おしりがかゆい | ひねもすのたりのたりかな

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日常の診療を通して思ったことや感じたことを書いています

だいぶサボっていました。久しぶりのブログです。

「肛門のかゆみ」これ、笑えるようですが意外と切実とした悩みをもっている方多いのです。仕事中痒くて仕事に集中できない、夜かゆくて自然と掻いてしまう、寝不足になるetc...

一昔前だと「ギョウ虫」?
今でもこれを心配して来院される方は今でも結構多いです。しかし人糞を使った有機肥料の野菜を好んで食べているのならいざ知らず、現代の衛生環境では第一に考えられる原因とは言い難いです。

実は意外なことにいちばん多い原因は「洗い過ぎ、拭き過ぎ」なんです。

もともと痒くなりだす原因は体質に加えて汗や便の拭き残しなどの外的刺激による要因なのですが、その後のケアの仕方で悪化させてしまうケースが多いんです。

痒くなりだすとどうしても清潔にしようと思うあまり、シャワートイレで洗いすぎる、風呂で洗いすぎる、痒さのあまり紙で拭きすぎる、といった行動に出てしまいがちです。

これが事態をさらに悪化させます。

よく診察の時に車の塗装に例えて説明します。車のボディーには塗装がされていて、塗装の上にワックスなどでコーティングします。それによって車体へ傷がつかないように保護されています。人間の皮膚も表面に角質層があって皮脂で保護されています。石けんやボディー・ソープで洗いすぎると皮脂が洗い流されてしまいます。そこに紙(トイレットペーパー)でゴシゴシ拭いてしまうと角質もはがれ落ちてで皮膚がむき出しになって傷つきやすくなってしまいます。ワックスや保護コーティングせずに車を走らせていれば、車体にぶつかる砂や小石などのせいで塗装そのものに細かい傷がついてしまい、いずれ車体にも影響を及ぼすかも知れません。洗いすぎて「皮脂」を落としすぎてしまうのは車のワックスを落としてしまうのと同じことです。

おしりに痒みを感じたときほど、石けんやボディソープをつかって洗いすぎないようにしましょうとお話します。またトイレットペーパーでゴシゴシ拭くのもよくありません。
ウォシュレットは弱めの設定で数秒間のみにします。お尻を拭く時には前後に動かさずに押し付けて水分を吸い取るだけにします。ウォシュレットがないお宅ではアルコール成分を含まない、例えば赤ちゃん用のお尻ふきや「サニーナ」などの低刺激性のウェットティッシュなどで便を拭き取り、その後にトイレットペーパーで前述のように湿り気を取り除くとよいでしょう。入浴の際にはできるだけ最後には浴槽に入って、お尻に石けんや洗剤成分が残らないように軽くすすぎましょうとお話しします。

薬は亜鉛化軟膏もしくはステロイドが少量含有された外用薬を処方します。まれに真菌のような雑菌が原因になっていることがあるので、2週間前後使用して改善が無ければ他の薬に変更することもあります。下痢傾向の方は頻回の軟便が誘因になることもあるので、内服薬で排便状況を改善する治療を行います。また掻くと皮膚の下で「痒み物質」が作られて、さらに痒みを増幅させるということも知られていますので、痒みそのものを押さえ込むことも大切になってきます。そのため抗ヒスタミン剤などの内服薬を処方することもあります。

最近感じることは、「ギョウ虫症」などよりもお尻の状態を気にしすぎるあまり洗い過ぎと拭き過ぎによって「清潔にしようとする」ことで生じる症状のほうが圧倒的に多いということです。これは結局悪循環を招き症状を遷延させてしまいがちです。消毒などするとあっというまに肛門周囲の皮膚はただれたり皮膚炎をおこしますので絶対にしないでください。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。