アジサイと日本の土 2 | 鬼川の日誌

アジサイと日本の土 2

  日本の土(黒ボク土)

 

 

 * 黒ボク土

 

  戦後の日本はやせた土地を改良し農作物の収量アップを目指してきた。

 この時使われたのが肥料の三要素、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)

  を原料とした化学肥料だった。

 

  中でもリン鉱石を原料とするリン酸アンモニウムはほぼ100%輸入に

 依存してきた。今でも全輸入量47、2万トンのうち中国からが35、8万

 トンと約75%を占めており、ウクライナ戦争に絡む中国の輸出規制で

 大きな影響を受けた。これだけでも日本は中国との関係を良好に保つ

 ことが死活問題であることがよく分かる。

 

  日本の国土の31%、畑の47、2%を占めるのが真っ黒で歩くと「ボク

 ボク」することから名がついた黒ボク土である。活火山の周りで火山灰

 が降り積もった主に台地に多い。

  黒いのは森林の枯れ葉などが分解された腐食(有機物)が多いからで

 あり、森林多雨の酸性土壌である。

 

  黒ボク土は世界で最も肥沃な土チェルノーゼム(ロシア語で「黒い土」、

 東欧、北米、中国東北部など、中でもウクライナはヨーロッパの穀倉

 地帯である。)の10倍の有機物を含み、世界で最も黒いといわれる。

  だから黒ボク土は一見肥沃に見える。

 

  黒ボク土は通気性、保水性、排水性に富み、軽くて耕し易いと物理的

 特性はいいのだが化学的特性に問題がある。酸性土壌であることとこれ

 に多く含まれる火山灰由来の粘土鉱物アロフェンはリン(リン酸)との

 結合力が極めて強くこれを離さない。

  このため植えた植物がリンを吸収できずリン欠乏になり生育が極めて

 悪くなる。

  戦後リン酸アンモニウムなど化学肥料が大量に投入されるまで農業に

 不向きな「やせた土地」だった。

 

  ただソバは根からシュウ酸を出し粘土に吸着しているリンを溶かし出

 して吸収することが出来る。だから北海道、東北、長野県などの黒ボク

 土にはソバの名産地が多い。

 

  宮沢賢治は土壌学を学んだ土の研究者でもあり、農業に向かない酸性

 の黒ボク土が広がる東北地方の土壌改良に取り組んだ。石灰肥料を普及

 させるセールスで苦労したそうだ。

 

  * 沖積土、褐色森林土

 

  日本の土は黒ボク土の他、扇状地や沖積地(平野)にあり、主に水田

 稲作に使われている沖積土(未熟土)、そして山地や丘陵地、主に森林下

 に見られる褐色森林土(若手土壌)などに分類されるそうだ。

 

  水田は季節的に水を張ることで連作障害を防ぎ、また上流の森から流

 れ出す養分を回収することで酸性土壌を中和し肥沃な土地となっている。

  水田稲作はおよそ2500年(縄文後期から)に渡る土木事業の末に、

 全長40万km(地球10周分)もの用水路が整備されて実現され日本人の

 胃袋を支えてきた。

 

 

  Cf  『東京新聞』24、5、19  「日本の土」