改めて明白になった“存在感”の大きさ…「キングメーカー」安倍晋三が目指すもの。 | ★マエちゃん噴泉記★【大阪DE農業】

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 新型コロナウイルス感染症の第五波が、日本を襲う2021年の夏から、日本の政局は大きく動きました。10月に岸田文雄総理が誕生しましたが、そこで明らかとなったのは、安倍晋三元首相の影響力の大きさでした。そのため世間では、「安倍第三次政権」の憶測すら流れています。2022年、安倍さんはどのような力を持っているのか、そして再登板はあるのか、考えてみたいと思います。

 

 まずは、2021年の政局から振り返ってみましょう。私が取材する限り、安倍さんや麻生太郎さん(当時、副総理兼財務大臣)は、東京オリンピックが終わった8月中旬あたりまでは、「菅(義偉)さんの首相続投でいい」という意見でした。

 

 しかし、コロナの感染者数が東京を中心に過去最高を記録し、緊急事態宣言が延長を繰り返す中で、支持率が下がり、次第にその雲行きが怪しくなってきました。

「なんとしても菅さんに辞めてもらいたい」と声を上げたのは…

 まず動いたのは、当選回数の少ない自民党内の若手です。自分たちが次の衆院選に当選するために「なんとしても菅さんに辞めてもらいたい」との声をあげはじめ、勢いが増したのです。この声に安倍さんや麻生さんも、菅支持の考えを変えました。それが、菅さんの総裁選不出馬へとつながります。

 

 この若手議員の突き上げは、総裁選での派閥の動きも変えてしまいました。従来、自民党の総裁選は、派閥の領袖が方向性を決めるもので、若手議員はいわば将棋の駒のようなもの。領袖の意見には逆らえませんでした。それが、今回一気に崩れることになります。周知のとおり、細田派や麻生派、二階派などの大派閥が、2人以上の候補を支持するという前代未聞の事態を生みました。

 

動きの背景に誰がいたのか

 この動きをある意味で「誘導」したのが安倍さんでした。安倍さんは早い段階で、無派閥で自身の右派的な政治思想に近い意見を持つ、高市早苗さんを支持すると公表しました。安倍さんの出身派閥である細田派は自前の候補者を擁立できず、かなり自由に高市応援団として振舞っていきました。

 

 その背景には、8年弱の自民党総裁時代にアメと鞭を使って、徹底的に議員たちを締め付けてきたことがあるでしょう。「小選挙区制度になって議員は党中央の意見に逆らえなくなった」とよく言われますが、その通りです。公認権とお金を握っている党の幹部の権力はますます強くなっているのです。さらに、国政選挙に勝ち続けたわけですから、表立って反対をする人は少ない。「高市さんをよろしく」と安倍さんに声をかけられたら、断れない人がたくさんいた理由です。

 

 結果として、高市さんは下馬評を覆し、議員票で河野太郎さんを上回る2位となり、その影響力を見せつける恰好になりました。

 

“甘利明幹事長”は1年越しの「安倍人事」だった

 普通なら高市さんを支持した安倍さんは総裁選で負けたことになりますが、そうはならないのが、今の自民党です。派閥の枠を超えて安倍さんの意向を重視する議員がいるのを見せつけたことで、むしろ大きな力になりました。

 

 影響力の一端が明らかになったのは甘利明さん(麻生派)の幹事長就任でしょう。「安倍さんの意向を無視して、岸田さんがこの人事を実現した」との解説もありますが、事実はまったく違います。

 

2016年に週刊文春が報じた金銭授受疑惑で安倍内閣の閣僚を辞した甘利さんを、安倍さんはずっと復権させようとしていました。2020年の菅内閣誕生前夜、私は安倍さんから直接、「次の幹事長には甘利さんがいい」との持論を聞きました。結局、その時は、二階(俊博)幹事長が留任し、甘利幹事長とはなりませんでしたが、今回は実現した。つまり、1年越しの「安倍人事」だったのです。

 

「ホンネの代弁者」高市政調会長

 さらに総裁選で右派層から強力な支持を得た高市さんが、政務調査会長に就任したことで、安倍さんの強いカードとなりました。

 

 意外に思うかもしれませんが私は、高市さんの主張は、良いか悪いかは別にして今回の総裁選の候補の中で最も筋が通っていると感じています。安保、外交をとっても、自主防衛とも取れる安全保障構想、対中の強硬姿勢などは一貫しています。

 

 ただし、筋が通っていることと、現実の政治は別問題です。安倍さんも高市さんと近い考えを持っていましたが、第二次政権になってからは、「封印」することを厭いとわなかった。

 

 2013年に安倍さんは靖国神社参拝をしましたが、中韓に留まらず、米のオバマ政権も不快感を表明しました。その直後に、私は安倍さんと面会する機会があったので、「アメリカは、あなたを戦前回帰の復古主義者だと思っている」と率直に伝えました。それがきっかけとなったのかわかりませんが、その後在任中に靖国を参拝していません。

 

安倍さんの第三次政権は…

 またアメリカのトランプ前大統領との関係が有名ですが、冷え切った中国との関係も重視していました。習近平国家主席と会談し「戦略的互恵関係」になることを表明してもいます。それが、安倍さん流のリアリズムです。

 

 逆にいえば、首相在任中に安倍さんがやりたかった「ホンネ」の部分を高市さんが担っているといってもいいでしょう。首相退任後の安倍さんに会うと、非常に生き生きとしていて、自由に発言していることが伝わってきます。最近では、公式YouTubeチャンネルを開設し、自由に自分の主張を広げる場を増やそうとしています。

 

 以上の点から、私は安倍さんの第三次政権はない、と考えています。安倍さんは第一次政権の失敗から学び、権力というものが、どのようなものかをよくわかっています。自分が三度総理になることで、世論がどれだけ反発するかも理解しているはずです。安倍さんは、キングメーカーとしてのいまの立場を手放すことはないでしょう。2022年以降も総理時代とかわらず安倍さんの言動を注視する時代が続くのかもしれません。