北の方は

「おっしゃることはその通りかもしれませんけれど、どうしてそれを恨まずにいられましょう。私は若いころからあなたの妻として連れ添い、あなたが六十、七十歳になるまでお世話し、また主として頼りにしていました。あなたの子供だって、七人も産みました。なのにどうしてこの屋敷を私にくれないのです。

あなたは子供たちが孝行しなかったからと言って見捨てるのですか。むしろ人の親というものは、『まったく幸運にありつけなかった我が子は、わたしの死後にどうなることだろう』と心配するものでしょう。

それに、大将殿にいたっては、この屋敷をもらわなくったって痛くもかゆくもありませんよ。三つでも四つでもいくらでも家を建てるに違いありません。第一あの玉のように美しい三条邸だって、うちが作ってあげたものじゃありませんか。

息子たちはいいでしょう。夫がいる娘たちも、それ相応の屋敷を持っている子はいませんが、それでもいざという時には夫にすがれるからいいでしょう。

ですが、この私と、夫がいない三の君と四の君はどうなるというのです。『ここを出て行け』と大将や女君に追い出されたら、どこに行けばよいというのです。往来に立って、路頭に迷えとでも言うのですか。

無茶なことを言わないで下さい。」

と言い続けて泣いた。

 

 

 * * * * *

 

 

家まで大将に差し出すと聞いて、北の方は狂わんばかりに泣き叫びます。

息子はいい。もうひとり立ちできるから。

夫がいる娘もいい。夫に頼ればいいから。

しかし、北の方自身と、離婚されてしまった三の君、夫(面白の駒)を追い返してしまった四の君には、頼れる相手などいません。

もしも屋敷まで女君の手に渡ったら、また今までいじめ抜いた仕返しをされるかもしれません。

女君がしなくたって、大将がするかもしれません。

そもそも、女君の情けで生かされるなど、北の方にとっては屈辱以外の何ものでもありません。

断固抗議する北の方ですが・・・

 

↓北の方の攻略本

サバイバル・プレゼンテーション―抗議・反駁・提案・報告…あらゆる交渉に「勝つ」100のテクニック/入部 明子

¥2,604

Amazon.co.jp