
危機に立つ中国経済 2
習近平独裁の完成
これまでの中国共産党政権は政権の正当性、正統性を「経済成長で全て
の国民を豊かにする」(鄧小平)という点においていたといえる。そして
習近平も鄧路線を受け継ぐかに見えたが、地金は「共産党指導下の強国建
設」で、集団指導体制の鄧路線との決別、毛沢東並みの権力集中による強
権統治にあった。
習近平は旧ソ連の崩壊を防ぐことが出来なかったのは「専制の道具(軍)
が手中になかったから」と教訓化したと言われており、昨年には国防相や
ロケット軍司令官を解任するなど、軍の粛清を進め、党による「絶対的指
導」、軍権の完全な掌握を進めてきた。反汚職腐敗を掲げ、政敵を削ぎ落
として党と自身への一層の権力集中を進めてきたが、これを完成させると
いうことである。
そして今回の全人代では「国務院(政府)組織改正法」で「共産党の指
導堅持」が明記され、党政分離は形だけのものとなり、全人代の形骸化も
明瞭となった。全人代は習近平に対する「忠誠心」の表明ごっこのような
無惨な様相を呈した。そして恒例の全人代後の首相の記者会見すら開かれ
ないことになった。(習近平以外の発信は意味を持たない。)
習近平にとっては一番重要なのは経済建設ではなく、強い中国を作る、
党(と国家)、体制の安全が第一ということになった。これを下支えする
のが「中華民族の偉大な復興」を掲げた中華ナショナリズムだ。
(中華ということでチベット族もウイグル族も一緒くたにされ、民族浄化
的な弾圧を正当化する。)
そうは言っても経済が低迷に追い込まれ、就職できない飯が食えないと
なれば不満が鬱積する。今中国はまさに長期低迷の真っ只中。デフレと
いっていい状況だ。
「寝そべり族」「消費降級」「貧乏セット」「3元(60円)均一商品」
などが拡散している状況がそれをよく表している。
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習近平は一方で反腐敗や共同富裕の掛け声の下、官僚を追い落としたり、
富裕層に強制的に寄付をさせるなどして庶民を慰撫する(「民衆は自分の
懐は温まらないけどスカッとする」)。
また「絶対的貧困は無くなった」と宣言して実情をごまかす。
ー20年当時の李克強首相が「中国では6億人が月収千元(約2万円)前後の
生活だ」と”爆弾発言”して習近平は慌てふためいた。その後李克強は冷や
飯を食わされることになった。
もちろんスカッとする気分やごまかしでは飯は食えないのだから不満は
溜まる。これに対しては高度に発展した監視技術(Netでの管理、張り巡
らされた監視カメラなど)や警察、情報機関(公安)の力を強化し押さえ
込んでいるのである。
中国は完全な監視社会、警察、公安に力づくで押さえ込まれた社会と
なっている。
これに物凄い人と金(国防費を超える)を注ぎ込んでいるのだから、
これも当然経済の足を引っ張ることになる。
社会不安を強引に抑え込んでしまい、表面上問題を見えなくしているの
で党指導部などは深刻さを感じてないようだが不満は色々な形で鬱積して
いる。
チベットやウイグル族の弾圧など民族問題もある。
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11日全人代が閉幕した。今年の経済成長率を「5%前後」に設定したが、
成長目標を下げるわけにはいかないのでそうしただけである。他方国防費
は前年比7、2%増と軍備強化は止まることを知らない。
自ら厳しい目標と言うように多くの専門家は4%台に落ち込まざるを得
ないと見ている。経済の低迷の脱出口はどこにも見えないし、「国家安全
の優先」策は変えないのだから外資を一層萎縮させるだけである。
今年からは恒例となっていた全人代後の首相の記者会見を取りやめるこ
とがわざわざ発表された。序列No.2であった首相が内外に中国政府の政
策の方向性を打ち出す場であった(党政分離)ものが、習1強となった今
ではそれが何らの重みも意味も持たなくなったからということらしいので
ある。
習近平(党)がどういうか、どうするかだけが問題で、習(党)独裁が
完成したと宣言したようなものだ。
習近平は毛沢東独裁時代の異常さの轍を踏むのは間違いない。
参照