トレーナー心得 その5
「できないことはやらせない」
これは、犬と飼い主さん、両者に共通する心得です。
飼い主さんにアドバイスしたときに、「それは抵抗がある」とか、「ちょっと私には無理です。できそうもありません」といった言葉が返ってくることがあります。
本当は、アドバイス通りにやってもらうことが一番の近道なのですが、飼い主さん的にはNGというのは、割とよくある話なんですね。
犬も同様で、いきなり難しいことにチャレンジさせても、うまくいきません。
たとえば「チャイムにものすごく吠える犬」に対して、いきなり「チャイムが鳴っても、一切吠えない」なんていうことを達成させることは、なかなか困難です。
そんなとき、僕は「できないことは、やらなくていいです」と必ず伝えます。
人によっては、「できないことにチャレンジをするから、成長するんだ」ということをおっしゃる方も、いるかと思います。
確かにそれはそうなのかな?とも思いますが、実はこの「できないことは、やらなくていい」という考えには根拠があります。
行動分析学の中に「スモールステップ」という考え方があります。
何か新しい行動や技術を身につけようとするとき、誰でもすぐにはうまくできません。
なにせはじめてのことですから、当然です。
そんな時に「失敗の連続」に出会ってしまうと、前に進めなくなってしまいます。
そこで、そういった「失敗の連続」にならないよう、細かく細かく目標を設定するんですね。
たとえば、「ダイエット」を考えてみましょうか。
ダイエットのために、「食事制限」「間食は一切無し」「30分のジョギング」「筋トレ」「ストレッチ」といったことを、「毎日やりなさい」と言われても、なかなかできることではありません。
これだけのことをやれば、そりゃ痩せるのは間違いありません。
でも、続かなかったら意味がないですよね。
しつけも同じで、続かなかったら意味がないんです。
そこで効いてくるのが、「スモールステップ」という考え方です。
たとえば、上に挙げたダイエットメニューの中の、どれか一つだけでも始めてみる。
それも、一番楽なもの。
あるいは、それでも無理だったら、更に条件を落として「とりあえず、一日10分歩いてみる」とか、「間食は2日に1回にする」とか、そういった「始めやすいことを、始めてみる」という具合に、細かく目標を設定するわけです。
無理をせず、楽に続ける。
これが、一番の「しつけのコツ」です。
そのためには、「できないことは、やらない」「できることを、やる」が、大切だと思います。
そしてトレーナーは、その「できること」を、探して提案する仕事だと考えています。