「銃で頭を撃ち抜かれても僕は死なないと思う。だけど僕はこれまでに何度か死んでしまっていて、幸いにも何度か生き返らせてもらったおかげでいま生きているけど、またいつか死んでしまうかわからない。

僕を殺せるのは僕が愛した人だけだ

だから殺人犯もマフィアも病気もペコペコなおなかも、本当の意味では怖くない

なのに
あぁ・・・

うかつにも誰かを愛してしまう。

死因となりえるものをわざわざ増やすだなんて正気の沙汰じゃないと思うのに、それでもそれは、死なないでいられるとても大切な理由でもあるから、うっかり手にしてしまう。抱きしめてしまう。なくてはならないものにしてしまう。

頭を抱える

愛した人が僕を愛してくれるなら話は早い。だけど大抵の場合、そうはならないのだもの。

嫌いな人を好きになるのはこんなにもたやすいのに

好きな人を嫌いになることはこんなにもむずかしいだなんて

死因を増やさぬように増やさぬようにと目を閉じて歩いても、残酷な拍子に誰かにコツンとぶつかって、やっちまったとばかり目を開ければ出会い頭に「だいじょうぶですか」なんて笑いかけられたりする

地獄だ


ひどすぎるほどに美しい世界に文句を言いたい」


--『夜のシャボン朝までに』より抜粋
写真 三浦麻旅子