第1 設問1
1 小問(1)
(1) ある法律行為の存在を立証しようとするときに、それにかかる意思が直接反映され、その存在の直接証拠となるような文書を処分証書という。
本件連帯保証契約書は、当初の請求原因②の事実との関係では、まさにそのXB間の保証契約締結の存在の直接証拠となるから、処分証書としての意味を有する。一方、第2の請求原因③の事実との関係では、BがCに代理権を授与したことについて直接にこれを立証しうる証拠とはならないから処分証書に当たるとはいえず、せいぜい間接証拠となる余地があるといえなくものないが、その証明力は乏しいだろう。
(2) 我が国の取引通念において印鑑が特に重んじられていることに鑑み、ある私文書中にある陰影がその者の印章と一致するとき、それは当人の意思によって押印されたものと事実上推定されると考えられる。そして、本人又は代理人による押印がある私文書は、真正に成立したものと法律上推定される(民事訴訟法(以下略す)228条4項)。
したがって、当初の請求原因②の事実との関係では、本件連帯保証契約書に本人Bの陰影の印章があることから上記の二段の推定が働き、その成立の真正が推定される。一方、第2の請求原因③の事実との関係ではこのような推定は働かない。
2 小問(2)
(1) Pの見解は、Xが第2の請求原因を追加しておらず、Bからもそれに当たる事実についての主張がないにもかかわらず、代理権の発生原因事実を裁判所が認定し判決の基礎とすることを許すというものであり、弁論主義の観点から問題があると思われる。
(2) ここでPは、当事者の主張がないにもかかわらず契約の締結が代理人によってなされたものと認定することを弁論主義に反しないとした判例を引き合いに出している。しかし本件においては、B自身がその代理権授与の事実を認めていたとみられる事情はなく、Bとしては当初請求原因を否定しさえすれば勝訴できると期待していたところ、訴訟に顕れていないにもかかわらず裁判所がそのような事実を判決の基礎とすることは、不意打ちになり、弁論主義に反するというべきである。
(3) よって、Pの見解は弁論主義に反し相当でない。
第2 設問2
1 被告知者が補助参加しなかった場合でも当該訴訟の効力は同人に及ぶとされる(53条4項、46条)が、Xから訴訟告知を受けたが実際には当該訴訟に参加しなかったCについてもその判決の効力(参加的効力)が及ぶか、及ぶとしてどのように及ぶかが問題となる。
2 主観的範囲
(1) Cは、Bから訴訟告知を受けているが、そもそもCは当該紛争について必ずしもBと利害が共通する関係にあるわけではなく、有権代理であるとの主張などついてはむしろBと対立しうる関係にある。そこで、Cとしては、このような訴訟共同可能性がない者については、訴訟告知をしてもその効力は及ばないと主張することが考えられる。
(2) 私見
まず、参加しなかった被告知者に参加的効力が及ぶとするためには、実際に参加した場合との均衡から、補助参加の利益(42条)があることを要すると解する。そして、ここにいう「訴訟の結果」とは訴訟物についての判断をさし、また「利害関係を有する」とは法的利害関係を有することをさすと考える。そうすると本件では、前訴の訴訟物は表見代理に基づく保証債務履行請求権であり、これが認容されることにより無権代理人たるCは無権代理行為を不法行為として、Bが履行する保証債務相当額の損害賠償を請求されるという点で法的利害関係を有するといえる。よってCには補助参加の利益が認められる。
問題は、上記の主張のとおり、訴訟共同可能性が必要であるかであるが、これは必要と解するのが相当である。告知者と利害が対立することから参加しなかったこともやむを得ない者についてまでその効力を及ぼさせることは被告知者の手続保障として不十分であるし、仮に補助参加していた場合には46条により参加的効力が及ばないこととの均衡を図る必要もあるからである。
よって、本件では、上記のとおりCは有権代理か否かという点についてBと対立する関係にあり、訴訟共同可能性がないから、参加的効力は及ばないと考える。
3 客観的範囲
(1) 仮にCにも参加的効力が及ぶとした場合、その客観的範囲が問題となる。
ここで、Cとしては、既判力と同じく、参加的効力は主文についての判断にしか及ばない(114条1項参照)と主張することが考えられる。
(2) 私見
この点、46条各号の除外事由の存在に鑑みると、同条の趣旨は敗訴責任を公平に分担させる点にあると解され、参加的効力は既判力とは別個の趣旨に基づく制度であるというべきである。そして、告知者被告知者間で敗訴責任を公平に分担させるためには、多くの場合主文にかかる判断のみに及ぶとするのでは不十分であるから、主文及び主文を導き出すために必要不可欠の理由中の判断についても参加的効力は及ぶと解するのが相当である。
これを本件についてみると、①の事実、②の事実は共に訴訟1における請求原因事実である以上、これについての判断は当該認容判決を導き出すために必要不可欠な理由中の判断であったといえる。よって、これらの判断については前訴の参加的効力が及び、Cは、その認定と異なり、これらの事実を否認することはできない。
第3 設問3
