前に家は残さない。今日明日とも分からないこの身を恨んでくれるな。

しゃべらせないでくれ、苦しい」

と言うので、北の方はまた文句を言おうと口を開くが、子供達があつまってきて止めたので、何か言うことはできなかった。

 

 

 * * * * *

 

 

大将に恩を返すことばかりを考える大納言は、北の方の不安が耳に入りません。

きっと息子たちがよく世話をするだろう、それ相応の生活はできるだろう。

なら、他の物は特に持っておく必要はないだろう。

・・・これが、大納言の思考回路のようです。

ずいぶん楽天的ですね。

さすがというか何というか・・・。

怒りがおさまらない北の方がさらに追撃をかけようとしますが、子供総出で止められてしまいます。

七人産んでおいてよかったですね、さすがの北の方も七人いれば止められるようですから・・・。

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北の方は

「おっしゃることはその通りかもしれませんけれど、どうしてそれを恨まずにいられましょう。私は若いころからあなたの妻として連れ添い、あなたが六十、七十歳になるまでお世話し、また主として頼りにしていました。あなたの子供だって、七人も産みました。なのにどうしてこの屋敷を私にくれないのです。

あなたは子供たちが孝行しなかったからと言って見捨てるのですか。むしろ人の親というものは、『まったく幸運にありつけなかった我が子は、わたしの死後にどうなることだろう』と心配するものでしょう。

それに、大将殿にいたっては、この屋敷をもらわなくったって痛くもかゆくもありませんよ。三つでも四つでもいくらでも家を建てるに違いありません。第一あの玉のように美しい三条邸だって、うちが作ってあげたものじゃありませんか。

息子たちはいいでしょう。夫がいる娘たちも、それ相応の屋敷を持っている子はいませんが、それでもいざという時には夫にすがれるからいいでしょう。

ですが、この私と、夫がいない三の君と四の君はどうなるというのです。『ここを出て行け』と大将や女君に追い出されたら、どこに行けばよいというのです。往来に立って、路頭に迷えとでも言うのですか。

無茶なことを言わないで下さい。」

と言い続けて泣いた。

 

 

 * * * * *

 

 

家まで大将に差し出すと聞いて、北の方は狂わんばかりに泣き叫びます。

息子はいい。もうひとり立ちできるから。

夫がいる娘もいい。夫に頼ればいいから。

しかし、北の方自身と、離婚されてしまった三の君、夫(面白の駒)を追い返してしまった四の君には、頼れる相手などいません。

もしも屋敷まで女君の手に渡ったら、また今までいじめ抜いた仕返しをされるかもしれません。

女君がしなくたって、大将がするかもしれません。

そもそも、女君の情けで生かされるなど、北の方にとっては屈辱以外の何ものでもありません。

断固抗議する北の方ですが・・・

 

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大納言の体は看病の甲斐もなく弱っていった。

大納言は

「私が生きている時に、遺産の処分を決めてしまおう。どうやら私の息子たちは兄弟思いではないようだし、娘どうしでもよそよそしいようだ。きっと私が死んだときに、遺産のことで恨みごとが出てくるだろう。」

と思い、生きているうちに財産を分配することに決めた。

長男の越前守などを枕元に呼び寄せて、所有している荘園の地券や石帯(革地に装飾が施された帯)などを取り出しては指示を出して分配させた。少しでもよい物は、ただ大将の妻である女君にばかり差し上げて、

「他の子は、これを見て女君をうらやましいなどと思ってはいけない。同じくらい力を入れて、親孝行をした子は他にはいない。それに、少しでも人より飛びぬけた存在には相応に良いものを取らせるものだ。こうして長い年月、面倒を見てきただけでも、恩にきなさい。」

ともっともらしい顔で言う。

子供たちも、これから先にも大将と女君の世話になることがみえていたので、「それが道理だ」と納得した。

「この家も古くこそはあるが、広くていい屋敷だ。」

そう言って大納言が屋敷さえも女君へとさしあげると、北の方はこれを聞いて泣いた。

 

 

 * * * * *

 

 

死期を悟った大納言は、後のいさかいをなくすために遺言を残しました。

内容は女君ばかりにいい物が偏って、公平とは言えません。

しかし子供達は、「今後も女君の世話になるだろう」と期待しているので、今のうちから優遇して、女君の心が離れないようにしておいた方が得策だと思って異論をとなえずにいるようです。大納言の子供達には、とくに女君に「してあげられること」なんてないのですから。

 

しかし、玉の輿に乗った女君には遺産などこれっぽっちも必要ありません。

女君は大納言の愛用品をひとつほどもらえれば、これが形見と故人をしのぶような人です。

あれこれもらっても、義理の兄弟を思って心苦しいばかりなのです。

 

そんな女君の心も知らず、家屋敷までも女君に遺すと言う大納言。

とうとう北の方は泣きわめきます・・・

 

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