“脳にくる排便”とセロトニン──気分と身体の意外な関係 | 日曜日のキジバト

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排便後、理由のわからない快感や爽快感を覚えることがある。腹痛や張りが解消されたことによる単純な安心感ではなく、頭の奥に抜けていくような「スッキリ感」が残る。こうした現象には、腸と脳が相互に影響し合う「脳腸相関」という仕組みが関係しているとされる。

脳腸相関(のうちょうそうかん)とは、脳と腸が神経系やホルモン系を通じて双方向に情報をやりとりしているという考え方だ。たとえば、強いストレスで腹痛や下痢が起こるのは、脳から腸への信号が影響している。一方で、腸の状態が良くなると気分も安定するという逆方向の作用も存在する。

この関係を媒介しているのが、「セロトニン」と呼ばれる神経伝達物質である。セロトニンはしばしば「幸せホルモン」と呼ばれ、気分の安定や意欲、睡眠にも関係する。しかし驚くべきことに、このセロトニンの約90%は脳ではなく腸に存在している。特に消化管の粘膜に多く、腸の動きを調整する役割を担っている。

排便は、この腸内セロトニンが最も活発に働く行為のひとつだ。腸の収縮がピークを迎え、迷走神経を通じて脳に刺激が送られる。この刺激が、副交感神経を優位にし、リラックス状態を生み出す。結果として「スッキリした」「頭が軽くなった」という感覚が生じる。これが、いわば“脳にくる排便”の正体である。

もちろん、腸内のセロトニンはそのまま脳内に届くわけではない。しかし、腸の状態が整うことで、脳内のセロトニン生成にも間接的な好影響を与えることが、近年の研究で示唆されている。腸内環境を改善することで、気分障害のリスクを下げるというアプローチも注目され始めている。

このように、排便という日常的で無意識な行動が、意外にもメンタルの安定や幸福感に深く関係しているという事実は、身体と心の結びつきの強さを物語っている。健康を「気合い」や「根性」で語る前に、まず腸内環境を見直すことが、精神面の改善につながる可能性すらある。

便通と気分。この一見無関係な2つの要素が、実は神経とホルモンのネットワークでつながっている。それを知るだけで、身体の訴える小さなサインが、少し違って見えてくるかもしれない。