「ウイグル人弾圧後押し」中国を儲けさせる
「直下型地震相当のものという認識だ」
新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が急拡大した場合の経済への影響をこう表現したのは、東京都の小池百合子知事。本コラムで小池氏の話題を取り上げるのは久方ぶりだが、相変わらず、科学も論理もお構いなく、ニュースの見出しになることだけを狙ったような物言いは健在である。
その小池氏はいま、都内の新築一戸建て住宅の屋根に、太陽光発電設備(太陽光パネル)の設置を義務付ける条例制定に意欲的だという。最近かまびすしい「脱炭素、再エネ」ブームに、「我こそは先駆者」とばかりに〝愚策〟を繰り出したのである。
実は、都内某所にある小池氏の私邸はまさにこれ。十数年も前すでに、その屋根に太陽光パネルを貼った、ご自慢の「エコハウス」にお住まいなのだ。
一個人として、「わが家の屋根の上の太陽光パネルで電気の自給自足ステキ」と思うのは、小池氏の趣味なのだろうから否定しないが、日本の首都・東京で、一軒家を建てる人すべてにこれを義務付けるというのはバカげている。ちなみに、東京での戸建て新築軒数は月に約十万軒にも上る。こんな条例案は、何としても都議会で潰してもらわねばならないので、その理由を書く。
そもそも、太陽光発電は「エコ」とは程遠い。化石燃料も原子力も使わない、日々降り注ぐお日さまの光で電気がつくれる=エコというのは絵空事、子供だましの噓だと言ってもいい。
太陽光発電は、絶えず降り注ぐ太陽光を確保する必要があるため、本来それに適した立地条件と広い面積を必要とする、いわば非効率的な発電方法だ。東京のような密集地、地震も大雨もある大都市に適さないことはいうまでもない。しかも、セメントやガラス、シリコンなど大量の材料が必要で、ということは廃棄物も大量に出されるということ。脱物質(=脱炭素)とは正反対の手法で、全然「地球に優しく」ない、ともいえる。
山間部が多く地震も多い日本では、デメリットの方が大きいと見られる太陽光発電の事業だが、ご承知のとおり、近年、これが超拡大傾向にある。
例の「セクシー発言」で国民に嗤(わら)われた小泉進次郎氏が環境相を務めた頃、環境省は、2030年度の太陽光発電の導入目標に約2000万キロワット分を積み増す方針を決めている。原子力発電所20基分に相当する規模だ。小池氏はここに目をつけたのだ。
しかし、太陽光発電にはもう一つ、深刻な問題が絡む。世界が批判の声を上げる「ウイグル問題」との関連である。
現在、世界の太陽光発電で用いられる器材の約8割が中国企業でつくられているとされ、そのうちの6割が新疆ウイグル自治区でつくられている。要するに、太陽光発電推進は、ウイグル人弾圧を後押ししてまで中国を儲けさせる、反人道的な策といって過言でない。
米当局は昨年来、ここにメスを入れている。
具体的には、米国税関国境保護局(CBP)が昨年6月、新疆ウイグル自治区で太陽光パネルの原料などを製造する「合盛硅業(Hoshine Silicon Industry)」からの輸入を一部差し止める違反商品保留命令(WRO)を出した。同社製品(ポリシリコンなど)の生産工程で強制労働があったことが理由だ。
また、米国商務省・産業安全保障局(BIS)は同日、合盛硅業を含む新疆ウイグル自治区の5つの企業・団体を、エンティティ・リスト(=国家安全保障や外交政策上の懸念がある企業)に追加した。
理由はやはりウイグル人らへの拘束や強制労働、高技術による監視などの人権侵害だった。その後、昨年12月に、米国で「ウイグル強制労働禁止法」が成立したことはご承知のとおりである。
小池氏が真に〝感度の高い〟政治家なら、この国際潮流に逆行することはあり得ないのだが、都知事となってからの小池氏の行動には、「親中派」政治家のそれと思しきことが多い。
かくなる上は、東京都議会の見識に期待するしかなく、そのためにも良識的な都民の声の惹起(じゃっき)に努めるしかないのである。