1 複数の共同被告に対する各請求が「法律上併存しえない関係」にある場合、同時審判の申出があったときは、弁論及び裁判を分離して行うことが禁じられる(41条1項)。これによって、事実上、各訴訟間において矛盾した判断がされることを防止することができる。
2 もっとも、かかる申出があったとしても、「合一にのみ確定」することまでが求められるわけではない(40条1項)。したがって、弁論の分離及び一部判決が禁じられるのみで、判決がなされた後に一方の訴訟につき上訴がなされたとしても他の訴訟についてまで確定禁止効・移審効が生じるものではなく、それぞれ独立に判決が確定しうることになる。
したがって、①Cのみが控訴しXは控訴しなかった場合には、XのBに対する訴訟はX敗訴として確定し、Cに対する訴訟のみが控訴審に移審することになるが、ここでXは敗訴する可能性があり、「両負け」する可能性がある。
3 また、両訴訟とも控訴されたとしても、当然に同時審判が求められるものでもない。すなわち、両訴訟が同一の控訴裁判所に各別に係属することになった場合においてのみ、併合が強制されるに過ぎない(41条3項)。
よって②C及びXが控訴したとしても、必ずしも同時審判されるわけではない。もっとも、この場合にはあらためて同時審判の申出をすればよい。
以上
【体験談】
・設問1について
(1)については、第2の請求原因③との関係がよくわからなかった。点数配分的にあまり考えすぎてもよくないと思い。とりあえず処分証書の意味や二段の推定の構造についてしっかり書くことで基本的な理解はできていることをアピールしておいて先に進むことにした。
(2)については、引用されている判例の事例が詳しく思い出せなかったが、おそらく事案が異なり当該判例の射程外といえるのだろうと思った。しかし間違ったことは書けないので、「本件では」以下で、本件における具体的事情を拾いつつ弁論主義に反すると結論づけることでうまくごまかした(つもり)。
・設問2について
ぱっと見て、告知者と利害対立関係にある被告知者にも参加的効力が及ぶか、というのがメイン論点だと即断し、飛びついてしまった。書き進めていくうちに、参加的効力の主観的範囲についてはその前に補助参加の利益が問題になることに気づいた。そこで慌ててこの点についても論じたのであるが、訴訟物は「表見代理に基づく保証債務履行請求権」であるという明らかな誤りをしてしまった(言うまでもないが、訴訟物は旧訴訟物理論にたっても「保証契約に基づく保証債務履行請求権」である)。そのため訴訟物非限定説を採らなければ補助参加の利益を認めることはできない事例であるにもかかわらず、訴訟物限定説を採った上これがあると認めてしまった。上記メイン論点(と即断した部分)については、理由付けがうろ覚えだったため、不十分ないし不正確な記述になってしまったと思う。
参加的効力の客観的範囲については百選判例と同じ立場を採り、無難にすませた。
・設問3について
同時審判といえば各訴訟は別々に移審する、ということばかりに気を取られてしまい、問題文を再度慎重に見直すことを怠ってしまった。そのため、「控訴審における審判の範囲との関係で論じなさい」という設問の問いに正面から答えていない論述になってしまった。
第1 設問1
1 22年総会における取締役選任決議は、Aから順に得票数を集計し、可決要件である議決権の過半数の賛成を得た候補者がB、C、D、Pの4人に達した時点で残りの候補者Q、Rの決を集計しないでそれら4人をただちに取締役として選任されたものとしている。しかし実際は、BよりもQ及びPの方が得票数が多かったということから、このような採決方法は不適当であったのではないか。
2 そもそも株主総会における採決をどのようにして行うかというのもまた、議事の整理にかかるものとして議長の裁量に委ねられるものであるといえる(会社法(以下略す)315条1項)。
しかしそのような議長の裁量権の行使も、会社の実質的所有者である株主の権利を不当に制限するものであってはならない。この点、株主総会決議は、株主が直接に自己の意思を会社に反映させる数少ない機会であるところ、その採決は最大限株主の意思を反映させることのできる方法によらなければならないというべきである。
3 そうすると本件の採決方法については、順番に各候補者について開票し、過半数を得た者が4人あらわれたとしても、残りの者がその4人の一人ないし二人よりも多くの票を得ていることも十分に考えられ、そうであるとすれば株主の意思はその後者を取締役として選任したいというものであることは明らかであるところ、本件の採決方法は株主の意思を十分に反映した結果を導き出すことのできないものであり、議長の裁量権の行使として不適切だったといえる。
よって、この取締役選任は不当である。
第2 設問2
1 小問(1)
(1) A及びFが本件貸付けを阻止する方法としては、それぞれ360条1項、385条1項に基づき、これを違法行為として差し止めることが考えられる。
そこで、その要件が充足されているかを検討する。
(2) 違法行為
本件貸付けは、Pだけが取締役を務める乙社に対してでなされるものであるところ、乙社を代表するのはPであると考えられる。そうすると、同貸付けは、甲社の「取締役」であるPが、「第三者」たる乙社のために、自ら甲社と取引を行うものであるとして、自己取引(356条1項2号)に当たるといえる。
