









1940年
「シベリウスはチャイコフスキーとならんで、そもそもドイツ人以外で真に「交響楽的」な作品を残した唯一の人物である。ドイツ人で完全にみずからそうあり得たのはハイドン、ベートーヴェン、ブルックナー、ブラームスだけである。シューベルトは半分だけ、シューマンにいたっては全面的に「教育」の所産である。
ところで、この世にも稀な才能は、どこから来るものであろうか?スメタナ、ドヴォルジャーク、セザール・フランク、プフィッツナーにあっては室内楽にまでしか達していない。リスト、シュトラウスは別の側からやってきて、すでに最初から「大きすぎる長靴」をはいて闊歩している!」
交響曲作曲家として認めていた作曲家の中でも、フルトヴェングラーにとって、ブラームスはほとんど同時代人とも言える近い作曲家だったこともあり、演奏回数も多く、残された録音数も多い。しかしながら、録音状態に恵まれたのが少ないのが、何とも惜しいことである。特に、スタジオ録音された交響曲第1番と第2番については、本来なら録音状態に期待できるはずなのに、著しく音質が悪いのは、いかにも残念な事である。
交響曲第1番
1945/01/23 ベルリンフィル アドミラル・パラスト(ベルリン)第4楽章のみ現存(RRG収録)
1947/8/13 ウィーンフィル ザルツブルク音楽祭(プライベート録音)
1947/8/27 ルツェルン音楽祭管弦楽団 クンストハウス(スウェーデン放送所蔵)
1947/11/17-20 ウィーンフィル ウィーン楽友協会(EMIスタジオ録音)
1950/7/13 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 コンセルトヘボウ (VARA放送協会収録)
1951/10/27 北西ドイツ放送管弦楽団 ハンブルク、ミュージックハレ (NDR収録)
1952/1/27 ウィーンフィル ウィーン楽友協会 (RWR収録、ウィーンフィル所蔵)
1952/2/10 ベルリンフィル ティタニア・パラスト (SFB収録)
1952/3/07 RAIトリノ放送交響楽団 RAI(トリノ) (RAI収録)
1953/5/18 ベルリンフィル ティタニア・パラスト (SFB収録)
1954/3/20 ヴェネズエラ交響楽団 カラカス、円形劇場ホセ・エンジェル・ラマス (プライベート録音)
関係の深かったベルリンフィル、ウィーンフィル、ルツェルン音楽祭管弦楽団だけではなく、客演したオーケストラとの録音も残っているのは、フルトヴェングラーにとっての得意の作品であったことと、オーケストラにとっての基本レパートリーで、演奏会での興行収入を上げる人気の作品だったことも関係しているであろう。
客演したオーケストラの中でも、北西ドイツ放送管弦楽団は特別である。このオーケストラには、大戦中のベルリンフィルで、フルトヴェングラーの指揮で演奏していた演奏者がいた。コンサート・マスターのエーリッヒ・レーンと主席チェロ奏者のアルトゥール・トレスターである。当日はブラームス・プログラムで、ハイドン変奏曲と二重協奏曲も演奏されたが、残念ながら協奏曲の録音が残されていない。大戦中にフルトヴェングラーのライブ録音を担当したフリードリヒ・シュナップが担当で、フルトヴェングラーと辛い戦争時代を生き抜いた仲間達との再会で、この演奏会にかけるそれぞれの意気込みは相当なものであったらしく、期待を裏切らないすばらしい演奏である。最初から豊穣な音と緊張感がみなぎっていて、フルトヴェングラー独特のサウンドを聞くことができる。TahraがセットでLPを出したが、音質は高音の伸びが今ひとつで、同じ会社が出したSACD Furt 2010には負ける。国内盤LP、RVC(株)からLegends Of Musicのシリーズとして出たPCL-3335は、音自体は良いもののテープヒス・ノイズが大きい。入手が難しい仏フルトヴェングラー協会のSWF-3201/2が、テープヒス・ノイズが無くてなおかつ新鮮な音が聞けて断然素晴らしい。しかも、当日演奏されたハイドン変奏曲も入っている。仏フ協会盤が出た後、RVC盤が出るまでに、テープが傷んでしまったのだろうか。TahraのLPセットは、テープヒスを抑えた結果、高音の伸びがなくなってしまったのかもしれない。この録音は、仏フ協会盤LPで聴くのがベストである。冒頭のティンパニの音がはっきりと捉えられて、低音もしっかりと響いて聞こえて力強い演奏なのが、この演奏の魅力の一つである。元テープは、拍手の音を避けるためであろうか、曲の最後の音が急に音量が落とされている。
