日記を書いたまま、放置してたのがあるから、それらを、とりあえず世に放つ。ほんとは、本番のことをひたすら書き留めたい。


5月19日


歩いていたら、張り紙の下あるカフェがあった。張り紙の内容は、


「2022年5月19日をもって閉店します」


入ったことのないお店だったけど、入った。長くやっていた店という。


最後の日は苦手だ。どんな場合でも。だから僕は、最後の日のカフェの中がどんな世界なのかを知りたかった。


初めて入った僕からは何もわからないけど、普通の空気が流れていた。最後な日だと知らなければ最後の日だとわからないような時間が流れていた。


僕はいろいろなことを想像した。


5月20日

稽古三昧。演出助手のタツキがたくさん助けてくれる。「助手」と言う名前はついているけれど、決してオマケ、雑用の意味ではなくて、世の中、演出より演出助手の方がベテランだったり、重要視される場も多い。演出助手をないがしろに便利屋雑用係のように使う現場はたいていダメ。というか、一流の現場はカンパニー内のすべての人に対してリスペクト抱いて接し合う。それができていないと、ひとつ「あ、ここやばいな」のジャッジになる。


5月21日


暴力と、それを容認する世界と、暴力的な表現が「表現の自由」で守られる世界、などについて思うところがあって、それは、本当に心がナーバスになる所で、怒りや悲しみ、恐怖や不安など、自分でもコントロールできない感情に襲われて、ブログに書きそうになりつつ、思いとどまりつつ、と言うことを繰り返してしまう。


表現は自由だったとしても暴力は犯罪だ。そんな簡単なことを話せないなんて。


5月22日

稽古最終日。あらかじめ設定されていた稽古期間が短く、そしてうっかり本編は長い。俳優たちはヘトヘトになりながら、それでも、物語を愛して頑張ってくれた。稽古場がとても狭く、そして、劇場はとても広く形も歪だ。要するに、稽古場では立ち位置などほとんど曖昧にしか決められなかった。明日からが勝負。



5月23日

劇場入り。前に来たのに、ものすごく迷った。北千住の駅で、何番出口から出るのかというのを誤ると、大変なことになる。気をつけて欲しい。


キャストはオフでも良い日だったけれど、仕事の都合がついたメンバーたちがたくさん劇場に集まってくれた。初めて降り立つ不思議な空間を歩き回りながら、「あのシーンは、ここでこういうふうに」と作戦を立てる。


スタッフも大変だ。常設の設備がほとんどない環境下で、機材を組み立て吊るし、コードを繋ぎ、演劇空間にしてくれている。


予算も多くはないし、場所の空気感を活かしていこうと言う作戦に舵を切り、基本的には装飾はなし。場の雰囲気と融合する。物語の世界観の設定も、場の雰囲気を汲み取って、寄せた。


5月24日

場当たり。立ち位置を決めながら、スタッフワークと芝居を混ぜ合わせていく。時間との勝負。おぼんろより1日時間が足りなくて悲鳴をあげかけるけど、勝負に負けるわけにもいかない、腹を決めて、挑む。


真一がとても頼りになる。膨大な分量のタスクがあるのに、どこもクオリティ高く仕上げてくれるし、相談役にもなってくれる。


今回は大長編。尺も長いし、二幕ものだ。せっかくならば、厳かな作品を贈りたい、その思いで創り上げた。


観た後、劇場を出てからが本当の勝負。終わった後で思い返し、妄想し、生涯ずっと御守りになるような物語であって欲しい。


25日

ゲネプロ、初日。昨晩ほとんど睡眠が取れなかった。本番前にトラブルはつきもの、心折れず、感情に流されず、だけど感情はなくさない、が大切。とにかく、創作に妥協せず、没頭したい。


初日。真一は座長らしい座長だ。さすがだと言うしかない。人間力という言葉があるけど、まさしく人間力が高いのだと思う。妙な感情論を披露するでもなく、ただただ、自分が誰よりも努力することで周りを引っ張る。ケータリングのない現場に連日フルーツとパンとお菓子を差し入れてくれるというごんぎつね的なカリスマ性もあった。何より、物語を愛する力がすごかった。


まだ物語が1割くらいしか頭の中になかった頃、2人で散歩をした。その時に五月雨式に語り続けた物語の中から真一が気に入ってくれた箇所を拡大して物語の骨子にした。自分たちにとって必要で大切な物語になった。


自分の作品に自信がなかったことはない。とは言え、やはり初日は緊張した。自分で板の上にいる時間が少ないからこそ、なんとも言えないソワソワ感に絡め取られる。


成功だった。


やったー!とはしゃぎたい一方で、観たいのに観れなかった方があまりに多かったと聞いた。遠くからやってきて、期待して、諦めるしかなかった心持ちを想像すると胸が締め付けられる。客席が無限ではない以上仕方がない部分もあるけれど、命懸けで創り上げた作品だ、際限なくひとびとに贈りたい気持ちが強い。


26日

本番中は客席の後ろに立ってチェックのメモを取ってる。上演尺が長いため、退館もばたばたで、終演後に直接キャストと話せない。次の日に早めにきてもらうというのも手だけど、なんと言っても体力勝負の公演だ。なので、ふだんはしないけれど、本番中のチェックをLINEでみんなに送るやり方にした。この作業が、なんとまあ3時間かかるのだけど、やはり、やればやるだけ作品が良くなる。


墓守という役で出演もしている。出番は決して多くはないけど、やってみての発見もたくさんある。自分で描いた役でも、やってみると発見がある。自分の本でも、演出していると発見がある。演劇の不思議だ。


主に、真一とさひがしさんが、相手役。ケプジュ役のさひがしはうちの劇団員だが、舞台上で会うとすごい喜びがある。プライベートで会うことはなく現場でしか会わないのが基本、会話も、芝居以外の内容はほとんど話さないけれど、さすがに、もしかしたら人類における親しいランキングでかなり上位な気がする。物語の中で遭遇すると嬉しい。


真一とは初共演ということにも気付かぬまま初共演をしてた。もっと絡みたい。


27日

今日も、さまざまな改善を図って本番に挑む。物語は物語られるほど魔法を増すと思っていて、この物語も、いよいよ、並々ならぬ存在になってきた。真修という俳優があるのだけど、物語や場面を解釈した途端に芝居が化けるのだけど、その輝き方が本当に素晴らしい。ムロークという役をやっているけれど、人生のお手本にしたいひとりだなあ、とおもう。