痔の手術後、、後遺症が心配な方へ。 | ひねもすのたりのたりかな

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日々痔の診療に携わっていると患者さんが抱く素朴な不安や疑問に対して医師として次第に鈍感になってしまうことあります。

 

痔の手術をうけたら肛門のはたらきが悪くなってしまうのではないか?という不安。。。。

具体的には、、

 

・肛門が狭くなってしまう

・肛門の筋肉が弱くなって便やガスがもれてしまう

 

このようなことを心配されている方が少なくないようです。

 

確かに肛門の解剖学や生理機能について不十分な知識のまま手術を行えばこのような後遺症を起こしてしまう可能性があります。

では、よく噂されるこれらの不安について説明してみましょう。

 

①「肛門が狭くなってしまう」

これを予防する方法は痔核をとりすぎないことです。腫瘍の手術と痔核の手術の根本的な考え方の違いとして、腫瘍は取り残しなく切除しますが、痔核に関してはわざと「縫いしろ」を残して切除するという点があります。腫瘍、特に悪性腫瘍は取り残してしまうと再発や転移を経て患者さんの生命を脅かしてしまいます。一方痔はもともとは体の役に立っている正常な組織が必要以上に腫れたものです。例えるなら「腫れた唇」です。「唇」は口を空け閉めすることで発音や呼吸、食べ物を食べるときに重要なはたらきを持っていますね。痔核のもとになる組織も同様です。肛門をすき間なく適度に閉めることで排泄に関わる重要なはたらきをしています。この痔核の元になる組織のことを「アナル・クッション(anal cushion)」と呼びます。このアナル・クッションが肥大化して出血や痛み、脱出を引き起こす病気が痔核です。

唇が腫れたからといって唇をすべて取り除いたら大変なことになってしまいますよね。手術の際には痔核を過不足なく取り除く「デザイン」が大切になってきます。ある部分「形成外科」的な要素も含んでいるのです。

 

②「肛門の筋肉が弱くなって便やガスがもれてしまう」

肛門を閉めたり開いたりする筋肉を肛門括約筋と呼びます。この筋肉に大きな障害がおきると肛門が締まらなくなり重症になると便失禁を生じるようになってしまいます。出産、分娩の際にもこの筋肉が傷ついてしまうことがあります。痔核はそもそもこの肛門括約筋とはある程度の距離のある所に生じる病気です。あふれているビールの泡の部分を適度に取り除くようなもので、液体部分のビールには手をつけないような感じでしょうか。肛門の解剖を理解した上で痔核の手術を行えば、肛門括約筋に障害を残すようなことは生じません。

 

昔おこなわれていた古い治療法(ホワイトヘッド手術)や薬液による治療(腐食療法)などの為に肛門に術後後遺症を来してしまった患者さんは今まで何人か診察で拝見したことがあります。現在おこなわれている手術方法はそれらかつて行われていた治療法への反省の視点から改良、工夫されて確立されてきた手術法です。他の人の噂やインターネット上の古い情報に惑わされず、おしりの症状でお悩みの時には一度専門医にご相談ください。