そのため、当該貸付を行うにあたっては、それについて「重要な事実を開示」したうえで甲社取締役会の承認を得なければならない(365条1項、356条1項柱書き)。しかしPは、これを承認した取締役会において、説明が不十分であるとFから強く異議を述べられたにもかかわらずこれを無視して可決されているところ、「重要な事実を開示」することを怠った違法があると考えられる。
したがって本件貸付は、適法な承認決議がないものとして違法な行為であるといえる。
(3) 損害の生ずるおそれ
監査役設置会社たる甲社においては、Fが差止請求するには「著しい損害が生ずるおそれ」(385条1項)、Aがするには「回復することができない損害が生ずるおそれ」があることが必要である(360条3項、1項)。
本件貸付けについてこれをみると、その額は甲社の資本金の半分に当たる15億円と相当高額であり、それにもかかわらず無担保で行なっているうえ、乙社は株主・取締役ともにPだけであるから実質P個人に貸すに等しいことからすると、貸付金の回収可能性は著しく低いうえにその経済的損害も甚大であるといえ、少なくとも本件貸付けによって「著しい損害が生じるおそれ」はあるといえる。一方、かかる経済的損失は、社会的信用が損なわれる場合などと異なり、これに関与した役員等への責任追及等によって回復することも一応可能であることから、「回復することができない損害が生ずるおそれ」があるとまではいえない。
よって、Fのみが本件貸付けを阻止することができる。
2 小問(2)
(1) 423条1項に基づく責任追及
まず、甲社取締役として本件貸付けに関与したH、D、Pに対しては、423条1項に基づき、その返済を受けられなくなったことによって甲社に生じた損害の賠償を求めることが考えられる。以下、その要件を検討していく。
ア 任務懈怠
Pは直接会社と取引をした取締役として423条3項1号により、H及びDは承認決議に賛成した取締役として同3号によって、任務懈怠があったものと推定される。
イ 故意又は過失
任務懈怠の一部免除には善意無重過失を要するとされている(425条1項柱書等)ことからして、423条1項責任を問うには悪意又は有過失であることを要すると解される。
この点、H及びDについては、本件貸付けは前記の通り相当高額かつ無担保であり、またPの一人会社である乙社を相手方とするものであり特に慎重さが求められるところ、Fから説明が不十分との異議が出されたにもかかわらず、漫然と承認に賛成していることからすれば、少なくとも過失があったといえる。一方Pは直接会社と取引をした者であるから、無過失責任を負う(428条)。
ウ 損害
乙社が倒産したために本件貸付金相当額の回収が不可能になった。かかる損害は、本件貸付けを漫然に行いまた承認したために生じたものであり、これと相当因果関係のある「損害」であるといえる。
エ 以上より、H、D、Pらに対し、423条1項により本件貸付金相当額を損害としてその賠償を求めることができる。
(2) 法人格否認の法理
ア 乙社はPのみを株主及び取締役とする一人会社であるところ、いわゆる法人格否認の法理により乙社の負う貸付金返還債務の履行をPに対して求めることができないか。Pが乙社を支配し、不当な目的のためにその法人格を利用したとの事情はないことから、いわゆる形骸化事例に当たるか問題となる。
イ この点、株主は間接有限責任しか負わないことが原則である(104条)以上、同法理の適用については慎重でなければならないというべきである。
そこで、当該会社が実質的に個人会社であるか、その財産がその個人のそれと混同されているか、また株主総会等が開かれ会社としての実際の事業活動があるかといった点から、法人格が形骸化しているか否かを判断するべきである。
ウ これを本件についてみると、まず乙社は、その株主及び取締役はPだけということからPの個人会社であるといえる。また、その財産がPのそれと混同されているかということは問題文からは明らかでないものの、乙社は設立以来、実際の事業活動はほとんど行なっていないという。
以上からすると、乙社の法人格は形骸化しているといえ、よってA及びFは、法人格否認の法理により、Pに対して当該貸金債務の履行を請求できると考えられる。
第3 設問3
1 監査役の同意がない点について
本件で可決された議案②は前に取締役Eが取締役として提案したが監査役会において同意を得られなかったものを、取締役Pが株主としての地位に基づき提案したものであるところ、これは343条1項が監査役選任に関する議案は監査役会の同意を得なければならないとした趣旨に反し、総会決議の方法に法令違反がある(831条1項1号)との主張が考えられる。
この点、本条の趣旨は監査役の取締役からの独立性を確保する点にあると解される。これに対して、監査役の報酬は株主総会決議によるとされている(387条1項)ことからすると法は株主(総会)を監査役の独立性を守るための機関として位置づけていると解される。株主は会社の実質的所有者であり、304条による株主の議案提案権につき法は何らの制限も規定していない。これらのことからすれば、株主としての地位により監査役選任議案を提出するにあたっては監査役の同意は不要であると解するべきである。たとえ当該株主が取締役を兼任するものであったとしても、法はその兼任をなんら禁じていない以上、そのことをもって343条1項を潜脱するとはいえない。
