「うまく話せない」と感じる瞬間は、職場において意外と多い。 会議の場、報告の場、何気ない雑談の中でも、うまく言葉が出てこないことで、まるで自分の存在価値まで疑われるような気持ちになることがある。
だが、それは“能力の低さ”ではない。 単に、自分の思考のスピードや形式と、求められるアウトプットの形式が一致していないだけだ。
会話というのは、即興のパフォーマンスに近い。 考えながら話すのではなく、話しながら考えることが求められる。 だが、すべての人がその方式に向いているわけではない。
中には、情報を視覚的に保持し、構造として理解し、それをじっくりと言葉に変換していく人もいる。 そのプロセスに時間がかかるのは当然であり、欠点でも何でもない。
それでも、現場では往々にして、早いレスポンスが「理解」の証とされる。 即答できないことが、「わかっていない」とみなされてしまう。 そのギャップが、うまく話せない人をじわじわと追い詰めていく。
日々の仕事の中で、少しずつ自信が削られていく。 「また詰まった」「また伝わらなかった」 そうした経験が蓄積すると、自分の価値そのものに疑問を抱きはじめてしまう。
壊れないために必要なのは、まずその構造を理解することだ。
自分がどのように情報を処理するか。 どんな場面で詰まりやすいか。 詰まったときにどうすれば立て直せるか。
それを「性格」や「能力」の問題にせず、「仕組み」として捉えることが第一歩になる。
また、準備できる場面では、あらかじめ言語化しておくのが有効だ。 図やメモを使い、自分の中の構造を外在化しておく。 即興で話すのが苦手なら、文書で補えばいい。
そして、どうしても詰まったときには、 「少し整理してからお伝えします」と一言添えるだけで、場の空気は変わる。
壊れないためには、「うまく話す」よりも「うまく支える」仕組みが必要だ。
その仕組みは、他人が与えてくれるものではない。 自分で見つけ、自分で守るしかない。
“話せない自分”に、理由と方法を与える。 それが、壊れずに働き続けるための技術である。