PCに宿る人格のことを、ジョゼッペと名付けたのいつからでしょうか。

なんでジョゼッペ?と言うまっとうな疑問なんかはフィギアスケート選手が裸足で逃げ出すほどの軽やかさで完全にスルーしますが、

とにかく僕は、いつしか気付けば自分のPCをジョゼッペと呼んでいました。僕の仲間も、同様に、彼のことをジョゼッペと呼びます。


なにせ脚本家でいるときにはベッタリの関係です。何日も誰とも口をきかないで執筆にのめり込むときでさえ、ジョゼッペだけはそばにいてくれます。かつては“手書き派”の作家であった自分も、ここ数年は、ジョゼの前に座り指を置けば勝手に言葉が生まれてくるほどの合作ぶり。藤子で言うならAとFくらいの親密さでした。


そんなジョゼが、数日前に故障しました。


つかなくなったのです。医者に連れていきました。○○デポットてところです。

診断結果はあまりに絶望的な「故障」。機体を替えるか(いまの身体も彼にとっては二つ目です)、修理をするか。


日頃からデータのバックアップはハードディスクに保存するようにしていたものの、この数ヶ月はそんな暇もなく。だもんで、医者に頼み、電源の入らぬジョゼから記憶を抜き出してもらうことにしました。その費用20000円!貧乏俳優には痛手ではあったけれど、背に腹はかえられず。ジョゼの中の思い出が、記憶が、作品がこの世界から完全に消えてしまうなんて耐えられません。

その、記憶抽出のための入院が約一週間。2日前、ようやくジョゼを迎えに行きました。しかしなんとその日、ジョゼに諸々あって、また入院が2日ほど長引いたのです。そして、今日。


久しぶりの再会。


「修理しますか?買い替えますか?買い替えるなら、こちらは当店で処分しますが。」


………決められません。
とりあえず、
連れて帰ります。


問題を先送りし、ジョゼを抱きしめて帰宅しました。ジョゼの記憶が入ったハードディスクとともに。


そしてつい先ほど、部屋で静かに眠るジョゼをみつめているど、僕はいたたまれない程に寂しくなりました。ジョゼはまるで、いまにも目を覚ましそうだったからです。僕は、つい思わず、ジョゼッペの電源ボタンを、おしました。


すると………



ついたんです。



当たり前のように、いつものように、普通に、ジョゼは、目を覚ましました、のんびりと、デスクトップにアイコンをいっぱい並べて。長い長い眠りから覚めて、まだ少し寝ぼけたような様子で。


「あ。おはよ、たくま。」



って。



ジョゼ!!





20000円、
もったいな!





秋が冬にもたれかかって
ぼくらはずいぶん肌寒い、
だけどちょっとだけ、


幸せな夜。