[ 真 ]
「阿古、結婚してくれませんか?」
「だめよ」
「なぜ?」
「理由は難しいわ。あなたは今医学を勉強している。そして立派なお医者さんになるのよ」
「ならなくてもいい」
「それはわがままよ。沖縄のおじいさんおばあさんを喜ばせなきゃだめよ。それがあなたの最後のお勤めじゃないの?」
「そうだけど」
「それをわかっているならまっとうしなきゃだめよ。それほど永く二人は生きられないわ」
「わかるけど、わからない」
「そういうことよ、生きるって。そういう渦の中で理性の方向を見れば立派になれるし、逆方向に行けば芸術家になれるわ」
「おれ、ジャズもやりたい」
「やればいいじゃない、勉学もね。あなたの才能は小さくないの。大きいからいろいろなことができるの。目の前にあるいろいろな事柄に無心でぶつかっていけばいいのよ」
「今、おれは無心で阿古にぶつかっている」
「私は別格よ」
「あの雲夏の終わりみたいだな」
「違うわ、秋の始まりをおしえてくれているのよ」