心不全治療のために塩分摂取制限を行っても、死亡や入院のリスク低下にはつながらない可能性を示唆するデータが報告された。ただし、生活の質(QOL)は塩分摂取制限で改善するという。アルバータ大学(カナダ)のJustin Ezekowitz氏らの研究によるもので、結果の詳細が第71回米国心臓病学会(ACC2022、4月2~4日、ワシントンDC)で発表されるとともに、同2日「The Lancet」に論文掲載された。
心不全患者に対しては古くから塩分摂取量を制限するという指導が続けられてきており、その歴史は100年以上に及ぶ。しかしEzekowitz氏らによると、その推奨の根拠となる、無作為化比較試験のエビデンスはほとんどないという。この状況を背景に同氏らは、以下の国際共同非盲検無作為化比較試験を行った。
研究参加施設は、6カ国(オーストラリア、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、ニュージーランド)の26施設で、研究参加の適格条件は、18歳以上の慢性心不全患者(NYHAという4段階の重症度分類で2~3)。2014年3月24日~2020年12月9日に、806人〔年齢中央値67歳(四分位範囲58~74)、男性66%〕が登録された。
無作為に二分し、塩分摂取制限を強化する群(397人)にはナトリウム摂取量1,500mg/日(食塩換算で約3.8g/日)未満を目標に栄養指導が行われ、対照群(409人)には通常の治療が継続された。実際のナトリウム摂取量は、減塩群がベースライン時点で中央値2,286mg/日(四分位範囲1,653~3,005)であり、追跡12カ月後には同1,658mg/日(1,301~2,189)と減少していた。一方、対照群は同順に2,119mg/日(1,673~2,804)、2,073mg/日(1,541~2,900)だった。
12カ月間での主要複合エンドポイント発生率は、減塩群15%、対照群17%であり、有意差はなかった〔ハザード比(HR)0.89(95%信頼区間0.63~1.26)、P=0.53〕。エンドポイントを個別に見ても、全死亡はHR1.38(同0.73~2.60)、心血管疾患入院はHR0.82(同0.54~1.24)、心血管疾患による救急外来受診はHR1.21(同0.60~2.41)であり、全て有意差が認められなかった。
一方、カンザスシティ心筋症質問票という100点満点の指標で評価したQOLの12カ月間での改善幅は、減塩群の方が有意に大きかった〔平均差3.38点(同0.79~5.96)、P=0.011〕。また減塩群では、NYHAの重症度が改善した患者が対照群より有意に多かった(P=0.0061)。
この結果についてEzekowitz氏は、「塩分摂取量を制限することで得られるメリットは限定的なものにとどまるようだ」と述べている。ただし、本研究では対照群のナトリウム摂取量も2,073mg/日(食塩換算で約5.3g/日)であり、群間差が少なかったことに言及。「減塩群のナトリウム摂取量がより少なく、介入期間がより長ければ、異なる結果が得られていたかもしれない」との考察を加えている。
同氏はまた、「主要評価項目については有意差が示されなかったが、だからといって心不全患者は減塩をしなくても良いという意味ではない」と、早急な解釈に釘を刺す。そして「QOL関連指標の改善幅に有意差が認められたことは、患者にとっては非常に重要な点だ」と付け加えている。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGregg Fonarow氏は、「これまで長年、心不全患者に減塩指導が行われてきたが、それは前向きの無作為化比較試験に基づく推奨ではなく、観察研究、生理学的根拠、専門家のコンセンサスに基づくものだった。今回報告された研究はその点で極めて重要な知見である」と評価。その上で、「結果はネガティブなものであったが、対照群のナトリウム摂取量も2,000mg程度であり、米国の一般成人の3,400mgよりかなり少なかった点を考慮する必要がある」と述べている。
では、心不全患者はこの研究結果をどう考えればよいのだろうか。Fonarow氏は、「この新しい報告が、自分自身の治療に影響があるのかについて、医師と話し合うと良い」とアドバイスする。同氏によると、心不全と付き合っていくポイントは、エビデンスのある治療法を順守することであって、「ガイドラインに則した治療を続けることが、安全で最良」とのことだ。(HealthDay News 2022年4月5日)