炭素と窒素(窒素固定細菌) | 鬼川の日誌

炭素と窒素(窒素固定細菌)

  炭素(C)と窒素(N) ー生命の根源   

 

 

  * 生命の誕生

 

  地球が出来たのがおよそ46億年前と言われており、生命が誕生した

 のはそれから8億年後の38億年ほど前だという。この頃の地層から

 「原始的な細胞の化石」が見つかっている。原始的な細胞があったとい

 うことは「その時点で、おそらくDNA、RNA、タンパク質が揃って

 いた・・タンパク質がなければ化石となって残るような細胞の構造を作

 り出すことは出来ない。」

  (『動的平衡2』福岡伸一 以下引用は同じ)

 

  「最初の細胞が出来てから、そこにミトコンドリアやゴルジ体のような

 細胞小器官が生まれ、さらに細胞が分化するようになって多細胞化を果

 たし、さまざまな植物と動物、そしてヒトが出来てくるのに38億年を

 要してる。」

 

  「生命の動的平衡はひとたび作り出されれば、サイクルを回し続けながら

 バランスを維持し、少しずつ変容して進化を遂げることが出来る。」

  「しかしより困難なのは動的平衡を維持することよりも最初の動的平衡を

 生み出すことのほうである。」

  とすると生命が誕生するまでの8億年は余りにも短いのではないか?

 生命進化の38億年よりももっと長い時間が必要なのではないか?

 

  そうすると地球では時間が足りない。地球よりはるかに長い時間を

 持っているのは宇宙である。宇宙の歴史はビッグバン以来135億年と

 か150億年とか言われている。もちろん「生命の誕生」の謎を地球

 から宇宙に持って行っても、謎は解明されないのは同じである。しかし

 生命が誕生するまでのトライアンドエラーが8億年では足りないとして

 も宇宙には膨大な時間がある。そこで生まれた生命が種(スペルミア)

 となって地球に流れ着いたという考え方がある。

  (パンスペルミア仮説)

 

  一人の人間は長くても100年の寿命である。今は西暦起源でわずか

 2000年、現生人類ホモサピエンスの誕生からでおよそ20万年、

 こうした単位からすれば、1億年とは気の遠くなるほどの長さではある

 が、生命の歴史が38億年とするならその生命を生み出す時間はさらに

 長い試行錯誤の偶然が積み重なったものと考えることはありうる考え方

 ではある。もちろん与えられたのは時間だけであり、どの様にして生命

 が生まれたのかは謎のままである。

 

  * 光合成細菌と窒素固定細菌

 

  最初の細胞が生まれてから1億年ほど経ったところで太陽から降り

 注ぐエネルギーを利用して、炭酸ガスと水から糖類を作る光合成細菌や、

 窒素を利用して栄養物を作る窒素固定細菌が生まれた。

 

  光合成細菌はシアノバクテリアとか藍色細菌(藍藻類)とよばれる。

 炭酸ガスと水から糖類を作り出すと廃棄物として酸素が作られ地球の

 大気圏を満たし始める。

 

  ①  6(CO*2)+6(H*2O)+太陽エネルギー                 

          → (C*6 H*12 O*6)+6(O*2)

 

  シアノバクテリアなどにより地球上に酸素が増えてくると糖類の分解

 に酸素を利用する細菌が出現した。この好気的な反応は1個のブドウ

 糖を分解して38個ものATP(アデノシン三リン酸というエネルギー

 貯蔵分子)を作り出す。これが呼吸である。

 

  ②  (C*6 H*12 O*6)+6(O*2)

        →  6(CO*2)+6(H*2O)+38ATP

 

  呼吸というのは光合成細菌が太陽光線のエネルギーを捕まえて糖類の

 中に蓄えたものを取り出し、ATPの中に蓄えなおすことといえよう。

  呼吸する細胞が地球上に繁栄するまでに、最初の細胞が生まれてから

 15億年もの時間が経っていたという。

 

  前者の光合成細菌がその後現れた真核細胞に取り込まれて変化した

 ものが現在の葉緑体である。これが植物の起源。

  そして後者好気性細菌も真核細胞に取り込まれて変化しミトコンド

 リアと呼ばれる現在の形になった。ミトコンドリアは植物動物どちらの

 細胞にもある。

  ここまでが私のブログ「植物と動物の起源」で書いたことであり、

 もっぱら炭素(酸素、水素)に関わることである。

 

  もう一つ窒素固定細菌については何も触れなかった。

 窒素固定細菌は現在もそのまま土中に根粒菌等として存在している。

 窒素の役割は何なのか。

 

  * 生命の必須構成要素

 

  窒素は大気の約78%を占めるが植物はそれをダイレクトには取り

 込めない。

 