大戦中の最後のベルリンフィルとの録音が第4楽章だけ残っている。空襲で演奏会が中断して、このブラームスから再開したと伝わっている。異様な緊張感は、会場の雰囲気と演奏が録音で捉えられている。全曲が残っていたら、この曲のベストになっていたと思われるが、戦後間もなく、1947年のルツェルン音楽祭管弦楽団との演奏には、似たような雰囲気がある。同じ年の同じ8月に演奏されたウィーンフィルとの演奏はプライベート録音で、録音状態も余り良くなく、かなり大きなドロップアウトもある。ただ、演奏自体は、緊張感があってアンサンブルも良く、同じ月に演奏されたルツェルンのと似た素晴らしい演奏である。第一クラリネットの独特な音色はレオポルド・ウラッハ、ヴァイオリン・ソロはウィリ・ボスコフスキーではないだろうか。Grand SlamのGS-2086は、元のテープではピッチが高くなっているという第4楽章のピッチを修正したCDである。
ウィーンフィルの演奏でまともな音で聴けるのは1952年のライブ録音だけである。ウィンナ・オーボエの独特な音は、この演奏をさらに魅力的にしている。この日の録音は、二重協奏曲とハイドン変奏曲と共に残されていて、「ブラームスの夕べ」を堪能できる。交響曲に関する限り、スタジオ録音のようなサウンドがする日エンジェルWF-60072に対して、仏EMI 2701241はライブならではの温度が上がってく様子を再現する。この日に演奏された二重協奏曲とハイドン変奏曲はブラームスセットである独EMI 1C 149-53420~6Mに収められているが、交響曲第1番は、音質が余り良くない1947年のスタジオ録音が収められている。海外盤では、このボックスを別途で手に入れて、ようやく一日の演奏全部を聴くことができる。1952年のライブの音質は抜群に良いので、手に入れる価値は十分にある。複数曲が収録された1回分の演奏会全てを良い音で楽しめる数少ない例ではないだろうか。
ベルリンフィルとの演奏も、一つだけ素晴らしい録音が残っている。ウィーンでのライブ録音の少し後の1952年2月の「ベルリンフィル創立70周記念演奏会」を兼ねた定期演奏会での演奏である。さすが一緒に戦争をくぐり抜けた演奏家達がひとつにまとまった演奏である。オーケストラは、フルトヴェングラーの意図を的確に捉えた一糸乱れぬ演奏を、豊穣な響きで演奏している。独DGG 2530744で聴く限りでは良い録音と演奏が揃った名盤である。特に終楽章に向けての盛り上がりは、他の演奏では聞くことができないほどの感動を味わうことができる。一年後の1953年の演奏は、CetraのFE-13で聴く限り、録音は今ひとつながら悪くはない。それでも、演奏内容と録音の良さを総合的に考えると、フルトヴェングラーの演奏でこの曲を聴くには、1952年の演奏、独DGG 2530744が一番良いのではないだろうか。
音が悪いながらも、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団による演奏では、木管楽器の豊かな音色と緻密なアンサンブルから、優秀なオーケストラによる演奏であることがよく分かる。オーケストラの自発性を生かしながら、終楽章で盛り上がる様子は素晴らしい。日フ協会のJP-1188/20は唯一のLPで、ブラームスの前に演奏されたベートーヴェンの交響曲第1番と『レオノーレ』序曲第3番を含めた、1950年7月13日の演奏会全ての曲を収めている。
<プログラム>
1950年
●7月13日 コンセルトヘボウ管弦楽団 アムステルダム コンセルトヘボウ
・ベートーヴェン:交響曲第1番
・ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第3番
・ブラームス:交響曲第1番
