行動を減らすということ その5 先行子の操作 | わんこも、そして飼い主さんも

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「行動を減らす」をテーマにしたシリーズ記事、第5回目です。

ここ数年「褒めることが大事だ」という考え方は、随分と浸透してきていると感じますが、その一方で「きちんと叱らないといけない」という考え方も根強く、「叱るという方法以外でも、行動を減らすことはできる」ということをお伝えしたくて、これまで書いてきています。

さて、今日ご紹介するのは「先行子の操作」と呼ばれるものです。
「先行子」なんて言葉は、ほとんど聞いたことがないと思います。
「行動に先行する刺激」という意味で、簡単にいえば「行動が起こるきっかけ」です。
つまり、「先行子の操作」とは、「行動のきっかけを取り除くなどして、問題のある行動が起こらないようにしちゃおう」という考え方です。
これは、「イタズラの防止」などでは、ごく一般的に取り入れられている考え方ですね。

行動の流れを書くときに、「きっかけ→行動→結果」という3つに分解して書く書き方があります。
専門的には「三項随伴性」と呼ばれるものですが、それを踏まえて「イタズラ」行動を見てみましょう。

たとえば、「くつ下を噛んで遊ぶ」というイタズラが起こる流れは、↓のようになっています。

 くつ下がある→噛む→遊べて楽しい or 飼い主がやって来る

この時、「くつ下を噛むのは、悪いことだ」と教えなくてはいけないと考え、「くつ下を噛んでいるところを見つけたら、現行犯で叱る」という対応が紹介されることがあります。
しかし、ほとんどの犬にとって「飼い主が側に来て、注目してくれる」というのは、ご褒美として作用しやすいようです。
叱ったつもりが、結果的に褒めたのと同じようなことになる」ということ。

 「くつ下を噛むと、自分のところに来てくれるぞ。
  そうか、くつ下を噛めば、寂しくなくなるんだ!」

こんな風に犬が考えているかどうかはわかりませんが、ひょっとしたら考えているかもしれません。
つまり「無視されて、放っておかれるより、ちょっと小言を言われるぐらいの方がマシだ」と、犬が学習する可能性があるわけですね。

これは、このシリーズ記事1回目にも書いた「犬を叱ることのリスクや問題点 」の中にある「どんな学習をするかわからない」「中途半端な『叱り』はかえってご褒美になる」の2つに該当します。
犬は「叱られる=ご褒美」と誤った学習をするわけですから、ますます「イタズラ」は増えるわけですね。

こうした「イタズラの問題」は、飼い主さんが目を離したときに起こることが多く、「即時、その場での対応」というのが困難です。※1
留守番中に、起こったりもしますしね。※2

よって、「きっかけとなっているものを取り除く(先行子の操作)」という対応が、重要になるわけです。

「トイレのしつけ」も、この考え方の応用でうまくいきます。
特に「トイレのしつけ」は、「失敗を叱ると、隠れてするようになる」という新たな問題が発生する可能性が高くなります。
これもまた「叱るという対応のリスク」ですね。

もちろん、「どんな行動でも、きっかけを取り除くことで解消する」とは言えません。
しかし、「きっかけを取り除くことができるのに、それをせずに『叱る』という対応を選択するのは、よろしくない」ということを、是非知っておいていただきたいと思います。

また、先行子の操作には、「問題のある行動のきっかけを取り除く」だけではなく、「適切な行動が起こるようなきっかけを用意する」という対応も含まれます
トイレのしつけは、その両方を同時に行うことで、「失敗を防ぐ」「成功回数を増やす」という2つを実現し、「正しい学習をさせていく」ことを目指します。
これはつまり、「問題のある行動を出来るだけ起こらないようにして、適切な行動や学習ができるように環境を整える」ということになります。
これは、すごーく大事なことですので、是非覚えていただきたいことです。
すべてのしつけ、問題行動への対処の基本にもなる考え方です。

つまり、「トイレのしつけ」は、しつけの基本が全部詰まってます。
ということは、「トイレのしつけができる」わんこと飼い主さんは、「どんなしつけでもできるはず」です。

ただ、こういったアドバイスをすると、「ずっときっかけ、つまり『イタズラの原因になるようなもの』は、片付け続けないといけないんですか?それは、ちょっと面倒です…」ということを言われる方もいらっしゃいます。
それについては、次回の「行動を減らすということ その6 分化強化」でお話したいと思います。



※1
「即時・その場での対応」ができたとしても、「どんな学習をするかわからない」「中途半端な『叱り』は、かえってごほうびになる」というリスクはなくなりません。
むしろ増大します。


※2
基本的に「留守中や、庭で放しているときなど、『見ていないときの行動』を、飼い主自身がコントロールすること」は、先行子の操作をせずしては無理だと考えておいた方が無難です。
「何度も叱って注意していれば、犬が反省してやらなくなるんじゃないか?」という考え方は、気持ちはわかりますが、犬には通じないと思います。
仮に「いや、うちの犬はそれで反省して、やらなくなったよ」という方がいらっしゃったとしても、別の要因によってそういう犬になった(反省したわけではない)か、ものすごくレアなケース(たまたま、そういう学習ができる犬だった…個人的には無理だと思う)ということになると思います。
それでも「うちの犬は、反省している様子を見せるよ」という方もいらっしゃいますが、「反省の様子を見せた後で、また同じことを繰り返している場合」は、反省していることにはなりませんよね。
それは「反省しているように見える行動」を、しているだけです。