「海の向こうの島に行くつもりだった泥人形は体に「種」を蒔いた。蒔いたと言うか、埋め込んだ。

「種」は体中に根を張り、やがて芽を出した。
花を咲かせるかも知れなかったが、腐ってしまった。

結局、沖合の船上の、ここぞの時には、泥人形は腐り果てていた。
張り巡らされた上で腐った根は、泥人形の自由を奪っていた。
泥人形は目的地への到着を待たずして、海に飛び込んで、消えた。

海は泥人形を吞み込んだが、
それまでの海と、なんら変化はなかった。」


変な物語である。

そもそも、なぜ、種など?
泥人形は、自らの姿を醜いと思っていたのだろうか。美しくなりたかったのだろうか。もしくは、「種」に特別な感情を抱いたのか。

「自由を奪われた」とあるが、どのみち「種」が順調に育っていけばいずれそれらは泥人形の体を内側から外に突き破り、泥人形を泥人形でなくしてしまうに違いなかったはずだ。そのことを、泥人形は知っていたのか、想像していたのか。

なぜ海の向こうに行こうとしたのか。そこが好きではなかったのか。何かから逃げていたのか。「種」にはそのことを話していたのか。

この場合、おそらく、体に張った根が腐ったのであっても、「泥」と言う特性からすればきっと、それらを養分にしていくこともできたのではないかと思う。ではなぜ、泥人形は海に飛び込もうと考えた?新天地が目前だったと言うのに。

この場合、おそらく、体に張った根が腐ったのであっても、「泥」と言う特性からすればきっと、それらを養分にしていくこともできたのではないかと思う。ではなぜ、泥人形は海に飛び込もうと考えた?新天地が目前だったと言うのに。種が芽を出す事もなく、種のままであれば、まだ幾分ましだったのかも知れないなあ、と、なんとなく考える。