第1問
第1 設問1
1 小問(1)
後見開始の審判については、法の適用に関する通則法(以下略す)5条による。
同条は、後見開始の審判をするにあたっては被後見人の生活状況等をみる必要があることから被後見人の住所地国ないし居所地国に、また自国民保護の要請から国籍国に国際裁判管轄(以下単に「管轄」とする)を認める。そして、その管轄の認められた国の法が準拠法となる(管轄法廷地法主義)。これは、後見開始の審判にかかる事項は手続に関するものであるとして、「手続は法廷地法による」べきとの趣旨に基づくものと解される。
したがって、本件では、20年来日本に居住し、住所ないし少なくとも居所を有するAの日本の裁判所での後見開始の審判については、法廷地法たる日本法が適用される。
2 小問(2)について
(1) Bを後見人と選任することができるかというのは、すなわち、誰に後見人適格が認められるかという問題であるが、その準拠法はいかにして決するべきか、その法性決定が問題となる。
この点、誰が後見人となりうるかという問題は、実体法的な問題であって専ら審判手続にかかわるものとはいえないから、5条の問題と解するべきではなく、35条の問題として解するのが相当である
(2) 35条1項は、原則として被後見人の本国法を準拠法とする。これは、身分的法律関係はその本人の本国に密接な関連性があると解されるからである。そうすると、本件では、被後見人Aの本国法たる甲国法が適用されるかに思える。
しかし同条2項2号は、日本において当該外国人について後見開始の審判があったときは、日本法によるとしている。これは、日本で後見開始の審判があった場合5条により日本法が適用されることになるところ、それと同じ法を適用するとすることで法的整合性を確保し、実効性を担保するためである。
したがって、本件ではAの後見開始の審判は日本で行われているから、その後見人適格についての準拠法も日本法となる。そして、日本の民法上配偶者たるBを後見人から排除する旨の規定はないから、Bを選任することも可能である。
3 小問(3)
(1) 認知による非嫡出親子関係の成否は、29条による。
同条によれば、その親となる者の出生当時の本国法が認知主義を採用する場合、その法に加えて、認知当時の親の本国法、子の本国法の3つが選択的に連結されることになる(同条1項前段、2項前段)。この趣旨は、子の福祉の観点から、認知による非嫡出親子関係の成立を容易にするところにあると解される。
また、親の本国法が準拠法となる場合でも、認知当時の子の本国法がその子又は第三者の承諾や同意を要件としている場合には、その要件を備えることも求められる(セーフガード条項、同条1項後段、2項後段)。これもまた、子の福祉を図ることを趣旨とする。
(2) 本件では、AもXも甲国人であるため、いずれにせよ甲国法が準拠法となり、セーフガード条項の適用は問題とならない。
そして、甲国法②によれば被後見人も後見人の同意なく認知をすることができるから、AによるXの任意認知につき後見人Bの同意は不要である。
第2 設問2
1 法性決定
本件ではAの死亡から既に2年6箇月が経過しているところ、甲国法①によれば最早認知の訴えは提起しえないことになるが、日本法によれば未だ提起できることになる(民法787条)。そこで、認知の訴えの提訴期間についていずれの法が適用されるか、その法性決定が問題となる。
この点、提訴期間は訴訟手続の問題であり、法廷地法を適用すべきかにも思える。しかし認知の訴えの提訴期間は、認知による子の利益保護と親の死後の親子にかかる法律関係の早期安定の調和の見地から実体法的に定められるものであって、訴訟手続の問題としてとらえるべきではない。
したがって、これもあくまで認知による非嫡出親子関係の成否の問題として29条によると解するのが相当である。
2 29条の適用と反致
(1) そうすると、前述の通り、29条により甲国法が適用されることになる。ここで、甲国の国際私法P条によれば、父による子の認知は、出生当時の父の本国法、認知当時の父の本国法のほか、認知当時の子の常居所地法の3つの法に選択的に連結されることになる。本件で、Xは出生以来日本において生活していたというから、認知当時Xは日本に常居所地を有していたと考えられる。
そうであるとすれば、XないしAの「本国法」たる甲国法「によるべき場合において、その国の法に従えば」認知当時のXの常居所地法たる「日本法によるべきとき」に当たるとして、41条により反致され、結局日本法が適用されるのではないか。
(2) これに対し、29条が認知による非嫡出親子関係の成立を容易にするために選択的連結を採用した趣旨に鑑み、同条が適用される場面では41条は適用しないと解する見解もある。
しかし、41条はその但書において適用除外される場合を明示しているところ、国際的な判決の調和の観点も鑑みれば、この場合以外については反致が適用されるというのが法の趣旨と解するべきである。また、反致されることにより必ずしも法律関係の成立が認められにくくなるとは限らず、現に本件ではかえって反致を認めることにより非嫡出親子関係の成立が認められやすくなることになる。
したがって、29条の適用の場面においても、反致は認められると解するのが相当である。
(3) そうすると本件では、反致により、日本法が適用されることになるから、民法787条により、Aの死後2年6箇月現在においては、検察官を被告として認知の訴えを提起することが可能である。
以上
第2問
第1 設問1
1 小問(1)
Yは「外国会社」(会社法2条2号参照)として本件サイトを通じて「日本において取引を継続して」行なっている。また、本件売買契約は、日本に主たる営業所を有する日本の会社であるXが、本件サイトからGの購入の問い合わせをしたうえ、東京において締結されたということであるから、その債務の不履行に関する訴えは「日本における業務に関するものである」といえる。
以上より、民事訴訟法3条の3第5号により管轄が認められると考えられる。
2 小問(2)
(1) まず、Xの主たる営業所は日本にあり、Yの主たる営業所は甲国にあって日本には一切の営業所を有しないということから、本件売買契約は「営業所が異なる国に所在する当事者間」のものであるといえる(条約1条(1)柱書)。
そして、甲国は条約の締約国ではないものの、法の適用に関する通則法(以下略す)によれば本件売買契約の準拠法が日本法にとなるということから、同条(1)(b)に当たる。
(2) 次に、条約2条に当たるかみると、本件売買はXが会社として自らの事業のためにGを購入したものであるから、個人用等ではなく、また競り競売やその他法令に基づく売買ではなく、取扱い物品も(d)~(f)のいずれにも当たらない。よって、2条の適用除外事由には当たらない。
(3) また、本件売買の目的物はYの自社製品であるところ物品をY自ら製造してこれをXに売るものと思われるところ、その材料は専らYが調達するものと考えられ、またYの義務の主要な部分が役務の提供であるともいえないので、条約3条(1)但書、(2)により除外されることもない。