よって、この点に違法はない。
2 Fの発言を制止した点について
監査役であるFが株主総会において意見を述べようとしたにもかかわらず、Hがこれを制止し意見申述の機会を与えなかったことは、384条の趣旨に反し、同じく831条1項1号に違反するといえる。
そして、同条における監査役の権能は、株主総会の適正を維持するための重要なものであるところ、その違反は「重大」である。またFによる意見申述いかんでは株主の認識、判断も変わり、議案②は可決されたかもしれないとも十分に考えられるので、「決議に影響を及ぼさないもの」であったともいえない。よって、裁量棄却(831条2項)の余地はなかったと考える。
以上
【体験談】
・典型的でない論点が多々あったので、趣旨から丁寧に論述することで説得的な論述ができるよう心がけた。
・第1問について
適法か違法かまで述べるべきか迷ったが、「当否」とあるので、適当か否かを述べるにとどめた。ちょっと逃げすぎたかもしれない。
・第2問について
(1)は違法行為差止以外に思いつかなかったので、これを丁寧に述べることにした。ただ誰が被告になるかという点について書き忘れた。
(2)は423条を述べるのは当然として、乙がPの一人会社であることから法人格否認の法理には触れたほうがよいなと思った。もっとも、与えられている事実が少ないことからサブ論点に過ぎないと判断し、あまりがっつり書きすぎないよう気を付けた。
・第3問について
ここまできて時間は結構ぎりぎりだった。論点は大きく二つで、両方をバランスよく書こうと思ったのだが、監査役の同意関連の話について論述が冗長になってしまい、もう一方の論述が薄くなってしまった。後者は時間がなかったので、法令違反であること、裁量棄却の余地がないことについて簡単に認定することで精一杯だった(それでも書きたいこと必要最小限は書いたつもり)。
1 22年総会における取締役選任決議は、Aから順に得票数を集計し、可決要件である議決権の過半数の賛成を得た候補者がB、C、D、Pの4人に達した時点で残りの候補者Q、Rの決を集計しないでそれら4人をただちに取締役として選任されたものとしている。しかし実際は、BよりもQ及びPの方が得票数が多かったということから、このような採決方法は不適当であったのではないか。
2 そもそも株主総会における採決をどのようにして行うかというのもまた、議事の整理にかかるものとして議長の裁量に委ねられるものであるといえる(会社法(以下略す)315条1項)。
しかしそのような議長の裁量権の行使も、会社の実質的所有者である株主の権利を不当に制限するものであってはならない。この点、株主総会決議は、株主が直接に自己の意思を会社に反映させる数少ない機会であるところ、その採決は最大限株主の意思を反映させることのできる方法によらなければならないというべきである。
3 そうすると本件の採決方法については、順番に各候補者について開票し、過半数を得た者が4人あらわれたとしても、残りの者がその4人の一人ないし二人よりも多くの票を得ていることも十分に考えられ、そうであるとすれば株主の意思はその後者を取締役として選任したいというものであることは明らかであるところ、本件の採決方法は株主の意思を十分に反映した結果を導き出すことのできないものであり、議長の裁量権の行使として不適切だったといえる。
よって、この取締役選任は不当である。
第2 設問2
1 小問(1)
(1) A及びFが本件貸付けを阻止する方法としては、それぞれ360条1項、385条1項に基づき、これを違法行為として差し止めることが考えられる。
そこで、その要件が充足されているかを検討する。
(2) 違法行為
本件貸付けは、Pだけが取締役を務める乙社に対してでなされるものであるところ、乙社を代表するのはPであると考えられる。そうすると、同貸付けは、甲社の「取締役」であるPが、「第三者」たる乙社のために、自ら甲社と取引を行うものであるとして、自己取引(356条1項2号)に当たるといえる。
そのため、当該貸付を行うにあたっては、それについて「重要な事実を開示」したうえで甲社取締役会の承認を得なければならない(365条1項、356条1項柱書き)。しかしPは、これを承認した取締役会において、説明が不十分であるとFから強く異議を述べられたにもかかわらずこれを無視して可決されているところ、「重要な事実を開示」することを怠った違法があると考えられる。
したがって本件貸付は、適法な承認決議がないものとして違法な行為であるといえる。
(3) 損害の生ずるおそれ
監査役設置会社たる甲社においては、Fが差止請求するには「著しい損害が生ずるおそれ」(385条1項)、Aがするには「回復することができない損害が生ずるおそれ」があることが必要である(360条3項、1項)。
本件貸付けについてこれをみると、その額は甲社の資本金の半分に当たる15億円と相当高額であり、それにもかかわらず無担保で行なっているうえ、乙社は株主・取締役ともにPだけであるから実質P個人に貸すに等しいことからすると、貸付金の回収可能性は著しく低いうえにその経済的損害も甚大であるといえ、少なくとも本件貸付けによって「著しい損害が生じるおそれ」はあるといえる。一方、かかる経済的損失は、社会的信用が損なわれる場合などと異なり、これに関与した役員等への責任追及等によって回復することも一応可能であることから、「回復することができない損害が生ずるおそれ」があるとまではいえない。
