かっけぇなあ、2020年の夏。
今年の夏は、遅れてやってきた。梅雨が長かったのである。たしか8月の頭はまだ僕ら「涼しい」だと「寒い」だと話していた。
たぶんだが、やっぱり夏ってのは一年の中でも花形だ。「暑い暑い!ふざけるな!」とみんな口で言っていても、やっぱりみんな夏が好き、大好き。はしゃいじゃう。そうなんだろう。
その夏が、きっと2020年の梅雨に相談されたんだと思う。
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梅雨「今年、なんかいろんなことあったせいで、僕ちょっと地味じゃんね。しょぼん。本来僕が活躍すべき6月なんてみんな疫病騒ぎに夢中で、僕のことなんてぜんぜん無視。あーぁ。2020年間、出番たのしみにしてきたんだけどなあ。みんなにいつまでも覚えてもらえるような、特別な梅雨になるのが夢だったのに、気付かないうちに始まって、気付かないうちに終わってくのかあ」
確かに今年の梅雨ときたら緊張してテンパリ気味もいいところで、地域によってバラ付きがあるものの、梅雨入りが例年に比べて早すぎたり遅すぎたりしっちゃかめっちゃかだった。なにも、梅雨のテンパリだけを責めるのも酷なところで、確かに今年は、「入りどころが難しい」梅雨時だったのは事実だ。
とにもかくにも梅雨はそのことに落ち込んで日夜シクシク泣いていた。梅雨がシクシク泣くというほど悲惨なこともないもんだ。
7月も半ばのことである。普通であれば、そろそろ梅雨明け待ったなしな時期だが、梅雨のやつ、今度は「明けどき」を計らい兼ねて、シクシクどころかギャンギャンと泣いていた。梅雨からバトンをもらうべく待機していた夏は梅雨の頭をポンと叩くと、こともなげに言った。
夏「だったら、もうちょいやったらいいじゃん?」
梅雨「え?」
夏「まだ満足いってないんだろ?だったら終わる必要なんてないよ。やりたいところまで、もう無理だ!ってとこまでやれってばよ。」
梅雨「でも、そんなことしたら、君の出番が・・・」
夏「バカ。俺なんてなるべくサボりたい性分なのよ?今年は色々あって海だの山だのに遊びに行けるわけでもなかろうし、夏休みの時期もズレ込んでるらしいからさ、まだまだ俺なんて来なくていいのよ」
梅雨「で、でも、五月雨(さみだれ)ってことばもあるくらいだよ・・・さすがに、七月に入ったらフェイドアウトしてくのが梅雨のたしなみなんじゃ・・・」
夏「誰に気兼ねしてんだよ?後にも先にも、お前の一生だろうが。お前、終わったら、明けちまったらキレイさっぱりなくなっちまうんだろ?」
梅雨「うん。」
夏「2020 年間、ずっと楽しみにしてたんだろ?本番。・・・心ゆくまでやりゃいいじゃんよ。文月までガンガン降りしきれ!ふみだれ。あ、いいね、ふみだれ!2020 年の梅雨は、ふみだれまで攻め続けた!って、これ、みんな忘れないぜきっと」
梅雨「そ、そうかなあ。でも、いいの?君の出番・・・」
夏「だーかーら、俺は、長くなんかやりたくねぇっつの。気にすんなって。スタート遅れた分、例年より暑い夏にしちゃうもんね、ケケケ。7月いっぱい降るだけ降って、8月頭くらいにタッチしてくれたらいいぜ。でもこれ、相談してること俺とお前だけの秘密な。俺が、つい寝坊して遅刻したってことにするから。いいのいいの!俺なんて、そういう不良キャラに見られる方が嬉しいタイプだから!ケケケケケ!」
夏がいたずらそうにケケケと笑うと、梅雨のほうもなんだか嬉しくなって、さっきまでは寂しい気持ちもあったはずなのに、急に元気まで出てきたもんだ。
梅雨「あ、ありがとう!!!」
梅雨は嬉しくて嬉しくて、今度は嬉し涙でワンワン泣いた。7月も後半だというのに梅雨が明けないものだからみんな驚いたが、それはそれは堂々とした美しき梅雨だった。
8月に入るか入らないかという頃、ようやく梅雨もヘトヘトになってきた。この2020年間、様々な先輩梅雨たちがいたもんだが、こんなに長い梅雨は珍しい。人間たちにしてみれば飛んだ迷惑だが、誰もが忘れ得ぬ梅雨になったものだ。