(4) そして、当該Xの請求は、本件売買契約にかかる債務不履行に基づく損害賠償請求であるから、「売買契約から生ずる売主及び買主の権利及び義務について」のものであり(条約4条)、5条の問題には当たらない。
(5) 以上より、日本の裁判所は、Xの請求につき条約を適用することができる。
なお、X及びYが同条約の適用を除外する旨を合意した場合はこの限りでない(条約6条)。
第2 設問2
1 まず、Zは、個人としてG(H)を購入しているから、当該売買は「個人用」であるとして条約の適用はない(条約2条(a))。
そして、契約が要素の錯誤により無効になるかというのもその契約の効力にかかる問題といえるから、原則として当事者が合意した法が準拠法となるのが原則である(法の適用に関する通則法(以下略す)7条)。この7条の趣旨は、多くの国の実質法において採用されている当事者自治の原則を国際私法上にも反映させようという点にある。そうすると、この売買について、ZとYが甲国法を準拠法とする旨を合意しているということから、7条により同法が準拠法となり、日本法P法Q条の適用はないのではないかと思える。
2 ところが、かかる当事者自治の原則は本来対等な当事者間での契約を予定したものであるところ、一方が他方に対して弱い立場にある場合、弱者保護の見地からこの原則を修正する必要がある。そこで法は、11条において消費者契約の特則を置いている。
本件において、Zは事業のためにG(H)を購入したのではなく使用のためにG(H)を購入しているから、「個人」であるといえる。またYは少なくとも自己の「事業として」G(H)を販売したのであるから、「事業者」である(「法人」であるかはその設立準拠法によって決するべきと考えるが、問題文中これは明らかでない)。よって、このZY間の売買には11条の適用がある。
そして、Zは日本に常居所を有しているというのであるから、その「常居所法中の特定の強行規定」であるP法Q条を適用すべき旨を基準時までにYに対して「表示」すれば、同規定を累積的に適用することができる(11条1項)。
3 なお、当該契約はZが日本において申し込んだものであり甲国に自ら赴いたわけでもなく、またその履行も日本にいるZの下に郵送されるというかたちで日本で行われているから、同条6項1号、2号の場合には当たらない。さらに、Yは本件サイトを通じて日本の個人向けにもG等を販売していたのであるから、Zの常居所やZが消費者でなかったことを知らなかったとは考えられないので、同3号、4号にも当たらない。
以上
【体験談】
・全体の印象
まず、ざっと全体を通してみたところ、第1問は論点がわかりやすく、書けることも多いと思った。一方第2問は、典型的な論点が見当たらず、基本的な条文操作を聞いているようにしか見えず、書く事は少ないように思えた。そこで、第2問を手早く片付けてから第1問についてがっつり書くことにした。
内容面では、過去の採点実感等で指摘されていたことから、条文の趣旨について(必ずしも問題の解決に必要でない場合であっても)いちいち書くことをこころがけた。
・第2問について。
設問1小問(1)は改正民事訴訟法3条の3第5号を聞きたいことは明らかだと思ったが、それ以外の管轄規定についても述べるべきか迷った。しかしそれではきりがないと思い、思い切って同号についてのみ書き、先に進むことにした。一方小問(2)については、条約の適用要件をひとつひとつ検討していけばそれなりの分量になるなと思った。結局、この設問1では小問(1)は適切な条文を指摘、操作すること、(2)では条約の適用要件の丁寧なあてはめができるかを聞いているのだろうと考え、(2)について多くの分量を割くことにした。
設問2については、通則法11条について聞かれているのだろうということはわかったが、ここでも論点らしい論点は見つからず、何をどれだけ書くべきか悩んだ。とりあえず、7条との関係にも触れつつ、同条の趣旨を丁寧に書き、その上で条文を本問に丁寧にあてはめる、という作業をすることにした。11条6項の適用除外については、試験終了5分前に気づき、慌てて付け足したので十分な論述はできなかった。もっとも本問で除外事由に当てはまるのではないかといえる事情はないから、論述の必要性があったかは微妙なところだとも思った(だからこそ気付かなかったというのもある)。しかし過去の出題の趣旨等や第1問の設問の少なさからして、ここまでしっかり論じることを求められている可能性も相当高いと思い、短い時間で最小限のことを書くことにした。
・第1問について
設問1の3問は、特に大きな論点は見当たらなかったので、法性決定、連結、準拠法の決定という作業を各条文の趣旨についてまで言及した丁寧に行うことにした。
設問2について、まずセーフガード条項と反致という有名な論点が聞かれていることは問題文からして明らかだと思った。さらによく検討すると、そもそも提訴期間の単位法律関係は何か?という点も問題になるのではないかと思った。そこで、提訴期間の法性決定についてまず論じることにしたが、聞いたことのない話だったのでここは自分で考えて書いた。そしてセーフガード条項と反致の論点については、某予備校の全国模試で聞かれていたので受験生の多くが答えてくるだろうと思い、下手なミスをしないよう注意しつつ、事案の特殊性に応じて柔軟に論じるよう心がけた。
刑事系第2問(刑事訴訟法)
第1 設問1
1 捜査①の適法性
(1)ア 捜査①は、搜索すべき場所を「…T株式会社」とする搜索差押許可状(以下「本件許可状」とする)に基づいて行われたものである。一方Kが開封した乙宛ての荷物は搜索差押えの当初からあったものではなく、その途中でT社に郵送されてきたものであるところ、これについても本件許可状により搜索することができるか。許可状の効力の及ぶ範囲が問題となる。
イ この点、刑事訴訟法(以下略す)219条1項が搜索差押許可状には捜索すべき場所を明記することとしているのは、憲法35条の精神に鑑み、特定の私人の管理する住居等についてのプライバシーを保護する点にあると解される。そうであるとすれば、当該許可状の効力が及ぶのは、あくまでその「搜索すべき場所」にかかる特定私人の管理権の及ぶ範囲に限られ、それ以外の者の管理権が及ぶものについてはこれにより搜索することはできないと解するのが相当である。したがって、搜索差押えが開始された時点においてその場所になかったものであっても、本来その場所の管理権に服することが予定されていたものであればその許可状の効力が及ぶというべきである
ウ これを本件についてみると、まず本件許可状はT社を捜索すべき場所とするものであることから、その管理権は同社の代表取締役社長である甲にあると考えられる。これに対して、当該荷物は乙宛てとされている以上、その管理権は乙にあり、本件許可状の効力は及ばないかに思える。