よって、Fのみが本件貸付けを阻止することができる。
2 小問(2)
(1) 423条1項に基づく責任追及
まず、甲社取締役として本件貸付けに関与したH、D、Pに対しては、423条1項に基づき、その返済を受けられなくなったことによって甲社に生じた損害の賠償を求めることが考えられる。以下、その要件を検討していく。
ア 任務懈怠
Pは直接会社と取引をした取締役として423条3項1号により、H及びDは承認決議に賛成した取締役として同3号によって、任務懈怠があったものと推定される。
イ 故意又は過失
任務懈怠の一部免除には善意無重過失を要するとされている(425条1項柱書等)ことからして、423条1項責任を問うには悪意又は有過失であることを要すると解される。
この点、H及びDについては、本件貸付けは前記の通り相当高額かつ無担保であり、またPの一人会社である乙社を相手方とするものであり特に慎重さが求められるところ、Fから説明が不十分との異議が出されたにもかかわらず、漫然と承認に賛成していることからすれば、少なくとも過失があったといえる。一方Pは直接会社と取引をした者であるから、無過失責任を負う(428条)。
ウ 損害
乙社が倒産したために本件貸付金相当額の回収が不可能になった。かかる損害は、本件貸付けを漫然に行いまた承認したために生じたものであり、これと相当因果関係のある「損害」であるといえる。
エ 以上より、H、D、Pらに対し、423条1項により本件貸付金相当額を損害としてその賠償を求めることができる。
(2) 法人格否認の法理
ア 乙社はPのみを株主及び取締役とする一人会社であるところ、いわゆる法人格否認の法理により乙社の負う貸付金返還債務の履行をPに対して求めることができないか。Pが乙社を支配し、不当な目的のためにその法人格を利用したとの事情はないことから、いわゆる形骸化事例に当たるか問題となる。
イ この点、株主は間接有限責任しか負わないことが原則である(104条)以上、同法理の適用については慎重でなければならないというべきである。
そこで、当該会社が実質的に個人会社であるか、その財産がその個人のそれと混同されているか、また株主総会等が開かれ会社としての実際の事業活動があるかといった点から、法人格が形骸化しているか否かを判断するべきである。
ウ これを本件についてみると、まず乙社は、その株主及び取締役はPだけということからPの個人会社であるといえる。また、その財産がPのそれと混同されているかということは問題文からは明らかでないものの、乙社は設立以来、実際の事業活動はほとんど行なっていないという。
以上からすると、乙社の法人格は形骸化しているといえ、よってA及びFは、法人格否認の法理により、Pに対して当該貸金債務の履行を請求できると考えられる。
第3 設問3
1 監査役の同意がない点について
本件で可決された議案②は前に取締役Eが取締役として提案したが監査役会において同意を得られなかったものを、取締役Pが株主としての地位に基づき提案したものであるところ、これは343条1項が監査役選任に関する議案は監査役会の同意を得なければならないとした趣旨に反し、総会決議の方法に法令違反がある(831条1項1号)との主張が考えられる。
この点、本条の趣旨は監査役の取締役からの独立性を確保する点にあると解される。これに対して、監査役の報酬は株主総会決議によるとされている(387条1項)ことからすると法は株主(総会)を監査役の独立性を守るための機関として位置づけていると解される。株主は会社の実質的所有者であり、304条による株主の議案提案権につき法は何らの制限も規定していない。これらのことからすれば、株主としての地位により監査役選任議案を提出するにあたっては監査役の同意は不要であると解するべきである。たとえ当該株主が取締役を兼任するものであったとしても、法はその兼任をなんら禁じていない以上、そのことをもって343条1項を潜脱するとはいえない。
よって、この点に違法はない。
2 Fの発言を制止した点について
監査役であるFが株主総会において意見を述べようとしたにもかかわらず、Hがこれを制止し意見申述の機会を与えなかったことは、384条の趣旨に反し、同じく831条1項1号に違反するといえる。
そして、同条における監査役の権能は、株主総会の適正を維持するための重要なものであるところ、その違反は「重大」である。またFによる意見申述いかんでは株主の認識、判断も変わり、議案②は可決されたかもしれないとも十分に考えられるので、「決議に影響を及ぼさないもの」であったともいえない。よって、裁量棄却(831条2項)の余地はなかったと考える。
以上
【体験談】
・典型的でない論点が多々あったので、趣旨から丁寧に論述することで説得的な論述ができるよう心がけた。
・第1問について
適法か違法かまで述べるべきか迷ったが、「当否」とあるので、適当か否かを述べるにとどめた。ちょっと逃げすぎたかもしれない。
・第2問について
(1)は違法行為差止以外に思いつかなかったので、これを丁寧に述べることにした。ただ誰が被告になるかという点について書き忘れた。
