幻妙な話
 
脚本家の山田さんが体験したり見聞きしたふしぎな話やこわい話。初版1992年。

怪談というより怪談エッセイ。わたしは怪談エッセイが好きなのでとっても楽しかったです。登場人物のほとんどが実名で書かれています。

最初のページに
 
『本書にはホントのことしか書かれていない。』
 
とあります。
ここに書かれていることは、原因はなんであれ実際にあったんだろうなあと思えるような話ばかりです。ベースが日常にあるというか、起きたことが想像できる感じがします。怖いというよりこんなことが起こるんだなとふしぎな気持ちになるような話が多かったです。
 
気になるのは、千葉県香取郡大栄町地蔵ヶ原(今は成田市のようです)にある十三塚に金銀が埋まっているという伝説。

昭和25年7月31日の「千葉新聞」の記事によると、金銀埋蔵の伝説に興味を持った村長が試掘をはじめたところ、村長と試掘をしていた人たちが高熱を出して苦しみはじめたので発掘は中止にしたそうです。ちなみに中止にしたら熱は下がりました。

現在この場所がどうなっているのか検索してみると、心霊スポットといわれているようでした。塚ですし掘ったら高熱に苦しんだといういわくもあるので、まあ、予想通りといえば予想通り。それにしても、その後、ここを掘ったひとはいるのだろうか……。
 
この本では、幕末に幕府が保有した船の美加保丸に積まれていた莫大な軍資金が埋まっているのでは……と匂わせています。カムイ夫人という相当な能力者の霊視によると、美加保丸に積んでいた軍資金は、黒生の浜の近くの小高い丘とも塚とも見られる場所に、三人の水夫とともに金銀が三箇の千両箱に入って埋まっているらしいのです。それがこの塚なのではないかと。ロマンです。
 
印象に残ったのは、旅館で働いている女性が語った身の上話。十三人家族だったけれど、ある年から一年に一度スケジュールをたてたかのように家族が亡くなっていったんだそうです。そしてひとりぼっちに……。

本当の話なのかわかりませんが、本当じゃなくても怖さは変わらないです。このような身の上話を語ること自体が怖いです。 
 
もし仮にそんな女性はいなくて山田さんが本のために創作した話だと想像すると、それはそれでおもしろいとは思うけど、なぜかそこまでの怖さは感じないんです。それが旅館で働く女性が、ふと聞かせてくれた身の上話だと思えると、例えその女性の作り話や妄想かもしれなくても、不気味さを感じます……。そんな話をする女性の心境がこわいです。
 
そのあたりがわたしが感じる実話怪談の魅力のひとつなのかもしれないなと思いました。