過去、干ばつや戦争が原因で起きた食料危機は、
食料供給の一時的な途絶で多数の餓死者を出してきた。
それに比べると今回の食料危機は、長期化し、
その解消は人類最大の課題となるだろうという意味で、
かつてのそれに勝るとも劣らぬ重要な意味をもつ。
農業技術に一定の進歩を見込んだとしても、
その効果は気候変動で打ち消され、
将来の人口増加・食料需要増加に見合った食料供給の
増加は保証されない。
遠い将来に起きるかもしれないこのような食料危機を
どう回避するかは、人類に突きつけられた早くからの課題であった。
ところが、いま起きているのは、まさにそのような危機にほかならない。
ここにいたった過程の概略は次のとおりだ――。
途上国の人口増加や所得水準の向上により、
イモ類や雑穀を主食としていた人々が小麦や米を食べ始めた。
所得向上にともなう動物性食品・油脂の消費の拡大で、
飼料用トウモロコシや油脂の原料となる大豆等の需要も爆発的に増加した。
他方、これらの作物を生産する農地面積は、
一部途上国を除けば拡大の余地はない。
工業化や都市化は、土地と水を農業から取り上げた。
乱開発に加え、化学肥料・農薬・水を大量に使う大規模な
モノカルチャー農業や工場畜産が砂漠化を加速した。
土壌の劣化や侵食、土壌と水の汚染、水不足や塩化により、
食料作物の耕作面積は低迷あるいは縮小してきた。
例外は、森林破壊でトウモロコシや大豆を増やしてきた南米だけだ。
単位面積あたり収量の伸びも、とくに1990年代半ば以降、鈍化している。
大規模な減収につながる干ばつや悪天候の頻度と強度も増すばかりだ。
こうして、かつてはあり余っていた在庫が食い潰されてきた。
90年代末には、これら作物の在庫の急減が始まり、
いまや70年以来の最低レベルに落ちこんでいる。
現在の価格高騰は、基本的にはその反映である(図参照)。
主要穀物の期末在庫率と輸出価格の推移(USDA、FAOのデータから)