「つながらない権利」が日本でも法制化?休日に部下に連絡できなくなる恐れ。 | ★マエちゃん噴泉記★【大阪DE農業】

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ここ数年、各国で「つながらない権利」が注目されており、法制化される国も出てきています。これはどのような権利なのか、日本で法制化されるとどうなるのか、解説します。(特定社会保険労務士、大槻経営労務管理事務所 土井裕介)

「つながらない権利」とは?

 今さまざまな国で「つながらない権利」が注目されています。「つながらない権利」とは、勤務時間外に仕事やメールの連絡が来た場合に、労働者がその応答を拒否できる権利のことをいいます。

 フランスでは2017年法制化されその後イタリアやメキシコでも法制化、アジアにまで法制化を検討する動きが広がりつつあります。もともと通信技術の発達により議論が進んでいた中で、コロナ事情によりテレワークが浸透したこともつながらない権利に対して議論が進んだ要因といえるでしょう。

「あの件どうなった?」

 

 食品メーカーに勤務する佐々木さん(仮名)は、休日の家族とのランチ中に上司から入ったLINEに困惑したといいます。

 

 上司からすれば、分かっていることだからすぐに返事がくるだろうという認識だったかもしれません。佐々木さんは、どうなったと聞かれても資料を確認しないとわからないし、実際に家に戻ってLINEを返したところ、調べて返すまでに1時間弱かかったというのです。佐々木さんは、テレワークが定着してLINEでやりとりするようになってから、休日であっても上司から気軽に連絡が来るようになり、精神的に参っている社員が増えてきたというのです。

 

 上司からのこのような迷惑LINEは、読者の皆さまも多かれ少なかれ経験したことがあるのではないでしょうか。

日本では「つながらない権利」は認められる?

 つながらない権利について、日本における現状を見てみましょう。    

 

 テレワークが定着する中で、厚生労働省から2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下ガイドライン)が公表されました。つながらない権利に関係するところでは、ガイドライン内で以下のように記載されています。

 

・時間外、休日又は所定外深夜 (以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない。

 

・テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。

 

 ただし、このガイドラインはあくまでも労使双方にとって留意すべき点、望ましい取り組みなどを明らかにしたものであって、権利といった議論にフォーカスしたものではなく特段強制力もないのが現状です。

 

 また、民間企業の取り組み事例はどうでしょうか。三菱ふそうトラック・バスでは、長期休暇中に電子メールを受信拒否・自動削除するようにして物理的にメールを受信できない仕組みを採用しています。

 

 ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、夜10時以降と休日の社内メールを自粛するように呼びかけています。

 

 もしフランス発の「つながらない権利」が日本で法制化されたら、いったいどのようになるのでしょうか。

こんなことが起こる可能性も

 つながらない権利が法制化することで考えられることの一つに、企業のサービスの低下が考えられます。

 

 イメージとしては、携帯電話が普及する前の時代に近いでしょうか。メールや電話などの連絡が取れないことで業務を進めることができず、翌日以降に持ち越されてしまうことが想定されます。持ち越せるものであればよいのですが、今までなら対応できたことが「本日は担当者が不在にしておりまして…」と遅れてしまうケースや、クレーム対応が迅速にできなくなる可能性があるでしょう。

 

 対応の仕方を誤ってしまうと、「御社には任せられません」といった形で営業的にダメージを受けてしまうことも想定されます。場合によっては企業のサービス範囲の縮小を余儀なくされ、また、サービスの質が低下することが考えられるのです。

 

 また、法制化されることでこそこそと“隠れてつなぐ”といった行為も出てくることでしょう。事由によっては、就業規則上でも懲戒処分に踏み切らなければいけないケースも出てくることが考えられます。

 

 なお、つながらなくなることで、最終的には労働時間、休憩、休日の適用が除外される管理職が対応せざるを得なくなることも考えられます。一気にしわ寄せがくることで疲弊した管理職が増えることも想定されることでしょう。つながらない人にとってはよいのですが、つなげたい側(働いている人)からすると業務の負荷、精神的負荷が増えることが考えられるのです。

つながらない権利に対応するためのコツ

 例えば、部下が新婚旅行に行くなど、長期休暇に入ったときを想定してみてください。今までいた部下が1週間から10日いなくなっても何とかやってきたのではないでしょうか。

 

 長期休暇に入る前に、休暇中にやらなければいけない仕事の引き継ぎや、その間の業務マニュアルの整備をしたのではないでしょうか。ここに「つながらない権利」へ対応するためのヒントがあるわけです。

 

 与えられた役割に対して、マニュアル化を推進することは重要です。担当するクライアントや事務手続きなどをマニュアル化しておき、誰でもわかるようにしておくこと=属人化しない状態を目指します。それにより、その人しかわからないことを減らし、終業時間後や休日の問い合わせを減らすことが期待できます。

 

 使用するファイルを共有化することなど、ルール化することも同様の効果が期待できるでしょう。経験の浅い人でも対応できるよう、なるべく判断の少ないマニュアル(例えばただファイルに入れるではなく、いつどこに、どのようになどを具体的に明記する)にしておくことがコツといえます。

 

 また、連絡を取らなくてもいいようにするためには、管理職が今まで以上に部下の状況を把握しておくことが必要となります。どの仕事にどのくらい時間がかかるのかが見えるようにした上で、指示する必要が出てきます。今まで個人任せにしていた部分や個人の技量によるところも踏まえ、質の高いタイムマネジメントが必要といえるでしょう。

 

 なお、時間外に対応が難しい場合であって取引先とコミュニケーションを取って済むのであれば、事前に伝えた上で休み明けに対応することが、トラブルを回避するためには重要です。また、あらかじめ休むことが決まっている場合には、事前に伝えた上で予定を聞いておくことも、問い合わせ対応を減らすためには有用です。

 

 ただし、問い合わせを減らす工夫をした上でどうしても対応が難しい場合は、サービス内容や契約内容を見直す必要も出てくるでしょう。

今のうちにつながらない権利への対応を

 休みや時間外に、電話やメールをしたくてしている人ばかりではないでしょう。業務量的に、やむを得ず連絡をしなければいけない状況を抱えているといった事情も考えられます。また、ただ単につなげないでほしいというばかりでなく、仕事の状況がわからないまま休日を過ごすことに不安を抱えてしまうケースもあるのではないでしょうか。さらには、シフト勤務や状況を共有しておかなければ仕事を進めることが難しい業務や、臨時的突発業務に対応しなければならないことも考えられます。

 

 このように、つながらない権利をめぐってはさまざまな事情があり、海外では法制化される動きが広まりつつあります。今後、日本でも本格的につながらない権利の法制化が検討されることも、ないとはいえません。今からつながらない権利への対応を始めておくことは、今後の働き方を見直す意味でも有用といえるでしょう。