しかし、先に押収された甲の携帯電話内のメールによると、丙なる人物より、乙宛てに送った“ブツ”については乙と2人でさばくこと、またその旨を乙にも伝えておくことが甲に対して指示されており、これを受けて甲は乙にその旨を伝えてブツを2人でさばくことを指示している。このような事情からすると、この乙宛ての荷物は乙宛てとあるものの実際には主に甲に宛てて送られたものといえ、また乙がT社の従業員として甲に対して従属的な地位にあることも考えあわせると、乙が甲とは別に独立した管理権を当該荷物に対して有していたとはいえないとみるべきである。
したがって、当該荷物もまた甲の管理権に服するものであり、本件許可状の効力が及ぶものであったといえる。よって、この点について違法はない。
(2) 次に、Kは本件許可状を示す前にT社に立ち入っているところ、222条1項、11条に反するのではないかとも思える。
確かに被処分者の権利保護の見地からすれば立ち入り前の呈示が望ましいが、搜索の実効性担保のために必要であるときは、立ち入り後可能な限り速やかに呈示するのであれば、立ち入り後であっても違法とならないというべきである。
そうすると本件では、罪質の悪質な営利目的覚せい剤所持の被疑事実であること、差押え対象物の覚せい剤は容易に隠滅しやすいことからすれば、その実効性担保のために許可状の呈示は立ち入り後とする必要性はあったといえ、またKは立ち入った後速やかに呈示している。したがってこの点についても違法な点はない。
(3) 以上より、捜査①は適法であったといえる。
なお、当該荷物から発見された覚せい剤は乙についての営利目的覚せい剤所持の証拠となりうるが、同時に本件許可状にかかる甲についての被疑事実の証拠ともなるものであるから、専ら乙の犯罪事実についての捜索であったとはいえないから違法な別件捜索には当たらない。
2 捜査②の適法性
(1) 本件許可状に基づくものとして
ここでも、捜査①と同様に、乙と表示のあるロッカーの中の管理権は誰にあったかを検討する。
甲が言うには、このロッカーは甲が管理しているものであるというから、その管理権は甲に服するかに思える。しかし、そのロッカーの中に所在する物については当然その利用者たる乙が管理するものであって、そこに鍵でしっかりと施錠されていたことからすれば、その中身は乙の独立した管理権に服するものであったといえる。
よって、このロッカーの中については本件許可状の効力は及ばず、これに基づく捜索としては捜査①は違法である。
(2) 現行犯逮捕に伴うものとして
ア 捜査①において発見された乙宛てに送られてきた荷物の中身について、Kが「これは覚せい剤だな。売るためのものだな。」などと乙に問いかけたのに対し、乙はこれを特に否定するのでもなく、「ばれてしまったものは仕方ない」などと言って観念している。したがってこの中身が検査により覚せい剤であることが判明した時点で、乙は営利目的覚せい剤所持罪について「現に罪を行」っている者といえ、これを現行犯逮捕したことは適法であったといえる(212条1項)。
イ そうすると、Kらは、220条1項2号により、「逮捕の現場」において捜索等をすることができることになる。
ここで、同規定は、逮捕の現場においては当該被疑事実に関する証拠が所在することが多いことに鑑みそこでの証拠収集を可能としたものであると解する。ただしそのような令状なき捜索はあくまで適法な逮捕によって正当化されるのであるから、「逮捕の現場」とは逮捕した場所・時点と近接性を有することが必要である。また、「必要があるとき」とは上記の本規定の趣旨からして、当該逮捕の被疑事実と関連性を有することを要すると解する。
これを本件についてみると、当該ロッカーは、乙を逮捕したのと同じT社内の隣の更衣室にあり、逮捕後すぐにこれの捜索に取り掛かっているから乙の逮捕と場所的にも時間的にも近接したところでなされたものといえ「逮捕の現場」ないしこれと同視しうるところでなされたものであるといえる。また、特に営利目的を有していたかを立証するためには甲と同様に乙の携帯電話や手帳を調べる必要があるといえるから、これらが入っていると思われる乙用のロッカーについて捜索する必要はあったといえ、その被疑事実との関連性も認められる。
以上より、この点についても違法はない。
ウ 次に、Kは乙の承諾なく勝手に当該ロッカーを解錠しているが、これは「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許されるか問題となる。
この点、「必要な処分」として許されるか否かは、捜索差押えの実効性の確保と被処分者の権利利益の保護の調和の観点から、必要かつ社会通念上相当なものであったといえるかによって決するべきである。
本件では、Kの求めに対して乙はかたくなに応じなかったところ、ここに乙の被疑事実に関する証拠が存する可能性も相当程度あると考えられることからすれば、乙の承諾なくこれを解錠することの必要性も低くはなかったといえる。そして、そのために採られた手段としては、壁に掛かっていたマスターキーを使ってこれを解錠するという極めて穏便な手段であった。以上からすれば、Kが乙の承諾なく解錠した行為は「必要な処分」として許されるものであったといえる。
エ 以上より、捜査②は、現行犯逮捕に伴う捜索としては適法であったといえる。
第2 設問2
1 我が国の刑事訴訟法が採用する当事者主義的構造(256条6項等)にかんがみ、刑事訴訟における審判対象は検察官の提示する訴因であると解するべきである。
そうであるとすれば、本件において、裁判所が資料1の「公訴事実」に挙げられた事実と異なり、甲を単独犯ではなく共同正犯として認定し、その旨の判決をすることは不告不理の原則の原則(378条3号参照)に反し違法でないか。訴因変更(312条)の要否が問題となる。
2 そもそも、訴因は、それにより審判対象を画定し、また被告人において防御の範囲を明確にするという機能を営む。
したがって、このような訴因の機能を害することになる場合に、訴因変更が必要となると解するのが相当である。
3 これを本件についてみると、まず、単独正犯と共謀共同正犯とでは、一応別個の構成要件であって審判対象を異にするものであるとも思える。しかしいずれも「正犯」であることは変わらず、特に共同正犯者のうちでも実行行為を担当した者については共謀者があると否とによって大きく審判対象が異なるものではない。したがって、本件において訴因変更をしなかったとしても、審判対象画定機能を害するものではないといえる。
次に、被告人の防御の観点からすると、通常単独正犯と共同正犯とでは一応防御の範囲、方法も異なってくることも考えられるから、抽象的にみれば被告人の防御の範囲明確化機能を害するかに思える。しかし本件においては、そもそも共謀者丙があることを主張したのは被告人弁護人Bの方であるし、またもし仮に丙との共謀関係が認められればむしろ甲の犯情は軽くなるというから、甲にとってはかえって有利になる(一種の縮小認定ともいえよう)。そうすると、具体的にみると、訴因変更をしなかったとしても被告人の防御の範囲を明確にする機能を害されることもないといえる。
以上より、本件では、訴因変更は必要でなかったといえる。
