今が文明史的次元の大転換期 | 鬼川の日誌

今が文明史的次元の大転換期

  文明史的転換期(『日本の歴史をよみなおす』)
      ー網野善彦の主題ー
 

  * 大転換期

  網野は「(日本の)社会と自然とのかかわり方が、いろいろな意味で
 現在大きく変化しつつある」この現在を「文明史的次元」の大転換期
 と捉えている。

  どのように変化しつつあるかというと
 1、「人間が自分自身を滅ぼし得る力を、、開発してしまった」(原水爆)
 という「人類史的な問題」がまずあるが
 2、「現在の人間の持っている技術がいままでとは格段に質が変わって
 きた」こと、
  「とくに、、、現在、進行しつつある変化は、江戸時代から明治・大正、
 それから私どもが若かった戦後のある時期ぐらいまでは、なんの不思議
 もなく普通の常識であったことが、ほとんど通用しなくなった、という
 点でかなり決定的な意味を持っています。」とする。

  (この書は90年10月のもので、まだインターネットの全盛時代の前で、
 A Iの発達も網野は知らないわけで、今なら、転換期の思いをより一層
 強くしただろう。)

  「現在の転換期によって、忘れ去られようとしている社会、いまや古く
 なって消滅しつつあるわれわれの原体験につながる社会はどこまでさか
 のぼれるかというと、だいたい室町時代ぐらいまで」で、

  「ほぼ14世紀に南北朝の動乱という大きな変動があり」

 「15世紀以降の社会のあり方は、私たちの世代の常識で、ある程度理解が

 可能ですが、13世紀以前の問題になると、われわれの常識ではおよびも

 つかない、かなり異質な世界がそこにはある」

  つまり網野は「ほぼ14世紀」以前の中世前期、古代の社会(われ
 われの常識では測れない、かなり異質な世界)と以後(15世紀以後、
 室町時代以後、われわれの原体験、常識である程度理解可能な社会)
 とを峻別し、今の文明史的大転換期に匹敵する転換期として

 「南北朝の動乱期」を捉える。

  **文明史的区分
   ということは、網野は「現代を明治以降の近代社会のある一段階」

  と捉え室町時代来の「原体験」の世界の終わりの期間と捉えている

  ことになる。(「敗戦」を区切りとはしない。)

   ー古代、中世前期の社会ー(南北朝の動乱期)ー室町時代以来の

  われわれの原体験で理解可能な社会つまり現代まで

   ーそして(今が新しい社会への大転換期)ー

  という大きな文明史的区分で考える。

  「いままでの歴史は、ふつう原始、古代、中世、近世、近代と時代
 区分され、その中で時代の流れをとらえるのが、基本的な枠組み
 であった」
  しかし「人間と自然とのかかわり方の大きな変化という点から考え」
 るとこれだけでは「歴史を本当にとらえることはできない」これまでの
 「社会構成史的次元の区分にたいして民族史的次元、あるいは文明史的
 次元の区分」を考えてみる必要があるというわけである。

  われわれ自身が「日本人とは何か」「日本の歴史と社会を正確に捉え
 ているのか」というと決してそうではない。われわれは日本の文化を
 支えているのは「水田を中心とした農業であり、日本の社会は、弥生
 文化」以来「江戸時代まで基本的に農業社会で」あり(「産業社会に
 なるのは明治以後」)、孤立した「島国」で次第に「独特の文化」を
 熟成してきた、といった「常識的理解」に立脚しており、学問の分野
 (歴史学にしても)もこれを抜け出ることがなかった。

  こうした理解、常識を打ち破らなければならないとするのが網野の
 提言であり主題である。ここを明白にしたうえで、この『日本の歴史
 をよみなおす』を学ばなければならないと思う。

  「現在の転換期と同じような大きな転換が南北朝の動乱期、14世紀に
 おこったと考えられるので、この転換期の意味を、、もう一度考え直して
 みることはこれからの人間の進む道を考えるうえでも、また日本の文化・
 社会の問題を考えるうえでも」意味あることだと網野はいう。

  そして「この14世紀の転換期が具体的にどういう形で現れているのか」
 を追求している。

 

 **

  ともかく網野によれば「現代は、まさしくその大転換期にさしかかって

 いる」

  「たとえば室町期、14、15世紀にできた村、町のあり方が、今や崩壊と

 いってよいほどの大きな変化」があり

  「病気のとらえ方、動物に対する接し方の変化など」が「いまや人類的

 な規模で変化しつつある」

  そして天皇も「この転換期に直面して」おり、「日本人の意志にによっ

 て、天皇が消える条件はそう遠からず生まれるといってよい」

  そして「その時は、かならずや日本という国号自体をわれわれが再検

 討する時期となるに相違ありません。」

  という壮大な問題提起を行なっている。

 

 **

  今が歴史的、文明史的、あるいは人類史的転換期であるという点では

 まさにそうだという感を抱くものの、今の日本は政治的にはただ大混乱

 の真っ最中で、むしろ反動的な下卑た輩が、米大反動のトランプの跳梁

 に便乗し増加する有様で、いささかも文明史的転換期の期待を抱かせる

 勢力は見当たらない。

  むしろ「明治以降の近代社会の一段階(崩壊期)」とするにピッタリ

 のお先真っ暗な日本社会でしかない。

 
  
 *これまで学んできたこと
 CF 具体的に日本の社会はどういうものであったか、網野はこれまで
  教えられてこなかった「日本の社会の実相」を明らかにする。

  『日本の歴史をよみなおす』その一、その二、時国家文書
  日本の女性像 1、2