ミトコンドリア・イブ
ミトコンドリア・イブ
分子生物学が発展してくるに伴って遺伝子の解析が急速に進み生物
(人類)の進化について新しい知見が次々と発表されている。大きな
話題になったのが1987年に唱えられた「ミトコンドリア・イブ」説
だろう。
細胞のエネルギー生産工場であるミトコンドリアは細胞核のDNA
とは別にそれ独自のDNAを持っている。
(ミトコンドリアは「20億年ほど前に細胞の中に独占的な居住空間を
確保した」「かつて自由に動き回っていた細菌の名残」といわれている。)
ー 参照、『植物と動物の起源』『葉緑体とミトコンドリア』
そしてミトコンドリアは受精のとき卵子のもののみが子に受け継がれ
精子のそれはカットされる。つまり女系(のDNA)なのである。
(これと対照的なのがY染色体。これは受精卵がオスになることを決定
するDNAだからもちろん男系のDNAである。)
* ミトコンドリア祖母
人はその父母、祖父母、曽祖父母、曽曽祖父母と辿ると単純にはそこで
16人の先祖を持つ。(2の4乗)
(従兄弟同士の結婚とかを除くと)
しかし母方だけ(母の母、そしてその母)を辿ればたった一人である。
(もちろん父方だけを辿ってもたった一人だ。)
どこまで遡っても一人でありその人のミトコンドリアはこの大祖母から
受け継いでいることになる。
ミトコンドリアはそうであっても、この場合でも祖先は他に15人も
いたことになる。
(母方、父方と可能な線を辿れば16人に行き着く。)
その人たちから何分の一かの遺伝子を受け継いでその人がここにいる。
ある母親夏子から太郎と秋子が一人ずつ生まれたとすれば、この秋子
の子供つまり孫次郎と孫冬子には祖母夏子のミトコンドリアは受け継が
れるが、太郎の子供つまり孫三郎と孫花子には祖母夏子のミトコンドリア
は受け継がれない。
(孫三郎と孫花子のミトコンドリアは太郎の妻のものとなる)
ここで途切れてしまう。もし秋子の子供達が男ばかりだとすれば
この母親夏子のミトコンドリアは孫の代で途切れてしまう。
しかし夏子の母春子に夏子の姉妹(夏2子、夏3子)がいてこの系統に
女の子たち(菊1子、菊2子)がいたとすればその子、つまり夏2、3子の
孫(梅1子、梅2子、梅3男)たちに同じミトコンドリアは受け継がれて
いくわけである。
この時孫たち次郎、冬子、梅1子、梅2子、梅3男たちの共通の最も
近い女系(ミトコンドリア)祖先は祖母達夏子、夏2子、夏3子の母春子
(曽祖母)となる。
* MRCA
「二人の人間を取り上げ、過去にさかのぼっていくと、遅かれ早かれ、
年代的に最も新しい共通の祖先
(Most Recent Common Ancestor=MRCA)に行き当たる。
あなたと私、配管工と女王、どんな組み合わせであろうと、
かならずたった一人(あるいはカップル)・・・に収斂していく。
現在生きているすべての人類の最も新しい共通祖先の年代を
決定するのは・・・推定の作業であり、数学者のやるべき仕事である。」
(参照 次のブログ『現人類の3600年前の共通祖先』)
* 女系の共通祖先
「もしあなたのミトコンドリアDNAと私のものを比べてみると、
どれくらい昔に双方が一つの祖先ミトコンドリアを共有していたのかを
言い当てることができる。
・・・ミトコンドリアを比較すれば、私たちの最も新しい女系の
共通祖先が生きていた時代を言い当てることができる。」
ミトコンドリアのDNAを調べることにより現生人類の系統樹を
作ることが出来、そこから約14~20万年前のアフリカに
現生人類の「最も新しい共通の女系祖先」がいたことが判明した。
この女性を神話になぞらえて『ミトコンドリ ア・イブ』とマスコミ
が名づけた。
「おなじことはY染色体でも可能で、私たちの最も年代的に新しい
男系の共通祖先が生きていた時代を言い当てることができる・・・」
男系の共通祖先は『Y染色体アダム』と呼んでいいだろう。
しかしイブやアダムについては誤解が多い。
① 「アダムとイブはさまざまに異なる系列をさかのぼることによって
到達できる無数のMRCAのうちの、わずか二つ(特別な場合の共通の
祖先)に過ぎないのである。」
(例えば母の父、その母その父と順番に辿るとすると別の祖先に行き
着くわけで、「こうした可能な道筋のそれぞれは、異なったMRCAを
もっているだろう。」)
② 「イブとアダムはカップルではなかった。」
「大きなハレムを持つ雄は、普遍的な祖先になるのが簡単である。
雌は大家族をもてる見込みが雄より小さいので、同じ芸当をなしとげる
のにはずっと大きな数の世代を必要とする。
そして実際に現代の最も信頼できる『分子時計』が推測するそれぞれ
の年代は、イブについてはおよそ14万年前、
アダムについてはわずか6万年前というものである。」
③ 「アダムであれイブであれ、・・・彼らについて特筆すべき唯一の
事柄はアダムが最終的に男系を通じての子孫に,イブは女系を通じての
子孫にそれぞれ大いに恵まれたということである。
彼らと同時代の他の人間のなかに、総計で同じくらい多くの子孫を
残したものがいるかもしれない。」
cf 引用は 『祖先の物語』(リチャード・ドーキンス)から
そしてこのミトコンドリア・イブはアフリカにいてそこから全世界に
この集団(ホモ・サピエンス)が広がっていったと推測されている。
いわゆる「出アフリカ」説。
これは「新しい出アフリカ」で、それ以前100万年以上前ホモ・エレク
トスがやはりアフリカから全世界に広がったと言われている。
(現在ではこの間にもう一回出アフリカがあったらしいといわれて
いるし、アジアからの大規模な里帰りもあったのではとか言われている。
これらも遺伝子の分析によるもの。)
ホモ・エレクトスが各地域でそれぞれ新人に進化したのではというのが
多地域進化説だがこれは今では否定されている。