  (ちなみに大気の残りのうち大部分約20%は酸素であり、アルゴン

  が約1%その他水素、ヘリウム、メタンなどは微量で二酸化炭素も

  0.035%とわずかである。)

 

  この二酸化炭素は産業革命以来の人間の活動により増加の一途を辿り

 地球温暖化の主要な原因として槍玉に挙げられている。

  (石油や石炭を燃やす、一般的には動物そして増えすぎた人間の生命

  活動②などはCO*2を排出する)

 

  「土壌の中にいる窒素細菌(根粒菌)が空気中の窒素を少し酸化させ、

 アンモニアとか酸化窒素に変えている。植物はそういう形だと吸収で

 きるのである。」

 

  「植物は光合成によって炭水化物を作り、窒素を組み込んでアミノ酸

  。私たちはその炭水化物とアミノ酸を食物としているが、アミノ

 酸に含まれているのが窒素である。窒素は、アミノ酸とヌクレオチド

 (**)の必須構成要素であり、それゆえタンパク質とDNA、RNAに

 なくてはならない元素だ。」つまり生命の構成要素そのものということ

 である。

 

  * 生命の誕生にはタンパク質がつまりアミノ酸がなければならない

  からその時点で根粒菌という生命などはなくてもアミノ酸は作られ

  ていたとしなければならない。

 

  実際2006年NASAが彗星から持ち帰った宇宙塵からアミノ酸

 (グリシン)が発見されているし、アミノ酸は実験室で作り出せる。

 

  つまり光合成細菌と好気性呼吸細菌そして窒素固定細菌が生命が生

 み出されて以降の地球の生命を支えてきたということが出来るし、

 窒素が生命の必須構成要素であり、その生命のエネルギー源は炭素

 (水素、酸素)である。

 

  * 窒素の循環

 

  それゆえこれまで植物は窒素細菌が固定する窒素の量だけ吸収で

 きるという制限があり、この窒素固定のプロセスが地球の窒素循環の

 バランスを支えてきた。

  ところが人間は人工的に空気中の窒素からアンモニアを合成し肥料

 とし使い始めた。化学肥料が作られた(ハーバーボッシュ法といい

 20世紀最大の発明の一つとされている)。かくして窒素固定のプロ

 セスは微生物から現在人間のコントロール下にある。

 

  「トウモロコシや小麦は化学肥料から大量に窒素を受け取る。そして

 それがアミノ酸となって動物へと引き渡されている。窒素は炭素の

  循環以上に生命現象と密接に関係し、生命体と地球を循環している

 である。」

 

  問題はこの化学肥料の大量生産を始めとする化学的な窒素固定量の

 増大によって本来ほぼ均衡を保ってきた地球の窒素循環のバランスが

 崩れ、窒素が生態系の中に過剰に流出するようになってきていること

 である。

 

  過剰な窒素分は土壌や水質への負荷になり、温室効果ガス、一酸化

 二窒素の発生要因にもなる。(N2O)

  私たちは、二酸化炭素の問題以上に、窒素の動的平衡に責任を持た

 ねばならない時代にいるということである。

 

  **  ヌクレオチド

 

  DNAは真珠が連なったネックレスのような長い紐状の物質でこの

 真珠球に当たるのがヌクレオチドと呼ばれ、

 a(アデニン)g(グアニン)t(チミン)c(シトシン)の4種。

 (紐は二重螺旋になっており、この二つが結合している部分がヌクレオ

 チドである。)

 

  DNAは生命の設計図・タンパク質の設計図といわれるが、その

 タンパク質はアミノ酸が連結して作られたものであるからアミノ酸の

 種類を決めてそれをどのような順序で並べるかを指定しているという

 わけである。これを具体的に指示しているのがヌクレオチドである。

 

  ヌクレオチドは3文字で一つのアミノ酸を指示する。

 例えばスレオニンというアミノ酸はaca、ヒスチジンにはcac、

 イソロイシンにはataセリンにはagc。

  だから例えば、aca/cac/ata/agc・・・と並べて

 あるタンパク質を作る指示をするということになる。

 

  このような実際にたんぱく質の設計に関わっているDNAの部分を

  遺伝子ということになる。ヌクレオチドの文字列であっても意味を

 なさない部分も沢山ある。

 

  同じアミノ酸でも複数の指示がある場合がある。例えばグリシンは

 gga、ggc、ggg、ggtの4つもある。たった一つの場合も

 ある。

  そしてこのアミノ酸指示の文字列は大腸菌から哺乳類まで共通して

 いる。

 このことが多様な生物すべてが単一の生命の起源から出発した進化の

 産物であることを明確に示している。

​​​​​

  (了)