(2)は423条を述べるのは当然として、乙がPの一人会社であることから法人格否認の法理には触れたほうがよいなと思った。もっとも、与えられている事実が少ないことからサブ論点に過ぎないと判断し、あまりがっつり書きすぎないよう気を付けた。
・第3問について
ここまできて時間は結構ぎりぎりだった。論点は大きく二つで、両方をバランスよく書こうと思ったのだが、監査役の同意関連の話について論述が冗長になってしまい、もう一方の論述が薄くなってしまった。後者は時間がなかったので、法令違反であること、裁量棄却の余地がないことについて簡単に認定することで精一杯だった(それでも書きたいこと必要最小限は書いたつもり)。
第1 設問1
1 小問(1)
甲土地はもともとCの土地であったが、Cが死亡したためその子であるD及びEがこれを相続した。これにより、甲土地はD及びEの共有となり(民法(以下略す)898条)、よってD及びこれを唯一の子として相続したBは単独で甲土地を第三者に売却することはできない(251条)。
したがって、BがEの承諾を得ずに勝手にしたAとの売買契約によって甲土地の所有権がAに移転することはなく、よってFの主張は認められない。
2 小問(2)
(1) 20年間の取得時効が成立したといえるためには、①平穏かつ公然と、②所有の意思をもって、③当該不動産を20年間占有し続けることが必要である(162条1項)。
(2) 事実3の下線部分は、これらの要件のうち①、②の存在を基礎づける事実となると思われる。すなわち、①AはBとの売買契約に基づいて甲土地の占有を開始したということから、その開始の態様は「平穏かつ公然」であったといえるし、また所有権それ自体をBから承継取得する以上その占有権原からして「所有の意思」を有していたといえる。
ただし①、②はいずれも186条1項によりこれがあるものとして推定される。したがってこの下線部分の事実は、①についてはEから平穏かつ公然でなかったとの抗弁があった場合に、その抗弁事実と両立する事実として主張するのであれば再抗弁、両立しない事実としてであれば否認となるという法律上の意義を有する。また②については、Eから他主占有権限ないし事情の抗弁があったのに対し、①と同様に再抗弁ないし否認となるという法律上の意義を有する。
第2 設問2
1 Hは「和風だし」2000箱のうち1000箱しかないところ、その全てをGに引き渡せばFの権利を侵害することになると主張する。
この主張の趣旨は、①本件寄託契約書4条によれば当該「和風だし」のように複数の寄託者により混合保管(同3条参照)された物については、それぞれが帰宅した物の数量に応じて寄託物の共有持分権を有するとされているところ、本来Gは残りの1000箱のうち500箱についてのみ持分権を有さないから少なくとも500箱について返還請求権を有しないはずであり、②またそう解しなければ、混合寄託したFにとって不公平な結果となる、というものであると思われる。
このような主張は妥当か。
2 この点、確かに契約書4条には混合保管された物については、寄託者は寄託した割合に応じて共有持分権を有するとあるが、同時に、契約書6条には混合保管された物であっても、寄託者は寄託に係るものと同一数量のものを返還するとされており、その寄託割合に応じて返還するものと規定していない。これは、こと返還の場合には、4条にかかわらず、寄託者は寄託した分の全ての返還を求めることができることを合意したものであると解するのが相当である。
もっとも、②Gが全部返還を受けたとして、Fがその後一切「和風だし」について返還を求めることができないとするのは、いわゆる早い者勝ちということになり、確かに公平に反する。そこで、Fは、全額返還を受けたGに対してその寄託した割合に応じて、その半分500個について不当利得として返還請求することができると解するのが相当である。不当利得は正義・公平を図るための制度であるところ、GはHとの関係では適法に全部の返還を受けたのであるが、Fとの関係では、その持分割合に応じた分について、正義公平の観点から「法律上の原因」なく取得したものといえるからである。なお、このように解するのであれば、初めからGは持分割合に応じた分しか返還請求しえないとした方が簡明であるとも思えるが、有償受託者は寄託物について善管注意義務を負う(400条)ところ、その保管中に何らかの理由で寄託物が減少、滅失した場合の責任は本来的に受託者が負うべきであって、特に本件のように受託者Hの過失によって寄託物が減少滅失した場合において、他の混合寄託者があることをもってその返還を免れることができるとするのは不当であるといえ、またそのように解することが当事者の合理的意思にかなうともいえる。
3 以上より、Hの主張は妥当でなく、GはHに対して「和風だし」1000箱全ての返還を請求できる。
第3 設問3
1 「山菜おこわ」が盗取されたのは、Hがこれを保管していた丙建物の施錠を忘れていたからであるところ、Hの過失によりこれをFに返還することができなくなったといえ、Hはかかる履行不能について損害賠償責任を負う(415条後段)。
では、FはQにおいて「山菜おこわ」を扱ってもらえなくなってしまったことについてまでHに対して損害賠償を求めることができるか。かかる損害も416条の規定する損害賠償の範囲に含まれるかを検討する必要がある。
