若い木霊 (こだま) | ブドリの森

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「ふん。こいつらがざわざわざわざわ言っていたのは、
 
ほんの昨日のようだったがなあ。
 
大抵 雪に 潰 ( つぶ ) されてしまったんだな。」
 
 
 それから若い 木霊 ( こだま ) は、明るい枯草の丘の間を歩いて行きました。
 
 
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丘の 窪 ( くぼ ) みや 皺 ( しわ ) に、一きれ二きれの消え残りの雪が、
 
まっしろにかがやいております。

 
木霊はそらを見ました。
 
そのすきとおるまっさおの空で、
 
かすかにかすかにふるえているものがありました。
 
 
 
 
 
 
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若い木霊はそっちへ行って高く 叫 びました。

「おおい。まだねてるのかい。
 
もう春だぞ、出て来いよ。 おい。
 
ねぼうだなあ、おおい。」
 
 
 
 
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その窪地はふくふくした 苔 ( こけ ) に 覆 ( おお ) われ、
 
ところどころ やさしいかたくりの花が咲いていました。
 
 
若い木だまには そのうすむらさきの立派な花は
 
ふらふら うすぐろく ひらめくだけで はっきり見えませんでした。
 
また消えて行く 紫色のあやしい文字を読みました。
 
 
 
 
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「はるだ、はるだ、はるの日がきた、」
 
字は一つずつ生きて息をついて、
 
消えてはあらわれ、あらわれては又消えました。

「そらでも、つちでも、くさのうえでも
 
いちめんいちめん、ももいろの火がもえている。」
 
 
 
 
 
                  宮沢賢治 「若い木霊」より
                   http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/43801_18092.html
 
 
 
 
 
 
昨日は 季節はずれの吹雪に見舞われた岩手でしたが、
 
それでも 窪地では やさしいかたくりの花が 冷たい風にふるえていました。
 
 
「春だ、春だ、春の日がきた」
 
かたくりの葉の上にあらわれる あやしい文字を読みながら
 
若い木霊とともに 遅いのおとずれをよろこんで来ました。