韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が昨年1月に発足させた捜査機関・高官犯罪捜査庁が、保守系の最大野党「国民の力」の国会議員やメディア関係者の個人情報を大量に収集していた問題で、毎日新聞ソウル支局の韓国人記者1人の個人情報も収集されていたことが、毎日新聞の情報開示請求への回答で確認された。日本メディアの韓国人記者の携帯電話情報の照会が明らかになったのは、朝日、東京の両新聞に続いて3例目。
記者は昨年12月28日、過去1年間に捜査機関から個人情報の照会があったかどうかについて、携帯電話会社に開示を申請。結果が今月3日に通知された。
通知書によると、同庁からの照会を受け、携帯電話会社が昨年8月6日、記者の名前や住民登録番号、住所、携帯電話加入日などを提供していた。理由は「電気通信事業法83条に基づく裁判や捜査、刑の執行、または国家安全保障に対する危害を防止するための情報収集」と記載されていた。
毎日新聞ソウル支局が「新聞社は取材源を保護する義務があり、言論の自由を脅かす懸念がある」として、照会理由をさらにただしたのに対し、同庁は3日、「捜査上の必要があるため、やむを得ず要請した。マスコミの取材活動を査察するためではない」と書面で回答を寄せた。どのような事案に関連して捜査上の必要が生じたかについて、具体的には明らかにしていない。
保守系の朝鮮日報によると、これまで国内外の記者160人以上が対象になったことが判明。国民の力は、党所属国会議員の85%以上にあたる90人が照会を受けていたと明らかにした。
同庁による情報収集問題は、昨年12月上旬、テレビ朝鮮が「6月以降、所属記者の個人情報が集中的に照会されていた」と報じたことで発覚した。朝鮮日報によると、テレビ朝鮮は昨年4月、同庁が捜査対象になっていた検察幹部を聴取した際、公用車で送迎するなど「特別待遇」で対応していた疑惑を報道。同庁は、テレビ朝鮮がその場面を捉えた監視カメラの映像を入手したうえで、報道した経緯について、水面下で調査していたという。
韓国新聞協会など言論4団体は昨年12月23日の共同声明で、対象となった記者の多くが高官犯罪捜査庁に批判的な記事を書いており、「捜査権の乱用だ」と批判。通信照会が適法なものであれば事前に当事者に通知すべきであり、「今からでもどんな容疑で誰を照会したか明らかにせよ」と求めている。
毎日新聞社社長室広報担当は「『捜査上の必要』というだけでは『言論の自由』が脅かされる懸念は払拭(ふっしょく)されません。経緯と理由について追加説明と、今後、繰り返さないことを求めます」とコメントした。
同庁の情報収集とは別に、ソウル市警も昨年5月に毎日新聞ソウル支局の韓国人記者の個人情報を照会していたことが開示請求で判明した。ソウル市警の担当者は3日、照会の理由について「南北関係発展法違反をめぐる事件で、捜査対象者の通話相手を調べる過程で照会した」と口頭で述べた。【ソウル坂口裕彦】