2 FがQとの「山菜おこわ」にかかる商談を反故にされるというのは、Hによる上記不履行から通常生じうる事態とまではいえないので、これによって生じた損害を「通常生ずべき損害」(1項)とみることはできない。
では、特別損害(2項)に当たると言えるか。ここで、同項の趣旨は、債務者において予見できた範囲に賠償の範囲を限定することで、その賠償額が不当に拡大しないようにするという点にあると解される(相当因果関係説)。したがって、ここにおける予見の基準時は当該債務にかかる契約締結時ではなく、債務不履行時であると解するのが相当である。
3 これを本件についてみると、FとQとの取引についての事情などはHが与り知らないものであるかにも思える。
しかしHは、Fから、新しくQ百貨店に「山菜おこわ」を置いてもらえることになり、うまくいけばさらに全店舗でこれを取り扱ってくれると約束されている等の話を聞いているところ、新たに取引を開始する当事者においては未だ信頼関係が十分に形成されていないことから特に初めの取引については慎重を帰すべきであり、またちょっとした不信事由で容易に交渉が反故にされうるものであると、通常考えられる。そうであるとすれば、そのような事情を知っているHにおいては、債務不履行時点において、「山菜おこわ」を滅失等することによりFがQにより商品保管態勢が不十分であるとみなされ取引交渉を保護にされることにもなりうることまで予見できたといえる。
よって、この下線部の経過があったためにQとの取引が反故となったことによって生じた損害について、FはHに対し、その賠償を求めることができる。
以上
【体験談】
・去年は百選判例がベースの問題ばかりだったので、今年も大きく傾向が変わることはないだろうと予想していた。しかし初めにざっと目を通して、百選判例がベースとなっているのは設問3だけであり、しかも設問1、2とも典型論点が聞かれているのではなく出題の趣旨がぱっとみてわからなかったのでちょっと焦った。
・設問1小問(1)は、何を聞きたいのがよくわからなかった。仕方がないので、基本的なことを書いてやり過ごすことにした。小問(2)もよくわからなかったが、時効取得の要件を検討しろというので、さしあたり問題となるのは「平穏・公然」と「所有の意思をもって」くらいしかないだろうと思い、割り切ってこれについて論じることにした。
・設問2は、具体的な契約書があるので、それを元に当該契約の解釈を求める問題であると思った。他の債権者の権利の存在をもって一方の債権者からの履行請求を拒めるかという問題は、債権の二重譲渡における同時到達の話に少し似ていると思い、受託者において履行を拒むことはできないが、それによる混合寄託者間での不公平は不当利得で解決する、という論理が使えると思い、採用した。
・設問3は、無償寄託であり、よって自己物同一義務にとどまる可能性があることについて気づいていたにもかかわらず書き落とした。設問1、2で時間をかけすぎたため若干焦っていたせいだと思う。
1 小問(1)
甲土地はもともとCの土地であったが、Cが死亡したためその子であるD及びEがこれを相続した。これにより、甲土地はD及びEの共有となり(民法(以下略す)898条)、よってD及びこれを唯一の子として相続したBは単独で甲土地を第三者に売却することはできない(251条)。
したがって、BがEの承諾を得ずに勝手にしたAとの売買契約によって甲土地の所有権がAに移転することはなく、よってFの主張は認められない。
2 小問(2)
(1) 20年間の取得時効が成立したといえるためには、①平穏かつ公然と、②所有の意思をもって、③当該不動産を20年間占有し続けることが必要である(162条1項)。
(2) 事実3の下線部分は、これらの要件のうち①、②の存在を基礎づける事実となると思われる。すなわち、①AはBとの売買契約に基づいて甲土地の占有を開始したということから、その開始の態様は「平穏かつ公然」であったといえるし、また所有権それ自体をBから承継取得する以上その占有権原からして「所有の意思」を有していたといえる。
ただし①、②はいずれも186条1項によりこれがあるものとして推定される。したがってこの下線部分の事実は、①についてはEから平穏かつ公然でなかったとの抗弁があった場合に、その抗弁事実と両立する事実として主張するのであれば再抗弁、両立しない事実としてであれば否認となるという法律上の意義を有する。また②については、Eから他主占有権限ないし事情の抗弁があったのに対し、①と同様に再抗弁ないし否認となるという法律上の意義を有する。
第2 設問2
1 Hは「和風だし」2000箱のうち1000箱しかないところ、その全てをGに引き渡せばFの権利を侵害することになると主張する。
この主張の趣旨は、①本件寄託契約書4条によれば当該「和風だし」のように複数の寄託者により混合保管(同3条参照)された物については、それぞれが帰宅した物の数量に応じて寄託物の共有持分権を有するとされているところ、本来Gは残りの1000箱のうち500箱についてのみ持分権を有さないから少なくとも500箱について返還請求権を有しないはずであり、②またそう解しなければ、混合寄託したFにとって不公平な結果となる、というものであると思われる。
このような主張は妥当か。
