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フルトヴェングラーの没後半世紀以上の現在、「もう新しい音源は出てこないだろう」と考えられる一方で、数少ないながらも、いまだに新発見の音源が商品化されて、ファンたちを喜ばせている。最近のそのいくつかがルツェルン音楽祭での録音である。ただし、録音状態が悪く、断片しか残されていない曲もある。

ルツェルン音楽祭では、病気になった1952年を除いて、1944年から1954年まで、同一内容のも数えて22回の演奏会でフルトヴェングラーが指揮をした。★は録音が残されてLP、CD化されたことを示す。尚、フィルハーモニア管弦楽団と演奏した1954年以外、全てルツェルン音楽祭管弦楽団である。新聞記事 the Luzerner Tagblatt und Zentralschweizerischer Generalanzeigerからの引用は、仏フルトヴェングラー協会(仏フ協会)のHPからである。

1944年8月22日
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
・シューマン:交響曲第4番
・R. シュトラウス:ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら
・ワーグナー:『パルシファル』から「聖金曜日」
・ワーグナー:『タンホイザー』序曲

1944年9月6日
・ベートーヴェン:交響曲第1番
・ベートーヴェン:序曲『レオノーレ』第2番
・ベートーヴェン:交響曲第3番『英雄』

1947年8月20日
・ブラームス:ドイツ・レクイエム(soloists: Elisabeth Schwarzkopf and Hans Hotter)★

1947年8月27日
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番(soloist: Adrian Aeschbacher)★
・ベートーヴェン:序曲『レオノーレ』第3番★
・ブラームス:交響曲第1番★

1947年8月30日
・ワーグナー:『ローエングリン』第1幕への前奏曲
・ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲(soloist: Yehudi Menuhin)
・ブラームス:交響曲第1番

1948年8月18日
・ワーグナー:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』前奏曲(★抜粋)
・ワーグナー:ジークフリート牧歌(★冒頭約2分)
・ワーグナー:『神々の黄昏』から「ジークフリートの葬送行進曲」
・ブルックナー:交響曲第4番

1948年8月28日、29日
・ベートーヴェン:交響曲第9番『合唱』
(soloists: Elisabeth Schwarzkopf, Elsa Cavelti, Ernst Häfliger and Paul Schöffler)

1948年8月30日
・ベートーヴェン:交響曲第1番
・ワーグナー:『神々の黄昏』から「ジークフリートの葬送行進曲」
・ワーグナー:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』前奏曲

1949年8月24日
・ブラームス:二重協奏曲 (soloists: Wolfgang Schneiderhan and Enrico Mainardi)★
・R. シュトラウス:ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら(録音は存在)
・チャイコフスキー:交響曲第4番★

1949年8月27日、28日
・ハイドン:オラトリオ『天地創造』(soloists: Irmgard Seefried, Boris Christoff, etc.)

1950年8月9日
・グルック『アルチェステ』序曲
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
・ヒンデミット:ヴィオラ協奏曲『白鳥を焼く男』(soloist: William Primrose)
・ベートーヴェン:交響曲第5番『運命』

1950年8月26日、27日
・ベルリオーズ:『ファウストの劫罰』★
(soloists: Elisabeth Schwarzkopf, Hans Hotter and Alois Pernerstorfer)

1951年8月15日
・ウェーバー:『魔弾の射手』序曲
・バルトーク:管弦楽のための協奏曲
・ベートーヴェン:交響曲第7番(★第2楽章リハーサルのみ)

1951年8月25日
・ワーグナー:『神々の黄昏』抜粋
(soloists: Astrid Varnay, Wilma Lipp, Heinz Rehfuss and Josef Greindl)

1953年8月22日
・ヘンデル:コンチェルト・グロッソ第10番
・ヒンデミット:『世界の調和』
・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 (soloist: Edwin Fischer)

1953年8月26日
・シューマン:『マンフレッド』序曲★
・シューマン:交響曲第4番★
・ベートーヴェン:交響曲第3番『英雄』★

"In the trio of the scherzo of the Schumann Fourth symphony, the first violin, Michel Schwalbe, distinguished himself as soloist and embroidered the dreamlike theme with graceful garlands."

「シューマンの交響曲第4番におけるスケルツォのトリオでは、第1ヴァイオリンのミシェル・シュヴァルベがソリストとして弾いていることがはっきりとわかり、優雅な花輪がある夢のような主題を織り込んでいた。」

1954年8月21日、22日
・ベートーヴェン:交響曲第9番『合唱』(★22日)
(soloists: Elisabeth Schwarzkopf, Elsa Cavelti, Ernst Häfliger and Otto Edelmann)
フィルハーモニア管弦楽団

"This was a very special present for all music lovers. With the London orchestra Furtwängler emphasized the dramatic nature of this symphony as he had done six years earlier with our own Festival orchestra. He highlighted the melodic nature of the music, as Wagner had himself done in exactly the same place, and the work consequently greatly gained in clarity and intensity. In the finale the ecstatic nature of the music came to the forefront, as if it wanted to tell the audience that if offered `passage into a better world'."

「これは全ての音楽愛好家にとってとても特別な贈り物だった。ロンドンのオーケストラと共に、フルトヴェングラーは、彼が6年前に私たちの音楽祭管弦楽団と共にやり遂げたように、この交響曲の劇的な性質を際立たせた。ワーグナーがやったことと全く同じように、彼はこの音楽の旋律を目立たさせて、その結果、素晴らしいことに、この作品は明晰さと激しさを獲得した。終楽章では恍惚とするような音楽の本質が前面に現れた。まるで聴衆に、まるで「より良い世界への楽節」がもたらされたと告げたいかのようだった。」

1954年8月25日
・ハイドン:交響曲第88番
・ブルックナー:交響曲第7番
フィルハーモニア管弦楽団

"Furtwängler has already proved in previous years that he is a great conductor of Bruckner: the coda for instance, in the first and last movements, the inner tension and the sound dream in the slow movement, the liveliness in the scherzo, are all worth being mentioned... But in the soft passages, the sound quality of the woodwinds was a little thick and the trumpet's announcement of the scherzo was too loud to be completely acceptable..."

「フルトヴェングラーが偉大なブルックナーの指揮者であることが以前から証明され続けている。例えば、第1楽章と最後の楽章でのコーダや、緩徐楽章での内在された緊張感と夢のような響き、スケルツォでの生命感は、十分に言及するに値する。しかし、柔らかなパッセージにおいて、木管楽器の音の質は少し硬いし、トランペットの音は完全に受け入れるには大きすぎた…」


録音状態がとても良く、ほとんどストレスなく聴けるのは、1947年8月27日、1953年と1954年の演奏ぐらいではないだろうか。ただ、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』ような巨匠によるこの曲唯一の録音がある。録音が出てきていないながらも、この音楽祭ではハイドンの『天地創造』、バルトークの管弦楽のための協奏曲などの珍しい作品を取り上げているので、ファンによる「無い物ねだり」の気持ちを刺激している。

1949年8月24日に演奏されたR. シュトラウスの『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』については、同じ日に演奏されたチャイコフスキーの交響曲第4番が仏フ協会とフルトヴェングラー・センターが共同でCD化した頃に、センター主催によるレコード・コンサートの休憩時に、「音源は残っているけれどもノイズが多すぎる」というコメントと共に流してもらった。アセテート盤特有のノイズは酷いながらも、とても生きいきした音楽が記録されており、個人的には、チャイコフスキーは「酷いノイズを消さないままリリースして欲しかった」と思う。

1953年の録音は、2017年11月にSACDで発売された時に、『マンフレッド』序曲が新発見だったことと、他の2曲が、以前から知られているよりも格段に音質が良い、失われていたと思われた放送局からの音源だったのでファンを喜ばせた。何度も演奏会をした音楽祭管弦楽団との最後の演奏記録であるばかりではなく、シューマンの2曲については、巨匠による最後の演奏機会になった。

上記の引用記事に書かれたシュヴァルベは、当時、ジュネーブ音楽院の教授だった。フルトヴェングラーの死後、1957年にカラヤンによってベルリンフィルのコンサートマスターに抜擢された。確かに、ライブならではの高揚感が素晴らしいし、それを支えていたのが、この時にコンサートマスターを務めていたミシェル・シュヴァルベだったことを考えると、歴史的な縁だけではなく、芸術的な幸福な出会いがあったことを示す貴重なドキュメントとしての価値を感じる。ただ、音楽監督が鍛え上げたオーケストラではないデメリットはあり、アンサンブルの荒い部分、音質面を考慮するなら、ベルリンフィルとのライブや商業録音の方が、繰り返し聴く鑑賞に堪えると私は考える。

ルツェルンでの最後の演奏についての記事を読むと、巨匠の難聴が進んでいたことを思わせ、心が痛む。聞こえにくくなっていたことが原因で、ザルツブルグでのオペラの上演が困難になってきたり、リハーサルで必要以上にトランペットに大きな音を吹かせたりなど、関係者の証言が残されている。最後の『第九』も、トランペットの音が大きく収録されている。これはマイクの配置だけの問題ではなかったかもしれないとも考えられる。この引用記事で言及されている、ワーグナーによるオーケストレーション変更は、録音で確認することができる。

写真:
1953年8月26日の演奏を全て収めた2 SACD audite 91.441