高尾山散策
蝶と食草 18,5,22
久しぶりに散歩仲間と高尾山を散策。日影バス停で降りて林道から沢を渡り急な
尾根に取り付いて城山を目指して登る。1昨日檜洞丸に登ったばかりでまだ疲れが
ありさすがに少々きつい。だが素晴らしい新緑で気分はいい。
今は花の季節で花を目当てに歩いている人たちが沢山いる。こういう人たちは
何処にどんな花が咲いているのか実に詳しい。またそれだけ頻繁に歩いている。
私たちが登山道の近くで見つけた山シャクヤクは既に花びらが落ちていたのだが
通りかかった人が先日咲いていたというその花の映像を見せてくれた。それは白
ではなく紫色の山シャクヤクだった。またその近くにエビネがまだ咲いていると教え
てくれた。沢山咲いていた。
またナルコユリ(orアマドコロ)もあった。そういえば桧枝岐村からの帰りアマドコロ
が山菜として売られていたな。甘みがあり美味しい山菜だそうだ。
今日は城山山頂で昼飯乾杯である。半分お百姓になった人が丁寧に育てた野菜
を持ってきてくれ、流水麺のソバにこの野菜と茹でた豚肉とを乗せた、結構豪華な
サラダソバをご馳走になった。(各自分担して持ってきた。)とても美味しかった。
流水麺は少量の水にさらすだけで食べられるから便利といえば便利だ。しかし水分
を持っているから重いのが難点かな。
私たちは60~80代のジジババであるが隣の席ではトレイルランナーの若者たち
が10人ほど豪華に焼き肉パーティーをやっていた。何でも2.5kgも持ってきたとか
言っていた。気のいい若者たちでセロリをおすそ分けしてくれたので、私たちも赤大
根の漬物を分けてやった。「走るの?」ときいたらさすがに「もう走れません」と賑や
かに降って行った。若さがうらやましい限り。
この後一丁平に向かう。富士山の展望台があるが霞んでいた。大室山もこちら
から見ると結構鋭角な峰に見える。
一丁平にはヤマボウシがきれいだった。4片の花(実はガク)の先端が尖っている
のが(ニホン)ヤマボウシで、ハート型に陥入しているのがアメリカヤマボウシ
(ハナミズキ)である。本当の花は中央部にありもう花から小さな実になっていた。
ヤマボウシとハナミズキでは実の付き方にも違いがある。
私たちの今日のお目当てはウマノスズクサとキジョラン。これらも途中で出会った
高尾山の花ハカセにどこにあるか教えてもらった。どちらも実に地味なのでなかなか
見つけられない。
ウマノスズクサ。
キジョランは実になっていた。これが秋になると鬼女の髪のような真っ白な糸を
弾かせるのだそうだ。花ハカセもまだそれを見たことはないと言っていた。
途中イナモリソウとかツレサギソウ(ツルではない、ラン科)とかが咲いているのを
教えてくれた。
(イナモリソウ)
(ツレサギソウ)
城山に登る途中にカンアオイの葉を見つけた。これはギフ蝶の食草として有名で
(石老山から)石砂山一帯でギフ蝶が春に見られるのはその食草カンアオイが保護
されて沢山残っているからである。ここには少しだけだった。
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実はウマノスズクサはジャコウアゲハの食草でキジョランは渡りをする蝶として
知られているアサギマダラの食草である。この日もジャコウアゲハもアサギマダラ
も飛んでいるのを見ることができた。
蝶は進化の過程で多種に分化していくうちに、種ごとにその食草を限定して互い
に競合しなくてすむようにいわば棲み分けすることにしたらしいのである。それが
どのように出来上がっていったのかを考えるとこれも実に不思議な話だ。
カンアオイの場合のように開発でその珍しい植物が失われていくとそれを食草と
する蝶も絶滅する危険にさらされるということもあるのだが。
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食草の限定はほぼ植物の科単位らしい。
例えばアゲハ蝶(ナミアゲハとかクロアゲハ)の場合はミカン、カラタチ、山椒の葉
などのミカン科の木の葉。
キアゲハはニンジン、パセリ、セリなどのセリ科植物。
アオスジアゲハはクスノキ、タブノキ、ヤブニッケイなどクスノキ科の木の葉。
モンシロチョウはキャベツ、大根などアブラナ科の植物
といった具合なのだそうだ。蝶の種と食草とを組み合わせた膨大な表を作っている
観察者もいる。
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そうなると蝶たちはいったいどうやってその植物の種類を見分けるのだろう。
これもまた観察者たちは詳しく研究している。
蝶のメスは卵を産み付けるときに葉っぱを前足で叩く「ドラミング」という行動をとる。
この前足の先端に葉っぱが出す化学物質を感じ取る感覚器官がありこれでいわば
「味の違い」を感じ取っているらしいということである。まあ唸るような話だ。
(研究者たちはその化学物質が何であるかまで解明しているらしいから、その物質
を塗りつけたフェイク葉に卵を産み付けさせることも出来るのだそうだ。)
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ところでウマノスズクサはアルカロイド系の毒を持つ毒草である。ジャコウアゲハの
幼虫はこの毒を体に蓄えることによって鳥などの天敵の捕食から免れているという
話だから自らはこの毒に耐えられるものを持っているのだろう。
鳥たちもその先祖が毒幼虫を食って酷い目に会ったので学習した分けではない
だろうから、毒物が出す何らかのシグナルを感得するものを遺伝子レベルで持って
いるのだろう。(大体野生動物たちは毒物をちゃんと回避している。)
それがどんな仕組みなのかはまた不思議だ。
てなわけで蝶と食草の関係を追求していけばとんでもない深みにハマりそうである。
とても私のようないい加減を地で行くものには遠い話のようでまあ面白いと感心
する辺りで止めておくのが無難なようだ。
今日のもう一つのお目当てがセッコクの花である。高い杉の木の枝にびっしりと
咲いていた。デンドロビウムの仲間で木や岩に着生するラン科の植物とのこと。
岩にも着生するらしいから寄生するわけではなく木から栄養分を奪っているわけ
ではないようだ。ちょっと高すぎて本格的な望遠でないとぶれてしまう。
遠かったがなかなかきれいだった。ケーブルカー駅について今日の花散歩は終
了と思ったら駅の一角の桜の木にまたセッコクの花が咲いているのを見つけた。
この距離だと花の様子着生の様子がよく分かる。
珍しい花々に出会えてなかなか楽しい一日だった。しかし世の中にはどんな物事
にも実に詳しい人がいるものだ。