2 この点、確かに契約書4条には混合保管された物については、寄託者は寄託した割合に応じて共有持分権を有するとあるが、同時に、契約書6条には混合保管された物であっても、寄託者は寄託に係るものと同一数量のものを返還するとされており、その寄託割合に応じて返還するものと規定していない。これは、こと返還の場合には、4条にかかわらず、寄託者は寄託した分の全ての返還を求めることができることを合意したものであると解するのが相当である。
もっとも、②Gが全部返還を受けたとして、Fがその後一切「和風だし」について返還を求めることができないとするのは、いわゆる早い者勝ちということになり、確かに公平に反する。そこで、Fは、全額返還を受けたGに対してその寄託した割合に応じて、その半分500個について不当利得として返還請求することができると解するのが相当である。不当利得は正義・公平を図るための制度であるところ、GはHとの関係では適法に全部の返還を受けたのであるが、Fとの関係では、その持分割合に応じた分について、正義公平の観点から「法律上の原因」なく取得したものといえるからである。なお、このように解するのであれば、初めからGは持分割合に応じた分しか返還請求しえないとした方が簡明であるとも思えるが、有償受託者は寄託物について善管注意義務を負う(400条)ところ、その保管中に何らかの理由で寄託物が減少、滅失した場合の責任は本来的に受託者が負うべきであって、特に本件のように受託者Hの過失によって寄託物が減少滅失した場合において、他の混合寄託者があることをもってその返還を免れることができるとするのは不当であるといえ、またそのように解することが当事者の合理的意思にかなうともいえる。
3 以上より、Hの主張は妥当でなく、GはHに対して「和風だし」1000箱全ての返還を請求できる。
第3 設問3
1 「山菜おこわ」が盗取されたのは、Hがこれを保管していた丙建物の施錠を忘れていたからであるところ、Hの過失によりこれをFに返還することができなくなったといえ、Hはかかる履行不能について損害賠償責任を負う(415条後段)。
では、FはQにおいて「山菜おこわ」を扱ってもらえなくなってしまったことについてまでHに対して損害賠償を求めることができるか。かかる損害も416条の規定する損害賠償の範囲に含まれるかを検討する必要がある。
2 FがQとの「山菜おこわ」にかかる商談を反故にされるというのは、Hによる上記不履行から通常生じうる事態とまではいえないので、これによって生じた損害を「通常生ずべき損害」(1項)とみることはできない。
では、特別損害(2項)に当たると言えるか。ここで、同項の趣旨は、債務者において予見できた範囲に賠償の範囲を限定することで、その賠償額が不当に拡大しないようにするという点にあると解される(相当因果関係説)。したがって、ここにおける予見の基準時は当該債務にかかる契約締結時ではなく、債務不履行時であると解するのが相当である。
3 これを本件についてみると、FとQとの取引についての事情などはHが与り知らないものであるかにも思える。
しかしHは、Fから、新しくQ百貨店に「山菜おこわ」を置いてもらえることになり、うまくいけばさらに全店舗でこれを取り扱ってくれると約束されている等の話を聞いているところ、新たに取引を開始する当事者においては未だ信頼関係が十分に形成されていないことから特に初めの取引については慎重を帰すべきであり、またちょっとした不信事由で容易に交渉が反故にされうるものであると、通常考えられる。そうであるとすれば、そのような事情を知っているHにおいては、債務不履行時点において、「山菜おこわ」を滅失等することによりFがQにより商品保管態勢が不十分であるとみなされ取引交渉を保護にされることにもなりうることまで予見できたといえる。
よって、この下線部の経過があったためにQとの取引が反故となったことによって生じた損害について、FはHに対し、その賠償を求めることができる。
以上
【体験談】
・去年は百選判例がベースの問題ばかりだったので、今年も大きく傾向が変わることはないだろうと予想していた。しかし初めにざっと目を通して、百選判例がベースとなっているのは設問3だけであり、しかも設問1、2とも典型論点が聞かれているのではなく出題の趣旨がぱっとみてわからなかったのでちょっと焦った。
・設問1小問(1)は、何を聞きたいのがよくわからなかった。仕方がないので、基本的なことを書いてやり過ごすことにした。小問(2)もよくわからなかったが、時効取得の要件を検討しろというので、さしあたり問題となるのは「平穏・公然」と「所有の意思をもって」くらいしかないだろうと思い、割り切ってこれについて論じることにした。
・設問2は、具体的な契約書があるので、それを元に当該契約の解釈を求める問題であると思った。他の債権者の権利の存在をもって一方の債権者からの履行請求を拒めるかという問題は、債権の二重譲渡における同時到達の話に少し似ていると思い、受託者において履行を拒むことはできないが、それによる混合寄託者間での不公平は不当利得で解決する、という論理が使えると思い、採用した。
・設問3は、無償寄託であり、よって自己物同一義務にとどまる可能性があることについて気づいていたにもかかわらず書き落とした。設問1、2で時間をかけすぎたため若干焦っていたせいだと思う。