「利回り8%なら買ってよい」と決める前に、その8%が何を割った数字なのか確認してください。満室の家賃を使うのか、現在の収入を使うのか。運営費や購入諸費用を引くのか。条件が一つ違うだけで、同じ物件から計算される利回りは変わります。

一棟アパートでは、物件の収益力に加え、借入後の現金と売却時の回収まで見る必要があります。ここでは6,000万円の物件を軸に、三つの利回り、地域別の目安、FCR・CCRを使い分ける方法を整理します。

同じ物件を三つの利回りで見る

表面利回りは、費用を引く前の入口

物件価格6,000万円、満室時の年間家賃500万円なら、500÷6,000×100=約8.33%です。この満室想定の表面利回りには、空室や滞納、管理費、固定資産税などは反映されていません。

「表面」とだけ書かれた資料では、現況家賃を使っている場合もあります。「満室想定」「現況」の別を確認し、家賃以外の共益費、駐車場代、更新料の内訳も分けましょう。定期的な収入と、契約更新などの際だけ入る収入を同じ確実性で扱わないためです。

現行利回りは、今の収入による比較

収入が満室想定の90%に当たる450万円なら、450÷6,000×100=7.50%になります。これが現在の収入を使った現行利回りです。表面の8.33%より現状を反映しますが、費用を引く前である点は変わりません。

ここでの90%は家賃の金額ベースです。家賃が異なる部屋を含む建物では、入居戸数が90%でも収入が90%とは限りません。また、契約中でも未払いがあれば、契約家賃と実際の入金には差が出ます。

実質利回りは、費用と取得総額を反映

購入諸費用を150万円、年間運営費を120万円と仮定します。満室想定なら、(500−120)÷(6,000+150)×100=約6.18%です。同じ費用のまま現況収入450万円で計算すると、(450−120)÷6,150×100=約5.37%に下がります。

つまり、8.33%、7.50%、6.18%、5.37%は別々の物件の評価ではありません。同じ物件の異なる前提を示す数字です。「実質」と書いてあっても、満室前提なら空室の影響を織り込んだことにはなりません。

150万円は計算を比較するための仮定で、取得費用の相場ではありません。実際には仲介報酬、税金、登記、融資手数料などを積み上げて置き換えます。安い諸費用を仮置きしたままでは、取得総額を過小評価します。

本記事の運営費は、管理委託、共用部の清掃・電気、保険、固定資産税等、通常修繕や募集費用を想定します。借入の元利返済、所得税等、大規模な資本工事は別枠です。資料ごとに控除項目が違うため、比較する物件では費用の範囲をそろえてください。

同じ一棟アパートを表面・現行・実質利回りで比較

利回りの目安は地域と築年数をそろえる

全国平均だけでは、検討物件の位置づけを判断できません。健美家の2025年年間レポートでは、一棟アパートの登録物件について、次の平均利回りが示されています。いずれも単位は%です。

地域 築10年未満 築10年~ 築20年~
全国 6.22 7.15 9.41
東京23区 5.38 5.58 6.34
東京市部 5.93 6.58 7.36
横浜市 6.76 7.29 7.69
川崎市 6.87 7.22 7.44
埼玉主要都市 5.87 6.23 7.60
千葉主要都市 6.34 6.94 8.10
京都市 5.56 5.56 8.35
大阪市 5.92 6.05 9.93
神戸市 6.22 6.77 11.57

埼玉主要都市は、さいたま・川口・戸田・蕨の4市。千葉主要都市は、千葉・浦安・鎌ヶ谷・市川・習志野・松戸・船橋・柏の8市です。市のデータを県全体の値として使わないようにします。健美家・2025年年間レポート

この表は売出し登録物件の表面利回りであり、成約物件の実質収益や投資家の手残りではありません。構造や面積などの構成も異なります。築年区分による差を、一棟の建物が古くなれば必ず同じように変化するという予測へ転用することもできません。

例えば、築20年以上の神戸市で表面10%という物件を見つけても、この表だけで「高利回りだから割安」とは言えません。東京23区の築浅物件と比べるより、同じ地域・築年・構造・規模の競合を調べ、価格と家賃の根拠を確認する材料として使います。

高利回りの理由を三方向から確かめる

高い家賃か、安い価格かを分ける

利回りが上がる理由は、分子の家賃が大きいか、分母の価格が小さいかです。家賃が高いなら、空室の想定賃料が周辺募集条件から離れていないか、既存契約が次の募集でも維持できるかを確認します。募集家賃だけでなく、実際に決まった条件やフリーレントも参考になります。

価格が低いなら、賃貸需要だけでなく、再建築の可否、建築上の問題、接道、複雑な権利関係などを調べます。融資や次の売却が難しい事情が価格に含まれている可能性があるためです。「地方だから危険」「都心だから安心」と地域名だけで結論づけることはできません。