4 よって、本件判決の内容及びそれに至る手続は適切であった。
以上
【体験談】
・設問1について
捜査①は某予備校の直前の模試と同じ論点であったので、多くの人が書けるだろうからかなり頑張って書かないと点は伸びないだろうと思った。そこで抽象論に陥らず事案の特殊性から具体的に妥当な論理構成、結論を導き出せるよう、問題文中に上がっている事実を適格に拾い、評価して論じることを心がけた。
捜査②は、特に重要な法的問題点となるような事情が見当たらず、考えてもわからなかったので、許可状に基づく捜索については捜査①の延長の問題として論じ、逮捕に伴う捜索についてはその要件をひとつひとつ検討していけばよいだろうと割り切って、淡々と書いた。
・設問2について
今年は訴因変更が出る可能性が高いと思い、ある程度準備はしていた(本問は、単独犯の訴因に対して共同正犯実行犯の心証を得た場合について判示した平成21年7月21日最高裁決定がモデルになっていると思われる)から、それなりの水準の答案が書けたのではないかと思う。 設問には「判決の内容及びそれに至る手続」とあったこと、訴因変更の要否だけだと結構時間があまることから、他にも論点があるのではないかとも思った。しかし考えてもわからなかったので無視して、訴因変更の要否について丁寧に論じることにした(なお構成段階から訴因変更不要とすると結論づけることとしていたため、訴因変更の可否や許否については初めから書くつもりはなかった)。ただ、それでも時間がないと思い論述を若干端折ってしまったのだが意外に時間が余ってしまい、もったいないことをした。
第1 設問1
1 捜査①の適法性
(1)ア 捜査①は、搜索すべき場所を「…T株式会社」とする搜索差押許可状(以下「本件許可状」とする)に基づいて行われたものである。一方Kが開封した乙宛ての荷物は搜索差押えの当初からあったものではなく、その途中でT社に郵送されてきたものであるところ、これについても本件許可状により搜索することができるか。許可状の効力の及ぶ範囲が問題となる。
イ この点、刑事訴訟法(以下略す)219条1項が搜索差押許可状には捜索すべき場所を明記することとしているのは、憲法35条の精神に鑑み、特定の私人の管理する住居等についてのプライバシーを保護する点にあると解される。そうであるとすれば、当該許可状の効力が及ぶのは、あくまでその「搜索すべき場所」にかかる特定私人の管理権の及ぶ範囲に限られ、それ以外の者の管理権が及ぶものについてはこれにより搜索することはできないと解するのが相当である。したがって、搜索差押えが開始された時点においてその場所になかったものであっても、本来その場所の管理権に服することが予定されていたものであればその許可状の効力が及ぶというべきである
ウ これを本件についてみると、まず本件許可状はT社を捜索すべき場所とするものであることから、その管理権は同社の代表取締役社長である甲にあると考えられる。これに対して、当該荷物は乙宛てとされている以上、その管理権は乙にあり、本件許可状の効力は及ばないかに思える。
しかし、先に押収された甲の携帯電話内のメールによると、丙なる人物より、乙宛てに送った“ブツ”については乙と2人でさばくこと、またその旨を乙にも伝えておくことが甲に対して指示されており、これを受けて甲は乙にその旨を伝えてブツを2人でさばくことを指示している。このような事情からすると、この乙宛ての荷物は乙宛てとあるものの実際には主に甲に宛てて送られたものといえ、また乙がT社の従業員として甲に対して従属的な地位にあることも考えあわせると、乙が甲とは別に独立した管理権を当該荷物に対して有していたとはいえないとみるべきである。
したがって、当該荷物もまた甲の管理権に服するものであり、本件許可状の効力が及ぶものであったといえる。よって、この点について違法はない。
(2) 次に、Kは本件許可状を示す前にT社に立ち入っているところ、222条1項、11条に反するのではないかとも思える。
確かに被処分者の権利保護の見地からすれば立ち入り前の呈示が望ましいが、搜索の実効性担保のために必要であるときは、立ち入り後可能な限り速やかに呈示するのであれば、立ち入り後であっても違法とならないというべきである。
そうすると本件では、罪質の悪質な営利目的覚せい剤所持の被疑事実であること、差押え対象物の覚せい剤は容易に隠滅しやすいことからすれば、その実効性担保のために許可状の呈示は立ち入り後とする必要性はあったといえ、またKは立ち入った後速やかに呈示している。したがってこの点についても違法な点はない。
(3) 以上より、捜査①は適法であったといえる。
なお、当該荷物から発見された覚せい剤は乙についての営利目的覚せい剤所持の証拠となりうるが、同時に本件許可状にかかる甲についての被疑事実の証拠ともなるものであるから、専ら乙の犯罪事実についての捜索であったとはいえないから違法な別件捜索には当たらない。
2 捜査②の適法性
(1) 本件許可状に基づくものとして
ここでも、捜査①と同様に、乙と表示のあるロッカーの中の管理権は誰にあったかを検討する。
甲が言うには、このロッカーは甲が管理しているものであるというから、その管理権は甲に服するかに思える。しかし、そのロッカーの中に所在する物については当然その利用者たる乙が管理するものであって、そこに鍵でしっかりと施錠されていたことからすれば、その中身は乙の独立した管理権に服するものであったといえる。
よって、このロッカーの中については本件許可状の効力は及ばず、これに基づく捜索としては捜査①は違法である。
(2) 現行犯逮捕に伴うものとして
ア 捜査①において発見された乙宛てに送られてきた荷物の中身について、Kが「これは覚せい剤だな。売るためのものだな。」などと乙に問いかけたのに対し、乙はこれを特に否定するのでもなく、「ばれてしまったものは仕方ない」などと言って観念している。したがってこの中身が検査により覚せい剤であることが判明した時点で、乙は営利目的覚せい剤所持罪について「現に罪を行」っている者といえ、これを現行犯逮捕したことは適法であったといえる(212条1項)。
イ そうすると、Kらは、220条1項2号により、「逮捕の現場」において捜索等をすることができることになる。
ここで、同規定は、逮捕の現場においては当該被疑事実に関する証拠が所在することが多いことに鑑みそこでの証拠収集を可能としたものであると解する。ただしそのような令状なき捜索はあくまで適法な逮捕によって正当化されるのであるから、「逮捕の現場」とは逮捕した場所・時点と近接性を有することが必要である。また、「必要があるとき」とは上記の本規定の趣旨からして、当該逮捕の被疑事実と関連性を有することを要すると解する。
これを本件についてみると、当該ロッカーは、乙を逮捕したのと同じT社内の隣の更衣室にあり、逮捕後すぐにこれの捜索に取り掛かっているから乙の逮捕と場所的にも時間的にも近接したところでなされたものといえ「逮捕の現場」ないしこれと同視しうるところでなされたものであるといえる。また、特に営利目的を有していたかを立証するためには甲と同様に乙の携帯電話や手帳を調べる必要があるといえるから、これらが入っていると思われる乙用のロッカーについて捜索する必要はあったといえ、その被疑事実との関連性も認められる。
以上より、この点についても違法はない。
ウ 次に、Kは乙の承諾なく勝手に当該ロッカーを解錠しているが、これは「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許されるか問題となる。
この点、「必要な処分」として許されるか否かは、捜索差押えの実効性の確保と被処分者の権利利益の保護の調和の観点から、必要かつ社会通念上相当なものであったといえるかによって決するべきである。
本件では、Kの求めに対して乙はかたくなに応じなかったところ、ここに乙の被疑事実に関する証拠が存する可能性も相当程度あると考えられることからすれば、乙の承諾なくこれを解錠することの必要性も低くはなかったといえる。そして、そのために採られた手段としては、壁に掛かっていたマスターキーを使ってこれを解錠するという極めて穏便な手段であった。以上からすれば、Kが乙の承諾なく解錠した行為は「必要な処分」として許されるものであったといえる。
エ 以上より、捜査②は、現行犯逮捕に伴う捜索としては適法であったといえる。
第2 設問2
1 我が国の刑事訴訟法が採用する当事者主義的構造(256条6項等)にかんがみ、刑事訴訟における審判対象は検察官の提示する訴因であると解するべきである。
そうであるとすれば、本件において、裁判所が資料1の「公訴事実」に挙げられた事実と異なり、甲を単独犯ではなく共同正犯として認定し、その旨の判決をすることは不告不理の原則の原則(378条3号参照)に反し違法でないか。訴因変更(312条)の要否が問題となる。
2 そもそも、訴因は、それにより審判対象を画定し、また被告人において防御の範囲を明確にするという機能を営む。
したがって、このような訴因の機能を害することになる場合に、訴因変更が必要となると解するのが相当である。
3 これを本件についてみると、まず、単独正犯と共謀共同正犯とでは、一応別個の構成要件であって審判対象を異にするものであるとも思える。しかしいずれも「正犯」であることは変わらず、特に共同正犯者のうちでも実行行為を担当した者については共謀者があると否とによって大きく審判対象が異なるものではない。したがって、本件において訴因変更をしなかったとしても、審判対象画定機能を害するものではないといえる。
次に、被告人の防御の観点からすると、通常単独正犯と共同正犯とでは一応防御の範囲、方法も異なってくることも考えられるから、抽象的にみれば被告人の防御の範囲明確化機能を害するかに思える。しかし本件においては、そもそも共謀者丙があることを主張したのは被告人弁護人Bの方であるし、またもし仮に丙との共謀関係が認められればむしろ甲の犯情は軽くなるというから、甲にとってはかえって有利になる(一種の縮小認定ともいえよう)。そうすると、具体的にみると、訴因変更をしなかったとしても被告人の防御の範囲を明確にする機能を害されることもないといえる。
以上より、本件では、訴因変更は必要でなかったといえる。
4 よって、本件判決の内容及びそれに至る手続は適切であった。
以上
【体験談】
・設問1について
捜査①は某予備校の直前の模試と同じ論点であったので、多くの人が書けるだろうからかなり頑張って書かないと点は伸びないだろうと思った。そこで抽象論に陥らず事案の特殊性から具体的に妥当な論理構成、結論を導き出せるよう、問題文中に上がっている事実を適格に拾い、評価して論じることを心がけた。
捜査②は、特に重要な法的問題点となるような事情が見当たらず、考えてもわからなかったので、許可状に基づく捜索については捜査①の延長の問題として論じ、逮捕に伴う捜索についてはその要件をひとつひとつ検討していけばよいだろうと割り切って、淡々と書いた。
・設問2について
今年は訴因変更が出る可能性が高いと思い、ある程度準備はしていた(本問は、単独犯の訴因に対して共同正犯実行犯の心証を得た場合について判示した平成21年7月21日最高裁決定がモデルになっていると思われる)から、それなりの水準の答案が書けたのではないかと思う。 設問には「判決の内容及びそれに至る手続」とあったこと、訴因変更の要否だけだと結構時間があまることから、他にも論点があるのではないかとも思った。しかし考えてもわからなかったので無視して、訴因変更の要否について丁寧に論じることにした(なお構成段階から訴因変更不要とすると結論づけることとしていたため、訴因変更の可否や許否については初めから書くつもりはなかった)。ただ、それでも時間がないと思い論述を若干端折ってしまったのだが意外に時間が余ってしまい、もったいないことをした。
第1 甲の罪責
1 事実1~4について
(1) 私文書偽造及び同行使の成否(刑法(以下略す)159条1項、161条1項)
ア 甲はA社社員総会が全く開催されていないにもかかわらず、甲の印を押捺したうえ「代表社員甲」と署名して勝手にその議事録を作成しているところ、甲には有印私文書偽造罪が成立しないか。甲が勝手に議事録を作成したことをもって有形偽造にあたるかが問題となる。
この点、本罪の保護法益は文書に対する公共の信頼であると解されるところ、有形偽造に当たるのは当該文書の作成名義人と作成者の同一性に齟齬が生じるような場合であると考えられる。
では、本件議事録の作成名義人と作成者の同一性に齟齬は生じているか。まず、本件議事録の法的効果は代表たる甲ではなく本人たるA社に及ぶのであるから、A社が作成名義人に当たると解するべきである。そして、本件議事録は甲が必要な承認手続を経ずに勝手に作成したものであるから、甲がA社代表としてではなく個人としての意思をこれに表示したあるいはさせたものといえ、よってその作成者は個人としての甲であるといえる。
よって、両者の同一性には齟齬が生じているといえ、よって本件議事録は有形偽造されたものといえる。
イ そして、甲は「代表社員甲」と署名して押印しているから「他人の印章もしくは署名を使用し」たといえる。
ウ また、甲は融資を受けるためにDに提示する目的でこれを作成したのであるから、「行使の目的」もあったといえる。
エ 以上より、甲には有印私文書偽造罪が成立し、Dにこれを提示した時点で同行使罪が成立する。
(2) 詐欺罪の成否(246条1項)
ア 甲は、A社の承認決議がないにもかかわらず、偽造した本件議事録を提示してこれがあったかのように見せかけ、Dを騙し1億円の融資を受けている。そこで、甲にはDに対する1項詐欺罪が成立しないか。Dは承認手続がないことについて善意無過失であったということから、会社法上A社は本件土地についての抵当権設定契約の無効をDに対抗できないのであるから、欺罔行為がない、あるいは財産上の損害がないといえないかが問題となる。
