4月27日あたり


稽古の日々だ。キャッテリアという、ネコたちの世界のホストクラブの物語だ。キャスト、スタッフともに知り合いがひとりもいないスタートだったけれど、あっという間にみんな仲間になった気がする。初めての現場だと「何を求められてるか」を気にして右往左往するところがあるので、プロデューサーに尋ねてみたら、やりたいことをやってくれることを求めています、と言われ、なんとなく、翼を得た思いで取り組んでる。


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髪を切りたい。


先月だったろうか、髪を切りに行った。


「半年ぶりだね」と言われた。妙に長いような気もしていたが、そんなにだったのか。我ながら無頓着だ。髪型が他人に与える情報量の多さくらいは知っている、第一印象というやつだ。いつも綺麗にしていると気分もいいと知りつつも、ついつい放置しすぎだ。病院とおんなじで、行くことの面倒さに負ける。予約というものが苦手なのもある。


でも、一念発起、行った。美容院に通院だ。書いてて思ったけど、美容院は「通院」て言わないね。大学院にも「通院」て言わないし、衆議院にも通院て言わない。


ま、いいさ、行ったんだ、美容院に。ようやく髪を切るのか!という高揚感もあったものの「どうしたい?」と聞かれて「任せる!」と答えてしまう。


結果、「長さは変えずに、軽くしたよ!」という髪型になった。しまった。前髪が長いのだけは直してもらえばよかった、とおもいつつも、「たくまくんはこういう雰囲気あるのがいいんだよ」と言われると、そうな気もする。そう、ちょうどキャッテリアの稽古開始を控えてる時期だったこともあり、さほど歳上でもないのに大所帯を仕切らねばならないこと鑑みれば、長髪で雰囲気ある方が演出家らしくていいかも、確かに、と考えた。


が、もう、耐えられない。前髪が邪魔すぎる。昨日は、髪を結ってチョンマゲ頭で稽古してしまった。


切りに行くのか?暇あるのか?切っていいのか?かっこよくなる関係のことをウジウジと悩むのがなんともかっこわるい。


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春だ。自動販売機から、コーヒーのホットが消えた。


つらい。移動中も何かしらの執筆めいた仕事をすることが多いのだけど、仕事のときには何かコーヒーめいたものがそばにないと落ち着かない。そして、コーヒーは、断然ホットがいいのだ。父はアイスコーヒーが好きなひとだった。父は父で、断固、そうだった。家で、父は音楽室、拓馬は自分の部屋でそれぞれ何かを創っている、という状況は割と日常だった。コーヒーを飲む習慣は父から受け継いだものだ。ときたま、父がアイスコーヒーをつくってくれた。これが、まあ、おいしい。冷やした方が味がわかるんだなあ、とか思ったこともある。なんだけど、それでも、作業のときはホットが好きだ。おそらく、小さい頃にホットココアにうっとりした名残りかもしれない。


まあいい、話の脱線がすごいよ。自動販売機のコーヒーがみんな冷たくなる季節は、すこしさみしいな、と、そういう話。


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バレエダンサーと作品創りをしている。銀座にジュエリーショップを持っている元Kバレエのユウイチという男がいるのだけど、先日、共通の友人である高津さんと共に喋ってたのである。高価な宝石を眺めながらコンビニの一番安い500円くらいのワインを飲みながらという、経済的にちゃらんぽらんな状況下でのアート談義だった。


で、そこでなんだかいろんな話が盛り上がり、「バレエと演劇混ぜたもの創ってみよう」と、軽はずみな見切り発車を成し遂げたのだ。1ヶ月前のことである。


この新ジャンルの開発には時間がかからだろうけど、とりあえずは一回やってみようよ、ということになった結果、1ヶ月後にやることになった。はやすぎる。「落ち着いたらやろう、は、やらないよ、結局」という高津さんの悪魔のようなアドバイスもあった。


