トレーナー心得 その4
「具体的に説明する」
飼い主さんに対して、何かを説明しようとする時には、「具体的に」説明することを心掛けています。
心得その3
でも書いた、「判断の根拠を明確にする」とも繋がる話でもあります。
世の中には、いわゆる「精神論」と呼ばれるものがありますね。
「気合い」や「根性」といったもので、物事に当たっていこうとする考え方になるでしょうか。
犬のしつけにおいても、そういった説明は少なくありません。
たとえば、こんなアドバイスを目にすることがあります。
「飼い主が、強く『変わって欲しい』と想えば、
犬はきっと変わってくれます」
「しっかりと愛情を注げば、しつけはうまくいきます」
「最後は飼い主さんの信念、気合いです。
そこで負けてはいけません」
あるいは、こんなアドバイスもあります。
「犬の気持ちや心を、きちんと理解しましょう。
その上でしつけをしていかないと、うまくいきません」
こういったアドバイスは聞こえも良いですし、なんとなく「わかった気になる」ものです。
しかし、少し考えてみると、どうも変なことになってしまいます。
たとえば「強く『変わって欲しい』と想えば、犬は変わる」というアドバイス。
これは言い換えれば、「犬が変わらないということは、飼い主の想いが弱い」ということになります。
でも、そもそも「強い想いって何?」という疑問がわきますね。
また、「犬の気持ちや心を、きちんと理解する」というもの。
これなんかは、なんとなく「ハートフル」というか、あたたかい感じがしますね。
それに、もっともらしくもある。
でもね、言葉を持たない犬の気持ちや心なんて、究極にはどう頑張ってもわからないんです。
怒ってるのか、悲しんでるのか、喜んでるのか、楽しんでるのか…
推測することはできます。
でも、「はっきりとわかる」ことは、残念ながら不可能です。
言葉が通じる人間同士だって、「相手の心がわかる」なんてことは、ありえないわけですから。
それと、心理学をやっている人間から言わせてもらえれば、簡単に「相手の心がわかる」だなんて言ってほしくありません。
もしもそんなことが可能なら、すぐに発表すべきです。
ノーベル賞どころの騒ぎではありませんから。
あまりに簡単に「犬の心」というものを、扱いすぎです。
犬に対して失礼です。
でもこれは、「どうせわからないから、考えても無駄だ」という話ではありません。
「わからないという前提に立って、ではそこからどうするのか?を、しっかり考えよう」という話です。
「気持ち」とか「気合い」とか、そういった「精神論」には実体がありません。
ちょっとつつくと、途端に「実はなんにもわかってない」ってことが、はっきりと見えてしまいます。
そして飼い主さんが求めているのは、実体のある、具体的なアドバイスです。
「今、何をすべきなのか?」
「何故、それをすべきなのか?」
「それをしたら、どうなるのか?」
こういった、「具体的な行動と、それに伴う結果、さらにその根拠」を、きちんと具体的に説明する。
専門職であるトレーナーが、「最後はあなたの頑張り次第」なんていう、抽象的な精神論で仕事をしてはいけないと常に考えています。