食糧危機
『世界で最初に飢えるのは日本』(鈴木宣弘 講談社+α新書)
コロナウイルスの流行は世界的にも落ち着いてきているようだが、今度は
鳥インフルエンザウイルスが世界中で猛威を奮っている。日本でも今シーズ
ン既に1500万羽以上のニワトリを殺処分(過去最大)したという。ちょっと
信じがたい数。卵の値段が高騰し続けている。
そして一部では人にも感染し死者も出ている。まだ人から人への感染はな
いらしいが、アザラシなどの大量死が確認されるなど、哺乳類(人)に感染
しやすいようにウイルスが変異しているのではと危惧されている。ウイルス
この厄介なもの!に私たちは不可避的に直面させられる。
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鳥インフルエンザウイルスが輪をかけたとはいえ卵の値段が高騰し続けて
いる一番の原因は「コロナショック」に引き続くウクライナ戦争、による穀
物、エネルギー価格の高騰にある。
卵をはじめとする食料品の価格高騰に私たちは直面しているわけだが、今
は私たちはこれが食糧危機にまで進行するとは少しも思っていない。
この日本全体が飢えに直面する事になるなどとは想像もしていない。
だがウクライナ戦争はまだまだ深刻化するばかりであり、ヘタをすると局
地的な核戦争の勃発も絵空ごとではない危機的な現状にある。
「米国ラトガース大学の研究者らが、局地的な核戦争が勃発した場合、直
接的な被曝による死者は2700万人だが、『核の冬』による食糧生産の減少と
物流停止による二年後の餓死者は、食料自給率の低い日本に集中し、世界全
体で2、55億人の餓死者のうち、約3割の7200万人が日本の餓死者(日本の
人口の6割)と推定した。」
「実際、37%という食糧自給率に種と肥料の海外依存度を考慮したら日本
の自給率は今でも10%に届かない」
「小麦、大豆、飼料用トウモロコシの輸入依存度が、それぞれ86%、94
%、100%にも達している」ほぼ全面的に輸入にそれも主に米国に依存して
いる。
そして「重要なことは、核戦争を想定しなくても、世界的な不作や国同士
の対立による輸出停止・規制が広がれば、日本人が最も飢餓に陥りやすい可
能性があるということである。」これが明白になったのがコロナショックと
ウクライナ戦争である。
コロナショックによる世界的な物流の混乱で食糧を生産するための生産資
材(農機具、人手や肥料、種、ヒナなど)が日本に入って来なくなったこと
は記憶に新しい。
また追い討ちをかけるようにウクライナ戦争が勃発し、穀物、エネルギー
価格が高騰した。さらに円安もこれに拍車をかけ、中国などに「買い負け」
しており食糧危機が現実化する可能性がますます明白になりつつある。
こうした状況なのに日本の農業の疲弊は深刻化するばかりで、政府は日本
の食料自給率を上げようとする政策を持っていない。
それどころか「貿易自由化」の名の下に米国(穀物メジャー)のいうなり
で関税を引き下げ、米国依存をますます強めて(日本の農業を壊滅させる方
向に動いて)きただけである。日本の政治家も官僚も露骨に脅されると自分
の(政治)生命、首に関わるから何もいう勇気がない。この構造が最大の
ガンである。
(『日本の食料自給率はなぜ下がったのか』)
「お金を出せば輸入できる」を前提にした食糧安全保障は既に成り立たな
いことがますます明らかになりつつあると警鐘を鳴らし、この危機の原因は
何か、これをどう突破するべきかをこの本は提唱している。
安保政策だけでなくこの食糧に関してもいかに我が日本は米国に操られ、
いいように牛耳られているかを知ることができる。食糧を牛耳られることの
中には「遺伝子組み換え食品」「ホルモン漬け牛肉、豚肉」「農薬漬け食品」
等を食わされているということ(食の安全も牛耳られている)も含まれる。
今の日本がいかに危うい橋を渡っているか(そして日本人にいかに危機感
が足りないか)をこの本は教えてくれる。著者は元農林水産官僚である。