で、キャッテリアの稽古とうまい感じにハシゴをしながら、白鳥の湖をやっている。全力を注げる何かを並行して行うのは実はとてもいい。感性が刺激され続ける。



ちゃんと喧嘩をしてちゃんと仲直りをするひとがすき。なかなかできないことだ。人間的に尊敬できる人と生きていけたらと思う。

4月28日は朝から白鳥の湖のゲネプロ。しかし、会場である東京文化会館の小ホールがあまりに好きな空間だった。

改めて、バレエダンサーはすごい。まさしく人間離れ。美しい。何百年も研究されてきた美しさを、ひとりの人間が何年も何十年もかけて自分の身体に融合させる。ジャンル問わず、何かのためだけに自分を特化させたミュータントのような表現者というのが好きだ。

で、その後キャッテリア稽古場に行き、そして夜は、上野に宿泊。翌朝が早いので、前乗りというやつだ。


で、本番。非常にうまくいった。バレエというものの特性なのだろうけど、子供も多かった。人類を憎み復讐する悪魔の役なので、申し訳ないが、ちゃんと怖い芝居をした。もちろん、客席から「こわいー!ママこわいよー!」という声がチラホラ聞こえる。くそう!愛されるパンダの役が良かった、とうっすら思いもした。でも、いいのよ。物語の最後では、ちゃんと仲良くなれた気がした。



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で、夜は映画の舞台挨拶だったのだけど数時間の空きがあったので、いったん帰宅して荷物を置き、それっぽい格好に着替えた。何を着たものかと考えあぐねたけど、「服装のセンスとはTPOに合わせられるかどうかだ」と信頼する友人が言っていたことを信じ、それっぽい服を選ぶ。

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そして、ついに、散髪に行った!


が、しかし、美容院に入るなり「お!いまいい感じの髪型じゃん!」と美容師に言われ、心が挫けかける。


「髪が...間に入るんよ。。それで、いっつもピンで止めたりチョンマゲにしちゃうから、それじゃ、意味ないから、だから、切りたくて...」


と、イメチェンも辞さない旨を伝えたのだけど、美容師さん、うーーーん、と悩みこんでしまった。

「俺は、たくまくんはアバンギャルドだと思ってるの、人間として」


と繰り返し、いろいろな末原拓馬論を語ってくれた後、チョキチョキとすごい勢いで切ってくれた。ちゃんと自分の美学に照らし合わせて仕事をしてくれるのはありがたいことだ。


切って...よかったのかなあ...という気持ちを少し引きずりながら、映画館へ。

『エスパーX探偵社』


超能力を使って探偵をする松田という主人公をやらせてもらいました。実は、この日初めて完成形を観た。自分は台本でしか知らなかった場面もたくさんあり、また、監督の解釈によってさまざまな効果が付け足されていた。たくさんのスタッフ、キャスト、そして支援してくださった方々の熱意の集大成であると実感し、ただただ、感謝をしたのでした。みなさん、ありがとうございました。

池袋シネマロサ。昭和!!という香りが漂いまくる映画館で、作品の空気感ともマッチしまくっていて、テーマパークよろしく楽しめるかと思います。まだ上演は続くので、よろしければ是非。


なんとも下町に縁のある1日なのでした。


ウーバーストーリー、的な仕事やってみたい。さまざまな場所に出向いて、物語の語り聞かせをお届けするのだ。出張演劇については、昔からやりたいと思い続けていた。まあ、路上がそれに近くはあったのだけど。


モルドヴァでは語り部というものがとても大きな存在として大切にされていると聞いた。「語り」って、情報として物語を知るだけじゃなくて、その、場の空気、語り部との交流、そこにいる自分、という色々な要素を含む。体験、だ。YouTubeや TikTokには成し得ない意味合いがある。流しの弾き語りを宅配するというのもいいな。あとは、行ってその場で絵を描いてあげるとか。


子供のいる友達とかにはたまに頼まれる。なんか謎の、御伽噺をする人、という存在が、まるごと御伽噺みたいに記憶されたら楽しい。いつかどこか山奥などの村めいたところに住み、何世代にも渡って愛される語り部じいさんになりたい。物語のジュークバックス。そう、そういうものに私はなりたかったのだ!


なんてこと、ぼんやりおもう。


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さ、今日もがんばろうね。


むりせず、だきょうせず

たのしく、たのしく。


しあわせでありますように。