イ この点、本罪は個別財産に対する罪であると解するところ、当該財産を処分するか否かを決するに重要な事項について錯誤を生じさせるものであれば欺罔行為に当たり、それにより錯誤に陥りその財産を交付したことをもって財産上の損害にあたると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみると、確かにDは法律上はA社に対して優先する地位にあるものの、A社との無用な紛争が生じることは望むところではなく、正式な承認手続があったか否かはDが甲に融資をするか否かを決するに重要な事項であったといえる。よって、甲は本件議事録を交付する等してDを欺罔し、1億円の財産上の損害を被らせたとして、1項詐欺罪の罪責を負う。
(3) 業務上横領罪の成否(253条)
ア 甲は、A社の承認手続を経ずに無断で本件土地について自己の債務の担保のために抵当権を設定したところ、業務上横領罪が成立しないか。
イ まず、甲は、A社の代表社員として、同社の所有する不動産の処分・管理権を与えられていたというのであるから、A社との委託信任関係に基づき、社会生活上の身分により反復継続して本件土地について法律上これを占有していたといえ、「業務上」「他人」たるA社の所有する本件土地を「占有する」者であったといえる。
そして、本件土地に甲の個人的債務の担保のために勝手に抵当権を設定することは、当然A社が許すはずのないことであり、不法領得の意思、すなわち委託の趣旨に反し所有者でなければできない処分をする意思の発現した行為であるとして「横領した」といえる。
ウ よって、甲にはA社に対する業務上横領罪が成立する。
2 事実5~8について
(1) Dに対する背任罪の成否(247条)
ア 甲はDのための抵当権設定登記が抹消された本件土地を勝手にEに売却し登記も具備させたところ、これによりDは抵当権をEに対して対抗できず、事実上これを実行することができなくなった。そこで、この点について甲に背任罪が成立しないか。
なお、本件土地はDの所有物ではないので、Dに対する関係では横領罪(252条1項)が成立することはない。
イ まず、登記の設定されていない本件土地について、抵当権設定者たる甲はDのためにこれを適切に保存すべき担保価値維持義務を負っているというべきであり、そのような意味で「他人のためにその事務を処理する者」に当たるといえる。
次に、上記のとおり未登記の本件土地を第三者に売却することは実質的に抵当権者の抵当権を失わせることに等しく、同人に「財産上の損害」を生じさせるものであり、「任務に背く行為」に当たることは明らかである。
そして、甲は売却代金を自己の債務の返済に充てることを専らの目的としていたというのであるから、「自己の…利益を図」る目的を有していたといえる。
ウ 以上より、甲にはDに対する背任罪が成立する。
(2) A社に対する業務上横領罪
前述のように本件土地につき抵当権を設定することが本罪に当たる以上、これを完全に売却してしまうことも本罪に当たることは明らかである。
もっとも、いずれも同じ被害者同じ土地に対する横領行為であるから、その違法性はいずれかの罪において評価し尽くされるべきであるので、共罰的事後行為となると解するのが相当である。
(3) Eに対する詐欺罪の成否
Eは登記を先に具備することによりDに優先する関係にあるが、EもまたDとの無用な紛争に巻き込まれたくないと考えると思われるところ、本件土地について抵当権が設定されているか否かはEがこれを購入するに重要な事項であるといえる。
よって甲は不作為による欺罔行為によりEに本件土地を売却し、代金1億円の交付を受けたとして、Eに対する1項詐欺罪の罪責を負う。
第2 乙の罪責
1 背任罪の共同正犯
(1) 乙は、本件土地についてDのために抵当権が設定されており、これを勝手に売買することがDに損害を生じさせること、また甲が図利目的をもってこれを売却することを認識しながら、本件土地をEに売却するよう甲に働きかけ、両者を仲介している。そこで、乙には甲との背任罪の共同正犯(60条)が成立しないか。
なお、乙は事務処理者たる身分を有しないが、65条1項により、甲がその身分を有することをもって共同正犯としての罪責を負いうることになる。
(2) しかし、乙は本件売買を仲介する者として、甲と異なり本人たるDとは独立し場合によっては相対しうる利害を有するといえる。このような者については、ある程度本人の犠牲の下に自己の利益を図ることが許されてしかるべきところ、身分者が背任行為に及ばざるをえない状況を知りながらことさらにこれを利用したり、あえて積極的に背任行為を働きかけたりするなど社会通念上特に不相当といえる関与をした場合に限りその共同正犯としての罪責を負うことになると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、乙は甲が金に困っている状態を知りつつ、自らが仲介手数料を得るためにことさらにこれを利用して本件土地をEに売却させようとしている。さらに乙は、はじめは売却に消極的であった甲に対して、「登記なしで放っておくDが悪い」などといって強く甲を説得し、当該背任行為に及ぶことを決意させており、これに積極的に関与したともいえる。
したがって、乙は社会通念上特に不相当な関与をしたとして、乙には本罪の共同正犯が成立する。
2 横領罪の共同正犯
(1) 乙は本件売買がA社に対する(業務上)横領に当たると認識しながら、上記のように仲介手数料を得るために甲に積極的に働きかけてこれを実行させているところ、乙は正犯意思をもってこれに関与したとして、横領罪の共謀共同正犯に当たるといえる。
(2) ここで、乙は業務者たる身分も占有者たる身分も有しないところ、どのようにして罪の成立及び科刑を考えるべきか問題になる。
この点、65条1項は構成身分、2項は加減身分についてそれぞれ罪の成立及び科刑を規定したものであると解する。このように解することが条文文言からして素直であり、また罪の成立と科刑は分離して捉えるべきでないからである。また、共同正犯とは特定の犯罪を共同して行うものであると解するので、共同正犯者間に成立する罪は一致しなければならないと考える。そして、業務上横領罪は、占有者たる身分が構成身分、業務者たる身分が単純横領罪に対する加重身分であると考える。
以上より、本件では、甲乙間には単純横領罪の共同正犯が成立し、甲については業務上横領罪の単独犯にこれが吸収されることになる。
3 詐欺罪の共同正犯
乙はEに対する詐欺罪についても、上記横領と同じ理由から、正犯意思をもってこれに関与したといえるから、本罪の共謀共同正犯に当たる。
第3 罪数
1 甲について
有印私文書偽造及び同行使、Dに対する1項詐欺罪については、通常手段と結果の関係に立つといえるから、牽連犯として科刑上一罪となる(54条1項後段)。また、詐欺罪と業務上横領罪は社会通念上1つとみられる行為によって行われているから観念的競合(同前段)となり、よって詐欺罪をかすがいとして科刑上は全体として一罪となる。
