嫌われ剛の生涯[2]孤立 | オカハセのブログ

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長い年月が過ぎ、剛はもう30歳を過ぎていた。
テナーサックスでの活動は絶好調…と言いたいところだかなかなかそうはいかなかった…
要するに剛の場合、コミュニケーション上の問題(つまり性格の問題)があるから、なかなか人が付いてこない。
それに【実際の実力に対して本人の自信がはるかに上まっている】ことも、避けられる理由だった。
それに彼はバンドのメンバーにも厳しすぎる。そのくせに剛本人はアドリブを延々と長く取り、そこにメンバーが付いてくるのが当たり前だと思っている。アマチュア同士だからギャラを払って雇ってる訳ではないからワンマン過ぎるやり方では付いてこないのだ。
サックスを始めてここ10年の間には、とても活動が充実していた時もあった。26~28歳までの3年たらずの期間。剛は九州のとある町で結婚生活をしていた。
彼のサックスに惚れ込んだ妻はとにかく剛が活動できるようにあちこち動き回った。剛の性格の問題を把握していた妻は、バンドのメンバーともすぐに仲良くなり、メンバーは「剛のサックスが好きだからというよりも、妻と会うのが楽しみだからバンドに加入している感じ」だった。どちらにせよ、剛がリーダーのジャズバンドはお客にも人気があった。
しかし、この良くできた妻も彼の問題にやがてついて行けなくなり別れることになった。

別れてからの剛は実力はある程度認められているのだが、やがてジャズシーンから干されていく。

ほとんどまわりから相手にされなくなり、彼の心は荒んでいった。

たまに相手をしてくれるミュージシャンはジャズを「勉強中」のロックミュージシャンばかりだった。剛はジャズを連中に教えることは嫌いではなかったが、本番の人前のステージもそんな連中しか相手にしてもらえない。
ある日の本番ステージでストレスが爆発していきなり演奏中にサックスを地面に叩きつけて壊し始めたのだ…
幸いなことに(?)そこはロックのライブハウスだったので、客は「イェーイ!」と言って盛り上がり、店にはそれほど迷惑にはならなかった。しかし彼はグチャグチャに曲がったサックスを放置してまわりのメンバーがまだ演奏中にも関わらず、何も言わずにふらついた足取りで店を出て行った。

それから剛は消息不明になった。




[3]へ続く。



長谷川孝二