客演の演奏の中でも、特別なのが、ヴェネズエラの首都、カラカスで行われた第10回汎アメリカ会議が行われている期間中、演奏会場になった円形劇場ホセ・エンジェル・ラマスの開場記念に招かれて演奏した記録である。これがフルトヴェングラーがこの曲を指揮した最後の機会になった。わざわざ大西洋を越えて、大してよくできているわけではなさそうな近代的な野外劇場の開場のためにカラカスを訪れたのは、政治的な何かがあったのだろうか。『巨匠 フルトヴェングラーの生涯』(ヘルベルト・ハフナー著 最上英明訳 アルファベータ)によれば、セルジュ・チェリビダッケがこの国のことを感激して語ったのが決断の理由で、「白人のまじないし」として南米の人々の熱狂と親切なもてなしに強い印象を受けて帰国したという。
<プログラム>
1954年
●3月19&21日 ヴェネズエラ交響楽団 カラカス、円形劇場ホセ・エンジェル・ラマス (プライベート録音)
・ヘンデル:合奏協奏曲第10番ニ短調作品6-10
・ブラームス:交響曲第1番ハ短調
・R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』
・ワーグナー:歌劇『タンホイザー』序曲
フルトヴェングラーが得意にした曲ばかりが連ねてある。コンサートは19日と21日に行われたが、オーケストラ所有のテープには20日と記されているという。公開リハーサルの記録か記入の誤りかはっきりしないが、貴重な記録である。円形劇場ホセ・エンジェル・ラマスは野外劇場で、他のライブでは余り聞かないような会場ノイズが、時々聞こえる。子供声が多少耳障りで、さらには、風の音、コオロギらしき虫の鳴き声が時々聞こえる。録音はまずまず良い部類に入る。オーケストラは、世界的に知られているオーケストラではないが、さすがプロのオーケストラで健闘している。他のフルトヴェングラーの演奏と同じように、独特な響きがする。休符の後にきちんと入れずに入りが乱れたりするのは、フルトヴェングラーの指揮に慣れていなかったせいであろう。イギリスのフルトヴェングラー協会から出たFURT-101にはワーグナーを除く三曲が入っている。このコンサートの唯一のLPである。ワーグナーはテープの状態が良くないということで、LPに入れるのを見送ったということだが、後で出たCDには、冒頭の音が欠落した状態で収められ、コンサート全体が入っている。
英フ協会のジャッケットには、「この演奏が一番軽いブラームスの一番」と書かれているが、同意できない。技術的にベルリンフィルやウィーンフィルに及ばずにミスがあるものの、聴けばすぐにフルトヴェングラーと分かる素晴らしい演奏だったことが分かる。やはり、巨匠が指揮をすれば、ある程度の実力があるオーケストラなら、巨匠の音が出るのだ。「弘法、筆を選ばず」である。まず、ヘンデルの弦楽合奏の最初の音を聞いてみると、フルトヴェングラーにしか出せないような悲劇的な音である。大戦中のベルリンフィルの演奏と同じような音が鳴っている。アンサンブルが難しいブラームスでこそ、ミスが多発しているが、この作品が持つ暖かい情感や熱いエネルギーを見事に表現している。『ドン・ファン』は、見事にリベンジを果たして、プロのオーケストラらしい素晴らしい演奏をしている。きっと、オーケストラのプレイヤー達は、感激してフルトヴェングラーの指揮の下で演奏したことだろう。ここで聴くことができるブラームスは、テンポや表情など、戦後のベルリンフィルとの演奏に近い表現である。
写真:
´∨明哨疋ぅ鎚錞?標抗效弔魯侫.鵑隆屬派床舛高い 仏フルトヴェングラー協会 SWF-3201/2
1947年のルツェルン音楽祭管弦楽団との演奏 仏フ協会SWF-7601 共通ジャケット
ゥΕーンフィルで唯一、まともに聴ける音質で残っており、演奏も聞き逃せない素晴らしい内容 仏EMI 2701241
Ε戰襯螢鵐侫ルとの決定盤といえる1952年の演奏は録音状態も良い 独DGG 2530744
Д戰襯螢鵐侫ルとの1953年の演奏 Cetra FE-13
┃アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との演奏会全プログラム 日フ協会 JP-1188/20(2LP)
ヴェネズエラ交響楽団 英フルトヴェングラー協会 FURT-101