トンガ噴火は日本に「令和の米騒動」引き起こすか?。 | ★マエちゃん噴泉記★【大阪DE農業】

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米教授が指摘する“圧倒的に少ない”物質とは

 15日、巨大噴火が起きた南太平洋のトンガ。現地での被害の状況はいまだにわからないが、今回の噴火は火山灰による日射量不足などの影響で「世界的にも寒冷化による被害をもたらすのでは」という声が上がっている。最新の情報をもとに、日本への影響などを調べた。

 

*  *  *

 

 今回の噴火は人工衛星からもはっきりと見えるほど、巨大な噴火だった。日本の気象衛星「ひまわり8号」が捉えた映像では、13時過ぎに爆発した一部始終を見ることができる。噴煙の高さは約20キロ、半径260キロにも広がったと見られている。

 

 噴火の前の映像だが、トンガ気象サービスがフェイスブックに投稿した動画では、大量の黒煙を上げる火山の姿が見える(動画)。これだけでも十分に恐怖を感じる映像だが、15日の噴火の際にはこれ以上の噴煙が上がったと見られる。

 

 こうした噴火の状況を前に、いまこんな発言がSNS上で出てきている。

 

<トンガ海底火山の大爆発で地球気候が寒冷化するかもしれない>

 

<また日本のコメが凶作になるのか>

 火山が大規模に噴火すると、寒冷化を引き起こすと言われているからだ。

 

■ピナツボ火山噴火の衝撃

 寒冷化のメカニズムは、こうだ。

 火山ガス中に二酸化硫黄が含まれる。それが地上から10~50キロにある成層圏に達すると、化学反応によって「硫酸エアロゾル」という液体のつぶが多量に生成される。この硫酸エアロゾルが太陽光を反射してしまうため、数年にわたり日射量を不足させたり、平均気温を低下させたりすると言われている。

 

 実際に大規模な噴火による気温低下が起こっている。1991年にフィリピンで起きたピナツボ噴火だ。噴火の規模を表す噴火マグニチュード(噴火M)は5.8で、かつて日本の富士山で起きた大規模噴火である宝永噴火(噴火M5.26)よりも巨大な噴火で、「20世紀最大の噴火」とも言われる。

 

 ピナツボ噴火の噴煙は高度26キロまで到達した。数年にわたり影響を出したとされており、例えば太陽光が最大で5%減少、北半球の平均気温が0.5~0.6度低下、地球全体でも約0.4度も下がったと知られている。

 

 0.4度というとあまり変わらないようにも思えるが、日本では噴火から2年後の93年に、夏の平均気温が例年より2~3度ほど低くなり、記録的な冷夏に襲われた。その結果、米が大凶作となり、タイ米を緊急輸入する「平成の米騒動」が起きている。また、毎日の気温や日射量が大切になる農作物には大きなダメージを与えることがわかっている。

 

 こうした記憶もあり、今回の噴火が「令和の米騒動」になるのではないかと懸念が出ているのだ。こうした混乱を予想してか、コメ卸会社の株価が一時上がるなど、市場にも影響が出た。

 

 専門家はどう見るか。火山噴火と小天体衝突による気候変動に詳しい東北大の海保邦夫名誉教授は「二酸化硫黄がどのくらいの量入っていたかが重要だ」と指摘する。

 

■サイモン教授「影響はない」

 では、今回どのくらいの二酸化硫黄が噴火によって出たのか。

 

 人工衛星による火山ガス観測に詳しいミシガン工科大のサイモン・カーン教授(火山学)は「二酸化硫黄の放出は40万トン程度だ」とAERAdot.の取材に対して説明する。その根拠は人工衛星「TROPOMI」によって観測された二酸化硫黄の量だ。16日に観測されたデータでは39万8千トンの二酸化硫黄が出ていることが示されている。

 

 91年のピナツボ噴火では1500万~2千万トンの二酸化硫黄が搬出し、1500万トンが成層圏に入ったとされる。ピナツボの噴火に比べると、今回のトンガの噴火は明らかに二酸化硫黄の量が少ないといえる。

 

 サイモン教授はこう断言する。

「これは地球の表面温度に明らかに影響を与えるほどの二酸化硫黄の量ではない。気候に影響を与えるには、少なくとも500万トンの量が必要だと考えています。今回の噴火は、気候に影響を与えたピナツボ火山の噴火より、30~40倍程度少ないです」

 

 海保名誉教授もこう説明する。

「現時点では、成層圏に入る二酸化硫黄が少なく、生成される硫酸エアロゾルによる世界の気候への影響はほとんどないと考えられます。ただ、火山灰の粒子が小さく、かつそれが成層圏に入った場合、硫酸エアロゾルと違い、時間差がなしで日射量が減少する影響が出る。ただ、その期間は短く、今後1~2カ月日射量の減少が起きる可能性があり、南半球の近隣地域で農作物などに何らかの影響がでるかもしれません。今後どのくらいの大きさの火山灰の粒子だったのか注目する必要があります」

 

 歴史をひもとくと、寒冷化の事例は少なくない。例えば、1783年にアイスランド南部にある火山で大規模な噴火が起こり、世界が寒冷化。その後、同年に日本でも浅間山が天明大噴火を起こしている。火山灰による直接的な被害だけではなく、寒冷化によって天明の大飢饉と呼ばれる事態になっている。日本でも富士山などが大規模噴火や巨大噴火を起こすリスクがあり、首都圏への降灰だけではなく、広い範囲での冷害にも備える必要はある。

 

 トンガで今後再び大きな噴火が起きれば、当然、事態は変わる可能性はある。引き続き状況を注視する必要がある。

(AERAdot.編集部・吉崎洋夫)