空室率は、その物件の履歴から組み立てる

最低でも直近12か月の入退去、募集期間、入金履歴を、レントロールと照合します。レントロールは各室の契約条件を示す一覧であり、現在の一枚だけでは過去の空室期間や滞納を把握しきれません。

一つの部屋が24か月入居し、退去後4か月空くサイクルを繰り返す仮定なら、空室期間の割合は4÷(24+4)×100=約14.3%です。4÷24ではありません。ただし、これは一室の仮定で、一棟全体の年間実績を表す数字ではない点に注意します。

退去が学生の卒業期に集中する物件、単一の工場や学校への依存が強い物件では、空室が同時に発生する可能性も考えます。地域全体の空き家率をそのまま当てはめず、部屋の広さ、家賃帯、駐車場の有無まで近い競合と比べましょう。

修繕費は「いつ払うか」まで確認する

修繕履歴では工事年月、範囲、金額、保証内容を確認します。「外壁工事済み」でも、塗装のみなのか、防水や下地まで直したのかで、次の支出が違います。屋根、外壁、防水、給排水、共用設備の見積りを取得し、買った直後の工事と将来工事に分けます。

建物状況調査も活用できますが、基本的に非破壊・目視等で行う調査から、隠れた配管の状態まで必ず分かるわけではありません。調査範囲と未確認部分を把握し、必要に応じて追加調査を手配します。国交省・既存住宅状況調査の案内

FCRで物件、CCRで自己資金の効率を見る

FCRは、運営純収益を取得総額で割った収益率として用いられます。ここでは運営純収益をNOIと呼び、家賃等の実効収入から運営費を引いた、借入返済・減価償却・所得税等を反映する前の金額とします。

先ほどの現況ならNOIは450−120=330万円、FCRは330÷6,150×100=約5.37%です。本記事の現況実質利回りと計算範囲が同じなので、同じ値になります。名称を増やしても、独立した二つの安全確認をしたことにはなりません。

一方、CCRは税引前の年間キャッシュフローを投下自己資金で割る指標です。自己資金1,200万円に対して年間200万円なら、200÷1,200×100=約16.67%。これは計算方法を示す別例で、6,000万円の物件例とは条件が異なります。

CCRの分子に税や工事を含めるか、追加投資後の自己資金をどう扱うかでも値が変わります。単年のCCRには将来の売却結果が入らないため、その数値が保有期間全体の年利として保証されるわけではありません。PropertyMetrics・CCRの定義と限界

CCRが高くても、現金の余裕は小さくなる

取得総額6,150万円、NOI330万円の物件で、借入4,500万円と5,500万円を比較します。いずれも年3%、30年、毎月元利均等、金利一定の仮定です。金融機関の提示条件ではなく、融資による違いを示す試算です。

借入4,500万円なら自己資金1,650万円、年間返済は約227.7万円。返済後の税引前現金は約102.3万円となり、CCRは約6.20%です。借入5,500万円なら自己資金650万円、年間返済は約278.3万円。税引前現金は約51.7万円、CCRは約7.96%になります。

借入を増やすとCCRが上がっても残る現金は減る比較

借入を増やした案は、投入する自己資金が減るためCCRが高くなります。しかし、毎年残る現金は約半分です。さらに年60万円を将来修繕用に確保すると、所得税等の支払い前で約42.3万円と約マイナス8.3万円に分かれます。後者のCCRだけを見て、経営上の余裕が大きいとは言えません。

NOIを年間元利返済額で割るDSCRも、この例では約1.45倍と約1.19倍です。1倍を超えるのは当該計算で返済を賄えるという意味であり、大規模工事や納税まで安全という判定ではありません。自己資金の効率、毎年の現金額、手元に残す予備資金を並べて判断します。

最後に、売却までの収支をつなぐ

出口では、家賃需要の低下、土地などの資産価値の変化、金利・融資条件の変化を想定します。保有中に家賃が下がれば収益評価も変わり、買主が借りにくくなれば、売却価格や売れるまでの期間に影響し得ます。

単純な収益還元の例では、NOI330万円を6%で還元すると5,500万円、7%なら約4,714万円です。ここで使うのはNOIに対応する還元率であり、先ほどの登録物件の表面利回りをそのまま代入するものではありません。将来価格の予測ではなく、要求収益率が変わる影響を示しています。

売却時は、売値から残債、売却費用、税金、必要な精算金を差し引き、保有中の税・返済・工事後の収支と合算します。単年の利回りが高くても、出口の回収額が小さければ投資全体の結果は変わります。

まとめ

一棟アパートの利回りに、どの物件にも通用する合格点はありません。満室と現況、費用控除前後、取得総額の範囲をそろえ、地域・築年の近い登録物件と比較することが出発点です。

そのうえで、高利回りの理由、空室履歴、修繕時期を確認し、FCRで物件の稼ぐ力、CCRと現金額で融資後の収支を見ます。数字の高さだけでなく、工事と納税を続けながら保有し、売却時にも回収できる条件かどうかを確かめてください。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp