






この交響曲が録音された1950年頃は、EMIはまだ78回転盤を作っていたので、オリジナル・テープ、78回転盤、LPの3種類の内のどれかが音源になっていると思われる。ベートーヴェンの交響曲第7番とシューベルトの『未完成』交響曲は、小さい音ではあるが女性の声が入ってしまったので、ファンの間で話題になった。ベートーヴェンの交響曲第7番第4楽章の第202小節目以降の弱音部分とシューベルトの『未完成』冒頭である。アメリカのヴィクターから出た初期のLP、LHMV-1008には、女性の声が混入していないと聞いたので聴いてみると、ベートーヴェンの方には女声の声が入っている。シューベルトの『未完成』米LHMV-1020は女性の声が混入していないようである。ベートーヴェンの方は、音質そのものがコピーテープのように音質が落ちているように聞こえる。1950年の古い録音ということで、仕方がない。ジャケットが美しい仏FALP-115も良い音で鳴るが、米LHMV-1008の方が細部の描写に優れている。第4楽章第213小節には、紙の音のような雑音が入っている。楽譜をめくる音と思われるが、女声の声同様、音楽を楽しむ上でそんなに大きな支障はない。音の勢いとリアルさを考慮すると、LPで聴くなら、ディジタルリマスターされたテープを使って没後30周年特別限定盤で東芝EMIから出たWF-50009が良い。
女声の声は、なぜ混入したのだろうか。2011年にSACDが発売された時に、EMIアビイロード・スタジオ エンジニアが、「EMIがテープ録音を始めたのが1949年9月で、このベートーヴェンの交響曲第7番のテープ録音は実験的なものだった。そのため、ディスクカッティング方式と並行して行われ、ひとつのテイクは4~5分であった」と述べている。確かな情報ではないが、残された音などから判断して、女声の声混入は、次のような制作過程が原因だという説がある。「まず、78回転盤の金属盤作成用マスターをテープで収録した後、テープから金属盤を作成しSP盤を作った。次に、金属盤をスタジオで空間的に再生しながら、その音をマイクで拾ってテープに録音してLP用のマスターにした」という。米LHMV-1008でベートーヴェンの交響曲第7番を聴く限り、4~5分の細切れを繋ぎ合わせたような箇所は聞こえない。
『未完成』については、フランスのFALP-317も女声の声の混入がないLPである。『未完成』のドイツ・プレスは第1楽章の冒頭音が若干欠けているが、アメリカ・プレスには欠落はない。
米VictorでカタログナンバーLHMVから始まる番号のレコードの中で、特に傑作といえるのはLHMV-1020である。シューベルトの『未完成』の裏面には、ニコライの『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲とシューベルトの『ロザムンデ』、ウェーバーの『オベロン』序曲が収められている。選曲と曲の順番が素晴らしく、格調高いアルバムとしてよくできている。このLPを聴くと、『ロザムンデ』のバレー音楽第2番と間奏曲第3番は、テープを止めないで、間をおいて次の曲を演奏したようにきこえる。Side 1ではかない美しさを楽しんだ後、Side 2の変化に富んだ音楽を聴くと、充実した演奏会を聴きに行ったかのような満足感が得られる。それだけではなく、このレコードで聴けるウィーンフィルの音は、ライブで聴いた音を思い出させる。EMIから出たレコードの中でも、最も素晴らしいレコードの一つである。アメリカ・プレスLPが何でも良い訳ではなく、もう少し後に録音されたベートーヴェンの『田園』についてだが、米LHMV-1066は、英HMV ALP-1041に比べると何世代もコピーを繰り返したテープを聴くような感じがする。
EMI商業録音SPからLPへの変換期の録音の中には、SP用の録音が行われた際、SPの片面収録時間の関係で取り直しが行われたために「別テイク」が存在するのがある。後にLPやCDが作られる際に、SPから板起こしされたものと、細切れ録音されていない長時間録音されたテープから作られたものなどがある。英Testamentから出たワーグナーの CD、SBT1141は、この頃のオリジナルテープの多くが廃棄されたと言われる中で、金属原盤や状態の良いテープが現存していることを明らかにしたことで、ファンの間で喜ばれた。このCDで聴ける、ルツェルン祝祭管弦楽団とレコーディングした『ローエングリン』第1幕前奏曲は、「お蔵入り」していたのが不思議なほど、良い録音で良い演奏が聴ける。また、ここに収められている『神々の黄昏』の「葬送行進曲」は、他のLPやCDとは別の録音である。第78、79小節の演奏はカットされず、第81小節のティンパニの奏法も変更されている。古くから知られていた「葬送行進曲」は、LP 米Victor LHMV-1049他で聴くことができる。英Testament SBT1141で聴けるのとは別演奏のワーグナー「葬送行進曲」である。
<SPからLPへの変換期のEMIスタジオ録音>
1947年
●8月28、29日 メニューイン(Vn) ルツェルン祝祭管弦楽団 ルツェルンクンストハウス
・ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
●8月30日 ルツェルン祝祭管弦楽団 ルツェルンクンストハウス
・ワーグナー:歌劇『ローエングリン』第1幕前奏曲
●11月10, 19, 26日12月3日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール&大ホール
・モーツァルト:セレナード第10番『グラン・パルティータ』
●11月10-17日及び49年2月15日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ベートーヴェン:交響曲第3番『英雄』
●11月17-20, 25日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ブラームス:交響曲第1番
●11月25日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ベートーヴェン:『コリオラン』序曲
1948年
●3月26日 フラグスタート(S) フィルハーモニア管弦楽団 ロンドン EMIアビイロード・スタジオNo. 1
・ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から「ブリュンヒルデの自己犠牲」
●12月7日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・メンデルスゾーン:『フィンガルの洞窟』序曲 (未発売)
●12月7、8日及び49年2月17日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・モーツァルト:交響曲第40番
1949年
●2月15日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール
・メンデルスゾーン:『フィンガルの洞窟』序曲
●2月16、17日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール(16日)大ホール(17日)
・ワーグナー:ジークフリート牧歌
●2月17、22日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:歌劇『タンホイザー』序曲
●2月23日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から「葬送行進曲」(未発売)
・ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から「夜明けとジークフリートのラインへの旅」
●3月30、31日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:歌劇『さまよえるオランダ人』序曲
●3月30日、4月2日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
●3月31日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『ヴァルキューレ』から「ヴァルキューレの騎行」
・ベルリオーズ:『ファウストの劫罰』からラコッツィー行進曲
●4月1日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・モーツァルト:セレナーデ第13番『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
●4月1、4日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕前奏曲
●4月4日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ブラームス:ハンガリー舞曲第3番・第10番・第1番
・ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』から「徒弟の踊り」
●8月29日 ルツェルン祝祭管弦楽団 ルツェルンクンストハウス
・ワーグナー:歌劇『ローエングリン』から第1幕前奏曲(未発売)
●8月29-31日 メニューイン(Vn) ルツェルン祝祭管弦楽団 ルツェルンクンストハウス
・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
1950年
●1月18、19日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ベートーヴェン:交響曲第7番
●1月19-21日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・シューベルト:交響曲第8番『未完成』
●1月21、23、24日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・R・シュトラウス:交響詩『死と浄化』
●1月24日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・J.シュトラウス:皇帝円舞曲
●1月25、30日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ベートーヴェン:交響曲第4番
●1月31日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から「葬送行進曲」
●2月1日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第3幕前奏曲
・ウェーバー:歌劇『オベロン』序曲
●2月2日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール
・チャイコフスキー:「弦楽のためのセレナーデ」からワルツ&終曲
・シューベルト:『ロザムンデ』からバレー音楽第2番と間奏曲第3番
●2月2日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール
・J.シュトラウス:ピッチカートポルカ(グロッケン入り)
●2月2-3日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール
・J.シュトラウス:ピッチカートポルカ(グロッケンなし)
●2月3日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール
・モーツァルト:歌劇『魔笛』から2曲 リップ(S)
1951年
●1月3、17日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・シューベルト:『ロザムンデ』序曲
●1月4、8-10日、2月16日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・チャイコフスキー:交響曲第4番
●1月11日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ケルビーニ:歌劇『アナクレオン』序曲
●1月11、12、17日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ハイドン:交響曲第94番『驚愕』
●1月18日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ニコライ:歌劇『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲
●1月24日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・スメタナ:交響詩『モルダウ』
●1月24、25日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・シューマン:『マンフレッド』序曲
●2月19~20日 フィッシャー(Pf.) フィルハーモニア管弦楽団 ロンドン・アビーロード EMIスタジオNo. 1
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番『皇帝』
写真:
.Εーンに現存するモーツァルトの住居。『フィガロの結婚』を作曲した時期に住んだ家で、「フィガロ・ハウス」と呼ばれている。
▲癲璽張.襯箸慮魘繕並40番と『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』、シューベルトの『未完成』交響曲 英HMV XLP-30104
モーツァルトの交響曲第40番とブラームスのハイドンの主題による変奏曲 LP 米Victor LHMV-1010
ぅ戞璽函璽凜Д鵑慮魘繕並7番 LP 米Victor LHMV-1008
ゥ魯ぅ疋鵑慮魘繕並94番『驚愕』、モーツァルトの交響曲第40番 LP 米Victor LHMV-1018
Ε轡紂璽戰襯箸痢慳ご粟』交響曲 LP 米Victor LHMV-1020、ニコライの『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲とシューベルトの『ロザムンデ』、ウェーバーの『オベロン』序曲も収められている。
Д錙璽哀福爾隆標抗擽塀CD、英Testament SBT1141
<収録内容>
1947年
●8月30日 ルツェルン祝祭管弦楽団 ルツェルンクンストハウス
・ワーグナー:歌劇『ローエングリン』第1幕前奏曲(未発表録音)
1949年
●2月16、17日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 ブラームスザール(16日)大ホール(17日)
・ワーグナー:ジークフリート牧歌
●2月17、22日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:歌劇『タンホイザー』序曲
●2月23日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から「夜明けとジークフリートのラインへの旅」
1950年
●1月31日 ウィーンフィル ウィーン楽友協会
・ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から「葬送行進曲」(従来から知られた録音とは違う演奏)