体力の限界まで降り続けた梅雨は、地域ごとにすこしずつ明けていった。すぅーっと、自然に透き通り消えていくような、そういう明け方だった。夏は各所でしっかりと梅雨が消え去るのを見届け、「あとは任せとけ」「任せたよ」とケケケ笑い合ってはバトンは受け渡された。遅いところではなんと8月頭の梅雨明けとなった。
こうして遅く始まった2020 年の夏。それはそれは暑い夏だった。梅雨明けが遅いことに不満を抱いていた人間たちも、ジリジリと暑い夏が来ると喜んじまって、なんとかこの夏を思い出に残そうと、外出が禁じられ気味な中、一生懸命にその時間を過ごした。だけどこの夏、元来いたずらなもので、わざとゲリラ豪雨を連発させたかと思えば、信じられないほどキレイな月夜を見せたり、虫の声が世界を満たす幻想的な夜を聴かせたり。
誰もが、長く続いて欲しいと願う夏だった。
その夏が、7月も終わる頃、自分の方から秋の方へ赴いた。例年ならそろそろ秋もスタンバイを始める頃だが、今年は夏の始まりも遅かった、いつもよりは秋の始まりも遅くなるだろうと、秋は諦めてのんびりしていた。この2020 年秋とて一生に一回きりの本番、素敵な秋だったと語り継がれ、数々の人々の思い出に残りたいと思って入るけれど、引っ込み思案な性格ゆえ、「夏さん、僕の出番なので終わってください」などと言えようはずもない。なんてことを思っていたのに、しかし、突然な夏の来訪、驚いたのも無理はない。
秋「ど、どうしたんです夏さん!?」
夏「どうもこうも、そろそろお前の出番だけど、ちゃんと準備してるかな?って。」
秋「え?でも、だって、まだ、あれ?ほら、夏さん、まだほとんど、やってないし・・・」
夏「何言ってんのよ!そんなん、俺が寝坊で遅刻して始めるの遅くなっちゃっただけだから!いやだ、梅雨には繋いで貰っちゃって、悪いことしたぜ。焦ってガンガン暑くしてやってたら、いやだ、俺もうバテちゃってさ。そろそろ交代できたら嬉しいんだけど、無理そう?」
秋「い、いや!そんなことはないです!一応、もう、春頃から、いつきてもいいようにって準備はしてたから・・・でも、本当にいいんです??夏さん、終わっちゃったら、消えちゃうんですよ・・・?」
夏「だからもうバテてるんだっつの。それにさ、この2020年という抜群に天変地異めいた雰囲気も相待って、いろいろ変だし、みんないちいちビビっちまうだろ。夏の終わり、秋の始まり、くらい例年通りだと、みんな安心する気がするんだわ。」
秋「た、たしかに」
夏「それにさ、夏ってのは、8月の後半で、終わりそうになること含めて夏な気もするんだよな。」
秋「あ、それ、わかる!わかります!」
夏「だべ!?夏の終わり際と秋の気配が、こう、入り混じる感じ??俺、あれに憧れてるとこあってさ!ケケケケケ!あれ、やろうぜ、あれ!」
夏がケケケと笑えば秋もウフフとはしゃいだもんだ。
秋「いいですね!いいです!やりたいです!あの入り混じる感じ!」
夏「おし、決まりだ!明日の朝からちっと、雰囲気出してくからよ、フェイド気味にクロスしてきてくれ。しばらく残暑っぽい感じは続けるけど、見事にフェイドアウトしとくからよ、どんどん、秋な感じ色濃くしてってくれや」
秋「承知です!」
夏「最高の秋にしてやれな!今年の前半ひ、みんな落ち込むことも多かったんだから、終わりよければすべてよしとばかり、ハッピーな年末にしてやってくれ。その入り口が、秋、お前だ!」
秋「はい!」
まったく、夏も秋もただの同期、本来ならば夏が偉いわけでもなんでもないって言うのに、まったくこの夏は偉そうだ。
夏があんまり短いと、みんなみんな、寂しがったとか、せいせいしたとか。
〈おしまい〉
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毎日のことをなるべく覚えていたい。
今日も素敵な1日でありますように。