次に、売却行為に関して成立する、Dに対する背任罪、A社に対する業務上横領罪、Eに対する1項詐欺罪それぞれの共同正犯についても、1個の売却行為によって行われているとして観念的競合となる。これと前述の罪は併合罪(45条)となる。
2 乙について
甲と同じく、乙について成立する背任罪、単純横領罪、1項詐欺罪はいずれも観念的競合として一罪として科刑される。
以上
【体験談】
・罪責を問われているのが二人だけであること、共犯関係にある罪が一部に限られておりかつ両者を一挙に書いた方が書きやすいと思われる事情が特になかったことから、①甲の罪責→②乙の罪責→③罪数という順で書くことにした。
・ぱっと見て、今年の問題は成立する罪が多く、平成21年に近い問題だと思った。書く量が多く、時間が足りなくなることは目に見えていたので、ひとつひとつを必要なことを簡潔に書くことを心がけた。特に各論ということで、それぞれの罪の構成要件を書き落とさないように気を付けた(それでも書き落としている部分はあるかもしれないが)。
・私文書偽造について、法律効果の及ぶ本人が作成名義人となるという判例・学説の結論については知っていたが、理由付けについては正確に覚えていなかったのでとりあえず基本どおり保護法益から論じることにした。
・背任罪の共同正犯について、有名な判例と異なり、本件では本人は会社ではなく、また共犯者が本人による取引の直接の相手方でなく仲介者であるため、事案が異なる点が気になった。しかし時間が多くは残されていなかったところ、乙の積極的関与等の事情が問題文に詳しく述べられていたため同判例の射程は及ぶものとして書かない手はないと思い、特に深く論じることなく書き進めた。
・二つの横領罪の関係について、あまり時間がなかったので簡単に共罰的事後行為であるとして済ましてしまったが、併合罪ではないことの理由付けしかなく、なぜ不可罰的事後行為でなく共罰的事後行為なのか、という点についてなんら理由付けをしなかったので中途半端な論述になってしまった。また、共罰的事後行為とした場合、最終的な罪数は、検察官がどちらで起訴したかによって結論は変わってくると思うが、その点は訴訟法の分野であるしあまり確証ももてなかったので「3 罪数」ではこの点については触れないことにした。
・横領、詐欺の共同正犯については、特に問題となりそうな点は見当たらず、また時間がなかったことから、端的に認定した。
・論述の濃淡はともかく、書きたいことは一通り書くことができ、尻切れトンボ答案にならなかった点はよかった。
1 事実1~4について
(1) 私文書偽造及び同行使の成否(刑法(以下略す)159条1項、161条1項)
ア 甲はA社社員総会が全く開催されていないにもかかわらず、甲の印を押捺したうえ「代表社員甲」と署名して勝手にその議事録を作成しているところ、甲には有印私文書偽造罪が成立しないか。甲が勝手に議事録を作成したことをもって有形偽造にあたるかが問題となる。
この点、本罪の保護法益は文書に対する公共の信頼であると解されるところ、有形偽造に当たるのは当該文書の作成名義人と作成者の同一性に齟齬が生じるような場合であると考えられる。
では、本件議事録の作成名義人と作成者の同一性に齟齬は生じているか。まず、本件議事録の法的効果は代表たる甲ではなく本人たるA社に及ぶのであるから、A社が作成名義人に当たると解するべきである。そして、本件議事録は甲が必要な承認手続を経ずに勝手に作成したものであるから、甲がA社代表としてではなく個人としての意思をこれに表示したあるいはさせたものといえ、よってその作成者は個人としての甲であるといえる。
よって、両者の同一性には齟齬が生じているといえ、よって本件議事録は有形偽造されたものといえる。
イ そして、甲は「代表社員甲」と署名して押印しているから「他人の印章もしくは署名を使用し」たといえる。
ウ また、甲は融資を受けるためにDに提示する目的でこれを作成したのであるから、「行使の目的」もあったといえる。
エ 以上より、甲には有印私文書偽造罪が成立し、Dにこれを提示した時点で同行使罪が成立する。
(2) 詐欺罪の成否(246条1項)
ア 甲は、A社の承認決議がないにもかかわらず、偽造した本件議事録を提示してこれがあったかのように見せかけ、Dを騙し1億円の融資を受けている。そこで、甲にはDに対する1項詐欺罪が成立しないか。Dは承認手続がないことについて善意無過失であったということから、会社法上A社は本件土地についての抵当権設定契約の無効をDに対抗できないのであるから、欺罔行為がない、あるいは財産上の損害がないといえないかが問題となる。
イ この点、本罪は個別財産に対する罪であると解するところ、当該財産を処分するか否かを決するに重要な事項について錯誤を生じさせるものであれば欺罔行為に当たり、それにより錯誤に陥りその財産を交付したことをもって財産上の損害にあたると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみると、確かにDは法律上はA社に対して優先する地位にあるものの、A社との無用な紛争が生じることは望むところではなく、正式な承認手続があったか否かはDが甲に融資をするか否かを決するに重要な事項であったといえる。よって、甲は本件議事録を交付する等してDを欺罔し、1億円の財産上の損害を被らせたとして、1項詐欺罪の罪責を負う。
(3) 業務上横領罪の成否(253条)
ア 甲は、A社の承認手続を経ずに無断で本件土地について自己の債務の担保のために抵当権を設定したところ、業務上横領罪が成立しないか。
イ まず、甲は、A社の代表社員として、同社の所有する不動産の処分・管理権を与えられていたというのであるから、A社との委託信任関係に基づき、社会生活上の身分により反復継続して本件土地について法律上これを占有していたといえ、「業務上」「他人」たるA社の所有する本件土地を「占有する」者であったといえる。
そして、本件土地に甲の個人的債務の担保のために勝手に抵当権を設定することは、当然A社が許すはずのないことであり、不法領得の意思、すなわち委託の趣旨に反し所有者でなければできない処分をする意思の発現した行為であるとして「横領した」といえる。
ウ よって、甲にはA社に対する業務上横領罪が成立する。
2 事実5~8について
(1) Dに対する背任罪の成否(247条)
ア 甲はDのための抵当権設定登記が抹消された本件土地を勝手にEに売却し登記も具備させたところ、これによりDは抵当権をEに対して対抗できず、事実上これを実行することができなくなった。そこで、この点について甲に背任罪が成立しないか。
なお、本件土地はDの所有物ではないので、Dに対する関係では横領罪(252条1項)が成立することはない。
イ まず、登記の設定されていない本件土地について、抵当権設定者たる甲はDのためにこれを適切に保存すべき担保価値維持義務を負っているというべきであり、そのような意味で「他人のためにその事務を処理する者」に当たるといえる。
次に、上記のとおり未登記の本件土地を第三者に売却することは実質的に抵当権者の抵当権を失わせることに等しく、同人に「財産上の損害」を生じさせるものであり、「任務に背く行為」に当たることは明らかである。
