累計270万個を突破! 消しカスを集める「マ磁ケシ」の開発秘話を聞いた。 | ★マエちゃん噴泉記★【大阪DE農業】

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 消しゴムを購入する際、どういった基準で選んでいるのだろうか。「ん? よく消えるかどうかの一択じゃないの?」と思われたかもしれないが、その通りである。消しにくいモノをわざわざ購入する人は少ないはずだが、筆者が気になっているのは「消しカス」である。

 

 消え具合にまあまあ満足していても、消しカスがたくさん出てきたり、まとわりが悪くて捨てるのが大変だったり。書いたり消したりを繰り返すと、机の上がカスだらけになるだけでなく、床に落ちると掃除が大変である。特にカーペットの上に落ちると、簡単に取れなくなることもあるので、この“消しカス問題”は忘れてはいけないテーマなのである。

 

 ユーザーのそんな不満を解決するために、消しカスがまとまりやすい商品も販売されているが、個人的に注目しているのはカスを回収することができる「マ磁ケシ」(クツワ、550円)である。2021年10月に販売したところ、じわじわ売れていて、3月末時点で7万個を突破した。「文房具屋さん大賞」の機能賞を受賞したこともあって、さらに人気を集めているわけだが、どのような特徴があるのだろうか。

 

 結論を先に言うと、消しカスを集めることができて、ケースにたまったカスをゴミ箱にポイっと捨てることができるのだ。どういった構造をしているのかというと、消しゴムの中に鉄粉が入っていて、本体はプラスチック製のホルダーに包まれている。本体の端っこにネオジム磁石を内蔵しているので、透明キャップを外して消しカスに近づけると、ススーっと、カスを吸いつけて集めることができるのだ。

 

 ホルダーをキャップに戻すと、消しカスがパラパラとキャップ内に落ちていく。で、キャップ内のカスをゴミ箱に捨てれば、机の上はキレいな状態を保つことができるので、周囲の人に迷惑をかけずに済むというわけだ。

 

●初代の課題を解決

 さて、ここまで読んでいて、数年前の記憶がよみがえった人もいるのではないだろうか。クツワは2018年に、磁力で消しカスを集めることができる「磁ケシ」(308円)を販売していて、今回のマ磁ケシはその“進化系”ともいえるのだ。

 磁ケシのことをよく知らない人のために、商品のことを簡単に説明しよう。磁ケシにも鉄粉が入っていて、ケースの底にネオジウム磁石を内蔵している。それを消しカスに近づけると、ススーっと集めることができるのだ。

 

 ここまでの機能は、進化版のマ磁ケシと同じ。当時、このような消しゴムがなかったので、「スゴい。便利すぎる」「こーいうのがほしかったんだ」といった声が広がって、シリーズの出荷累計は270万個を超えるヒット商品に。が、しかしである。

 

 消しカスをつけたままゴミ箱まで持っていって、カスを落とすか、机の上にティッシュなどを広げて、そこに落とす必要があったのだ。このことに不満を感じる人が多く、ネット上で「なんとかしてくれ」「逆に不便」といったコメントがでてきて、同社は「それならば、消しゴムの中にカスを回収することができる商品をつくればいいのでは」と考え、開発を進めることにしたのだ。

 

 完成品は磁石が上下に動くようになっているが、試作品では回転しながら上下に動くようになっていた。「なぜ、わざわざ複雑なモノをつくったの?」と思われたかもしれないが、この技術は一部のスタンプなどで使われていて、それを応用しようと考えていたのだ。ちょっとした仕掛けが施されているので、完成すれば、文具ファンにとってはたまらないアイテムになっただろう。

 

 しかし、ここで問題が出てくる。完成品のサイズと比べて、1.5倍も大きかったのだ。このサイズで販売しても、多くの小学1年生が購入するマグネット式の筆箱に入らないことが分かってきた。これではいけないということで、上下に動くいまの構造を取り入れることにした。

 

 できるだけコンパクトにしたいわけだが、サイズの問題を解決することは難しかった。磁力をオフにするには、どうしても“距離”が必要になってくる。磁石を近づければオンになってしまうので、キャップの中にカスをためることができなくなる。離せば保管庫の役割を果たすことができるが、離せば離すほどサイズが大きくなってしまう。

 

 消しカスがきちんと落ちて、筆箱の中に入るサイズにしなければいけない。開発チームの間で「もう少し離して」「いやいや、もうちょっとだけ近づけて」といった会話を何度も交わして、ようやく商品が完成したのだ。

 

●次の商品は

 初代の磁ケシでカスを集めるたびに、ゴミ箱に持っていくのは面倒――。進化版でその課題を解決したわけだが、実はユーザーから不満の声がもうひとつ出ていた。価格である。消しゴムの多くは100円を切る価格で販売されているので、磁ケシは3倍ほどになる。小学生が購入するには「ちょっと高いよ」といった声が出ていて、この問題をなんとかしなければいけなかった。

 

 このような話をしていると、「ちょ、ちょっと待てよ。進化版の『マ磁ケシ』の価格は550円じゃないか。小麦粉やら調味料やら電車の値上げに便乗したのでは」と突っ込みたくなる気持ちはよーく分かる。このことをクツワの担当者に聞いたところ、「ご指摘のとおり、磁ケシに比べて価格は上がりました。ただ、替え消しゴムを165円で販売していまして、消しゴムが消耗してきたら、それと交換していただければ」とのこと。つまり、長ーーーく使えば、トータルで価格を抑えることができますよという話である。

 

 初代の消しゴムを開発する際、社内からはこんな声があったという。「本当にこれ売れるの?」と。これまでになかった商品だったので、疑問を感じる人が出てきたのも仕方がない。開発に携わった杉原麻岐さんに聞いたところ「社内でも意見が割れていました。『これ売れるよ』という人もいれば、『難しいのでは』という人も。個人的に『売れる確率は50%ほどかな』と思っていたのですが、とりあえず販売してみようといった形でスタートしました」と振り返る。

 

 その後、想定を上回る形で売れていって、今回の進化版が登場した。となると、気になるのは次である。杉原さんに聞いたところ「すでに検討を始めている」とのことだが、具体的なことはまだ決まっていないという。

 

 「磁ケシ」のネーミングは「字消し」のダジャレで、その後、おじさん柄の「お磁ケシ」が登場し、今回の「マ磁ケシ」である。次はどのような商品名で、われわれをワクワクさせるのか。開発チームは、“磁わ磁わ”つくっているのだろう。