［83］
2005年の春、履歴書を某島のホテルへ送った。
手紙も添えた。「僕を使って絶対によかったと思って頂ける働きをします〜云々」と書いた。
1週間程経った頃に採用通知の手紙が届いて6月に夜行バスで稚内まで行きそしてフェリーで島に渡った。
ホテルの社長が僕の手紙を読み採用を決定したらしい。もちろん僕は書いてる通りの働きが出来ると思った。自然の中なら職場に輩の様な人間は殆どいないはずなので自信があった。
しかしそこでは若いスタッフ(若いスタッフは殆ど島の外から働きに来てる)ではなくて年配のスタッフ達(地元民)からのイジメを受けた。
職場には僕の母に顔がそっくりなスタッフ(島の地元民)がいた。
実は僕はその頃まだ幼少期の母親との関係を忘れていた。
何故か残ってる母との思い出は、優しい母親像だけだった。これは恐らく辛すぎてその記憶を忘れるという【自己防衛本能が発動】していたのだと思う。
トラウマをすっかり忘れている僕はこの母親そっくりな人に親近感を抱いていた。
しかし彼女は僕のことが生理的に受け付けなかったのだろう(今から考えると実際の母もそんな感じだった気がする。それはもしかして僕の被害妄想かも知れないけど)。日が経つにつれてなんだか意地悪な塩対応になって来た。この時に「ハッ！」と気がついたのだ。幼少期の母親との関係を…
何故ならその意地悪な内容までもが母親とそっくりだったからだ。
母が僕に塩対応の時にはいつも「きっとお母さんは僕のことが嫌いなんだ」と感じて、とても悲しくなっていたことも全部思い出した…
忘れていたことをすっかり思い出したという事はそこからの僕は今までに輪をかけて辛い生き方になって行くのだった。
それと同時に今まで「なんで俺ってこうなんだろう？どうして人や社会や職場と上手くやって行けないんだろう？」ということが全て合点がいった。
結局は母親そっくりなそのスタッフの前では幼少期の僕の様に「しょんぼり」してしまうため、周りからもどんどんいじめられる様になる。島の外から働きに来てる人達(自然を愛する人達)はそんな中でも優しかったのは救いだった。
ある日ホテル前で行われたジンギスカンパーティみたいのがあった。
僕は場を盛り上げるつもりでサックスを吹いた。何割かの人は楽しんでくれたけど、殆どの人はなんとなくシラッとしていた。後から聞くと「この人なんでここで吹いてるの…」と言ってた人すらいたらしい。つまりアウェーだった様だ。
流石に自分の唯一の自信の持てるモノすらシラける環境なんだと…
何かで読んだ話では。集団いじめが起こってる時、いじめる人達の心理は【いじめる相手が特技を披露すると必死で邪魔をする】。何故なら「コイツはみんなでバカにしていじめていい」という空気感というか軽い洗脳みたいなものが壊されることにより「いじめるべきではない」という風向きに変わることを恐れるからだ。そうやって孤立させて自信を無くさせる。
ホテルには地元民の初老の警備員が1人いたのだが、この警備員までもが僕を見下してなんだかんだ言いがかりをつけてくるようになった… 「俺もあの手紙読んだけどな。『僕を使って良かったと思える働きをします』だって？全然嘘だべや！」と言われた… (20年近く経過した今では、この警備員に対する怒りがいちばん強くなっている…)
島は美しいけど、島の地元民は村社会というかとても世知辛かった。
流石にちょっと、もう…無理…だと思った。
ある日から1週間以上立て続けに無断欠勤をして、島の海沿いで毎日ボケ〜と海やカモメを見ながら時折サックスを吹いて朝から晩まで過ごした。
相当に疲弊していたようだ。
そして当然の如くクビになり、心が疲弊した状態で札幌に戻る(8月頃)。
優作さん(仮名)の家に遊びに行き経緯を話すと「もうお前はどこに勤めるのも無理かも知れないなぁ…」と言われた。島に居る間に僕は40歳の誕生日を迎えていた。
自然の中の仕事なら少しはマシになるかと思っていた僕はとても落ち込んだけど、それまで忘れていた母親との関係を完全に思い起こさせてくれたという意味では大切なきっかけを作ってくれた意味のある経験だと今では思っている。
しかしやはり忘れていたトラウマを思い出したということは、当然だが今までの何倍も苦悩する日々がやってきた。
アパートは家賃滞納のままケンヂ(仮名)の部屋に転がり込んだ。彼は統合失調症の症状が進んでいたので、彼にとってもストーカーから身を守る上で(症状なのか、それとも何割かは事実なのかは正直わからない。100%症状と決めつけるほど証拠はないため)僕の居候は歓迎してくれた。
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