宮澤賢治の「ガドルフの百合」より | ブドリの森

ブドリの森

将来の自分のための備忘録
ハンドメイドの小物は委託販売しています
いただき物の生地や付属品を活用して
極力材料費をかけずに仕上げるか苦戦中
たまにペットのインコの話も

 
~「写真紙芝居」でつづる 宮澤賢治の イーハトーブシリーズ~
 
今回は幻想的な魅力に満ちた「ガドルフの百合」をお送りします。
 
本
 
この作品は 童話に分類されていますが、宮澤賢治本人とみられる主人公ガドルフ
 
内奥の葛藤と 新たな旅への決意という テーマは、 子どもよりも ある程度の 人生経験を積み、
 
挫折を経験したことのある人のほうが、 心に より響くかな と思います。
 
 


 
 
みじめな旅のガドルフは 、力いっぱい 朝からつづけて歩いておりました。
 
すぐ近くと言われた町は まだいっこうに見えてきません。
 
 
イメージ 1
 
 
(楊真っ青に光ったり、ブリキの葉に変わったり、どこまで人をばかにするのだ。
 
ことにその青いときは、まるで砒素をつかった下等のえのぐのおもちゃじゃないか。)
 
ガドルフはこんなことを考えながら、ぶりぶり憤って歩きました。
 
イメージ 2
  
 
【注】  ここで(やなぎ)と呼ばれているのは  枝がしだれるではなく、ぎんどろヤナギ
 
葉の表はつやのある緑色で、 裏側は 白くネル地のような感触です。
 
 
イメージ 7
 
【注】 このが 風にひるがえると 木全体が チラチラとせわしそうに見えるので、
 
いらだつガドルフには 「ばかにされた」ように 思えたのでしょうね。
 
 

 
 
そして 間もなく 雨とたそがれが いっしょに襲いかかったのです。
 
ガドルフはあらんかぎり すねを伸ばしてあるきながら、
 
並木のずうっと向こうの方の ぼんやり 白い水明かりを見ました。
 
 
 
イメージ 8
 
 
(あすこは さっき 曖昧な犬の居たとこだ。あすこが 少ぅし おれのたよりになるだけだ。)
 
しかし、雷雨は ますます 激しさを増し、続けて歩けそうにもありません。
 
 
イメージ 9
 
 
その稲光りの そらぞらしい 明かりの中で、ガドルフ大きなまっ黒な家が、
 
道の左側に建っているのを見つけ、その玄関にかけ込みました。
 
 
 
イメージ 10
 
 
「今晩は。どなたか お出でですか。 今晩は。」
 
 家の中は 真っ暗で、しんとして返事をするものはありませんでした。
 
 ガドルフは中に入り、濡れた頭や顔をさっぱりとぬぐって、ほっと息をつきました。
 
 

 
 
次の稲光りのガラス窓から、たしかに何か 白いものが だまってこっちをのぞいていました。
 
 「どなたですか。今晩は。どなたですか。今晩は。」
 
ガドルフは 窓を開けて 風に半分 声をとられながら 丁寧に言いました。
 
「ははは… 百合の花だ。 なるほど ご返事がないのも もっともだ。」
 
イメージ 11
 
 
間もなく 次の電光は、明るくサッサッとひらめいて、庭は幻燈のように浮かび、
 
ガドルフの いとしい花は 真っ白に かっと怒って立ちました。
 
 
 
イメージ 12
 
 
(おれのは いまあの百合の花なのだ。
 
いまあの百合の花なのだ。砕けるなよ。)
 
雨はますます 烈しくなり、雷はまるで 空の 爆破を 企て出したように響き渡ります。
 
 
イメージ 3
 
 
ガドルフの願いもむなしく、一本の百合の花が とうとうその華奢な幹を 折られて横たわりました。
 
 
イメージ 4
  
(おれの恋は砕けたのだ)…  
 
気力を失った、ガドルフは いつのまにか 眠りに落ちていきました。
 
 

 
 
ガドルフは まどろみの中で、綺麗に光る青い坂の上で、二人の男、
 
の毛皮をつけた男と カラスのように まっ黒な男が格闘しているのを見ました。
 
イメージ 5
 
 
 二人は 取っ組み合ったまま、坂を転がり落ち、そのまま ガドルフに激突してきたのです。
 
驚いて 飛び起きたガドルフは、ちょうどが過ぎ去ったことを 知りました。
 
 
イメージ 6
 
本は折れたものの、残りの百合の花は 嵐に負けないで咲いていました。
 
(おれの百合は勝ったのだ)     
 
そして 木のひとつのが 不思議にかすかな 薔薇いろをうつしていたのです。
 
(これは夜明けの光ではない。南のさそりの赤い光がうつったのだ。
 
濡れた着物をもういちど引っ掛けるのは気が進まないが、
 
雨があがったら でかけよう。そのうちに星も出てくるだろう。)   
 
ガドルフは 次の町をめざして 闇の中をまた 歩きはじめました。
 

 
 
今回の「ガドルフの百合」は いかがだったでしょうか。
 
またもや難解でしたね(笑)  この作品の解釈については 諸説がありますが、
 
百合が象徴するものがになります。
 
そして 宮澤賢治の 10代後半から20代の出来事から察すると
 
「一人の女性」への恋愛と挫折を経験し、それを「全ての人」に対して持つもの(宗教愛)として
 
昇華していく その過程をあらわしたものではないか?との説があります。
 
 「二人の男が格闘する夢」にも、「恋愛から宗教愛への変革における自己の内面の葛藤」
 
 (もしくは「父親との対立」?)という理由付けができます。
 

 ここで私が注目したのは ガドルフが まだ夜が明けないうちに 歩き出すところです。
 
挫折や困難に直面することがあっても、状況が整ってからではなく、
 
決心したなら グズグズせずに 一歩踏み出していく勇気。
 
それを 教えられた気がします。  自分にとっても 魅力的な作品のひとつです。
 
原文はこちらをご覧下さいね  http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/455_1472.html