そして、甲は売却代金を自己の債務の返済に充てることを専らの目的としていたというのであるから、「自己の…利益を図」る目的を有していたといえる。
ウ 以上より、甲にはDに対する背任罪が成立する。
(2) A社に対する業務上横領罪
前述のように本件土地につき抵当権を設定することが本罪に当たる以上、これを完全に売却してしまうことも本罪に当たることは明らかである。
もっとも、いずれも同じ被害者同じ土地に対する横領行為であるから、その違法性はいずれかの罪において評価し尽くされるべきであるので、共罰的事後行為となると解するのが相当である。
(3) Eに対する詐欺罪の成否
Eは登記を先に具備することによりDに優先する関係にあるが、EもまたDとの無用な紛争に巻き込まれたくないと考えると思われるところ、本件土地について抵当権が設定されているか否かはEがこれを購入するに重要な事項であるといえる。
よって甲は不作為による欺罔行為によりEに本件土地を売却し、代金1億円の交付を受けたとして、Eに対する1項詐欺罪の罪責を負う。
第2 乙の罪責
1 背任罪の共同正犯
(1) 乙は、本件土地についてDのために抵当権が設定されており、これを勝手に売買することがDに損害を生じさせること、また甲が図利目的をもってこれを売却することを認識しながら、本件土地をEに売却するよう甲に働きかけ、両者を仲介している。そこで、乙には甲との背任罪の共同正犯(60条)が成立しないか。
なお、乙は事務処理者たる身分を有しないが、65条1項により、甲がその身分を有することをもって共同正犯としての罪責を負いうることになる。
(2) しかし、乙は本件売買を仲介する者として、甲と異なり本人たるDとは独立し場合によっては相対しうる利害を有するといえる。このような者については、ある程度本人の犠牲の下に自己の利益を図ることが許されてしかるべきところ、身分者が背任行為に及ばざるをえない状況を知りながらことさらにこれを利用したり、あえて積極的に背任行為を働きかけたりするなど社会通念上特に不相当といえる関与をした場合に限りその共同正犯としての罪責を負うことになると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、乙は甲が金に困っている状態を知りつつ、自らが仲介手数料を得るためにことさらにこれを利用して本件土地をEに売却させようとしている。さらに乙は、はじめは売却に消極的であった甲に対して、「登記なしで放っておくDが悪い」などといって強く甲を説得し、当該背任行為に及ぶことを決意させており、これに積極的に関与したともいえる。
したがって、乙は社会通念上特に不相当な関与をしたとして、乙には本罪の共同正犯が成立する。
2 横領罪の共同正犯
(1) 乙は本件売買がA社に対する(業務上)横領に当たると認識しながら、上記のように仲介手数料を得るために甲に積極的に働きかけてこれを実行させているところ、乙は正犯意思をもってこれに関与したとして、横領罪の共謀共同正犯に当たるといえる。
(2) ここで、乙は業務者たる身分も占有者たる身分も有しないところ、どのようにして罪の成立及び科刑を考えるべきか問題になる。
この点、65条1項は構成身分、2項は加減身分についてそれぞれ罪の成立及び科刑を規定したものであると解する。このように解することが条文文言からして素直であり、また罪の成立と科刑は分離して捉えるべきでないからである。また、共同正犯とは特定の犯罪を共同して行うものであると解するので、共同正犯者間に成立する罪は一致しなければならないと考える。そして、業務上横領罪は、占有者たる身分が構成身分、業務者たる身分が単純横領罪に対する加重身分であると考える。
以上より、本件では、甲乙間には単純横領罪の共同正犯が成立し、甲については業務上横領罪の単独犯にこれが吸収されることになる。
3 詐欺罪の共同正犯
乙はEに対する詐欺罪についても、上記横領と同じ理由から、正犯意思をもってこれに関与したといえるから、本罪の共謀共同正犯に当たる。
第3 罪数
1 甲について
有印私文書偽造及び同行使、Dに対する1項詐欺罪については、通常手段と結果の関係に立つといえるから、牽連犯として科刑上一罪となる(54条1項後段)。また、詐欺罪と業務上横領罪は社会通念上1つとみられる行為によって行われているから観念的競合(同前段)となり、よって詐欺罪をかすがいとして科刑上は全体として一罪となる。
次に、売却行為に関して成立する、Dに対する背任罪、A社に対する業務上横領罪、Eに対する1項詐欺罪それぞれの共同正犯についても、1個の売却行為によって行われているとして観念的競合となる。これと前述の罪は併合罪(45条)となる。
2 乙について
甲と同じく、乙について成立する背任罪、単純横領罪、1項詐欺罪はいずれも観念的競合として一罪として科刑される。
以上
【体験談】
・罪責を問われているのが二人だけであること、共犯関係にある罪が一部に限られておりかつ両者を一挙に書いた方が書きやすいと思われる事情が特になかったことから、①甲の罪責→②乙の罪責→③罪数という順で書くことにした。
・ぱっと見て、今年の問題は成立する罪が多く、平成21年に近い問題だと思った。書く量が多く、時間が足りなくなることは目に見えていたので、ひとつひとつを必要なことを簡潔に書くことを心がけた。特に各論ということで、それぞれの罪の構成要件を書き落とさないように気を付けた(それでも書き落としている部分はあるかもしれないが)。
・私文書偽造について、法律効果の及ぶ本人が作成名義人となるという判例・学説の結論については知っていたが、理由付けについては正確に覚えていなかったのでとりあえず基本どおり保護法益から論じることにした。
・背任罪の共同正犯について、有名な判例と異なり、本件では本人は会社ではなく、また共犯者が本人による取引の直接の相手方でなく仲介者であるため、事案が異なる点が気になった。しかし時間が多くは残されていなかったところ、乙の積極的関与等の事情が問題文に詳しく述べられていたため同判例の射程は及ぶものとして書かない手はないと思い、特に深く論じることなく書き進めた。
・二つの横領罪の関係について、あまり時間がなかったので簡単に共罰的事後行為であるとして済ましてしまったが、併合罪ではないことの理由付けしかなく、なぜ不可罰的事後行為でなく共罰的事後行為なのか、という点についてなんら理由付けをしなかったので中途半端な論述になってしまった。また、共罰的事後行為とした場合、最終的な罪数は、検察官がどちらで起訴したかによって結論は変わってくると思うが、その点は訴訟法の分野であるしあまり確証ももてなかったので「3 罪数」ではこの点については触れないことにした。
・横領、詐欺の共同正犯については、特に問題となりそうな点は見当たらず、また時間がなかったことから、端的に認定した。
・論述の濃淡はともかく、書きたいことは一通り書くことができ、尻切れトンボ答案にならなかった点はよかった。