青虫が蝶々になるためには、絶対に蛹を経ないとといけない。なーんにもしないで、美しくともなんでもない状態で長い時間を待たないといけない。

時たま、「時間がないから蛹にならないまま蝶々になれ!というひとがいる。作り物の翼だか羽根だか持たせて、飛んでみろ、って。こういうのは、イカロス君が命がけで失敗例を示してくれたはずなのになあ。

しかも、「青虫の良さを残したまま蝶々にもなれ」みたいな無茶もまかり通ってる。

「蝶々になるからには、青虫より絶対に良くなるんだな!?」なんて蛹になる寸前に圧をかけるやつもいる。

うるっさい。葉っぱに飽きて花の蜜に興味があるから、スローに飽きてスピーディに憧れるから、空飛ぶことを夢見るから、閉所恐怖症の発作乗り越えてでも蝶々になろうとするんだよ青虫は。

応援してやる世界であってほしい。
誰かが誰かに恋をすることに肯定的な世界カモン。

氷が太陽に恋をするなど馬鹿げていると誰もが言うだろうけれど、果たしてそうか。

冬に溶け終わらなかった氷が空を見上げてうっとりし、少しずつ小さくなっていくその様を見よ。ろくな未来は訪れまいぞと言われようが、ろくでもない現在など氷はいらない。いずれ溶けきるのだ。遅いか早いかに興味はない。溶けるまでに自分がどうあれるかが大切なのだ。

太陽と言葉を交わした氷は火を追うごとに透き通り、溶けかけた表面は光をキラキラ反射する。その様はどんな宝石にも勝る。

ある夕暮れどけに氷が溶けきって姿を消したのは太陽の暑さのせいではなくて、氷の心の中に芽生えたなにものかの、あまりのあつさゆえ。
作家が依頼を受ける。

「心の綺麗な乞食を王女様が愛する物語は巷に溢れているけれど、

心が醜く邪な乞食にも王女様に恋をする権利をやってほしい。顔も不細工、何も持たず、心も汚い。乞食でいるのは自分のせい。

それでもなんか、幸福にしてやれないものですかね。」

「嘘を描いてもいいですか?それはあり得ないだろ、というような、荒唐無稽な綺麗事の羅列のような」

「もちろんです。そうでないなら物語である意味がない」

「お。無償で描きます。