農家の高齢化などから農作物が栽培されなくなった耕作放棄地。その特徴を生かしたビジネスが広がっています。放棄された農作物や土地そのものの特徴を利用した新たな活用法とは?
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■野生化した茶葉で新しいほうじ茶を
お茶ブランドの「1000-19(せんのいっきゅう)」は、コーヒーのように飲めるほうじ茶「HOZZEE(ホージー)」のテスト販売を2021年12月6日から開始しました。このほうじ茶に使われているのは、静岡県の荒れた茶畑の茶葉。耕作放棄地の茶葉が長期間放置され、野生化していることを逆手に取り、良さを引き出しているのです。
耕作放棄地とは、以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地のことです。農家の高齢化や労働力不足などが背景にあり、農水省の調査では2015年に42.3万haありました。これは日本の農地全体の約1割にのぼります。
こうした土地の茶葉を生かしたほうじ茶「HOZZEE(ホージー)」は、コーヒーのような焙煎感を出すために、通常よりも高温で焙煎します。通常140度で行う焙煎を220度で行うのです。これだけの高温では、柔らかい新茶は焙煎に耐えられず焦げ付いてしまいますが、放棄された荒れ地で育った強い茶葉だからこそ、高温の焙煎にも耐えられるということです。
担当者は、構想から1年半ほど、試作を100回以上重ね、コーヒーのような焙煎感とお茶らしい余韻を両立できる味わいにたどり着きました。2022年1月にECサイトでの発売を目指しています。
また、茶葉を摘んだ後、茶畑を耕し、新たにお茶の苗木を植えることで、整備された畑として生まれ変わらせようとしています。
さらに、耕作放棄地を再生するプロジェクトとして、年に2・3回茶畑に行くツアーや副業で茶畑を所有するなど、農地の担い手との架け橋になるような構想があるということです。
■地元産にこだわった酒蔵の醤油
石川県能登町にある数馬酒造は、2019年に醤油事業をリニューアルし、2021年11月24日に醤油を新しく発売しました。新発売した醤油の原材料の栽培には、能登の耕作放棄地で育てた小麦と大豆を使用しています。
数馬酒造は、契約農家とともに、以前から日本酒に使う酒米の生産を耕作放棄地で行っていました。いままで水田に再生された農地は28.2ha、東京ドーム約6個分になるといいます。
酒米用に開墾した水田のうち、稲作に適さない土地で醤油の原材料の栽培に着手。大豆や小麦の栽培は、稲作に比べ水が少なくても栽培できるため、能登産の原料の確保につながり、同時に契約農家の問題解決にもなりました。
今後も能登の魅力を高める取り組みを継続し、自然と文化を次世代につなげていきたいとしています。
■耕作放棄地はビジネスで解決できる?
農業の持続的な発展のためにも減らしたい耕作放棄地。国は「農地中間管理機構(農地バンク)」で農地の貸し借りの手助けや、「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」で支援金の給付を行うなど、解消に向けて取り組んでいます。
耕作放棄地に新しい価値を与え、生産した商品が売れるほど、その地が蘇る。こんなサイクルが農地の問題解決の糸口になるか、期待が膨らんでいます。