グランドプリンスホテル高輪
天婦羅 若竹 — Aシェフの芸術的な天ぷらを味わう夜
東京・高輪。
静かな空気が流れるグランドプリンスホテル高輪の中に、落ち着いた名店があります。
「天婦羅 若竹」
ホテルレストランらしい安心感と、老舗天ぷら店の丁寧な仕事。
その両方を味わえる一軒です。
今回、カウンターで迎えてくださったのはAシェフ。
穏やかな笑顔。
静かな所作。
しかし油の前に立つと、空気が変わります。
素材を見極め、温度を読み、最も美味しい瞬間を引き出す。
まさに“芸術的な天ぷら”でした。
最初にいただいたのは、青菜のお浸しと茶碗蒸し。
揚げ物の前に、胃を静かに整えてくれるような優しい味。
こうした流れに、和食の美しさを感じます。
茶碗蒸しは出汁の香りが柔らかく広がり、これから始まるコースへの期待を高めてくれました。
カウンターには、その日の旬の食材が美しく並びます。
車海老。
稚鮎。
穴子。
鮑。
山菜。
アスパラ。
新玉ねぎ。
そして、北海道産の2年熟成じゃがいも。
春から初夏へ移る、この季節ならではのラインナップです。
見ているだけで、すでに美味しい。
まず驚いたのが車海老。
頭は香ばしく、身は半生に近い絶妙な火入れ。
衣は軽く、素材の甘みを閉じ込めています。
サクサクというより、“瑞々しい”天ぷらでした。
稚鮎は、季節を食べる料理。
ほのかな苦味。
青い香り。
内臓の旨み。
小さな一尾の中に、初夏の川の景色が詰まっています。
立ち姿も美しく、まるで工芸品のようでした。
穴子は驚くほど軽い。
ふわっと揚がった身に、骨せんべいの香ばしさ。
重たさが全くありません。
天ぷらは油料理でありながら、技術によって“軽さ”を生み出す料理なのだと改めて感じました。
特に印象に残ったのが、新玉ねぎ。
じっくり火を入れることで、玉ねぎの甘みが極限まで引き出されています。
まるで出汁を飲んでいるような旨み。
シンプルな素材ほど、技術の差が出る。
そう感じる一品でした。
山菜やアスパラも素晴らしい。
春らしいほろ苦さ。
野菜の瑞々しさ。
塩でいただくことで、香りが一気に広がります。
抹茶塩や白塩など、素材によって味わいを変える楽しさもありました。
鮑は、柔らかさを残した絶妙な火入れ。
硬くなりがちな食材ですが、Aシェフの技術によって、しっとりとした食感に仕上がっていました。
わさびと天つゆでいただくと、磯の香りが静かに広がります。
そして印象的だったのが、北海道産の2年熟成じゃがいも。
見た目は素朴ですが、一口食べて驚きました。
長期熟成によってデンプンが糖へ変わり、まるで栗や熟成芋のような濃厚な甘み。
外側は香ばしく、内側はねっとり。
Aシェフが丁寧に火を入れることで、その旨みが最大限に引き出されていました。
これは単なる“野菜の天ぷら”ではなく、一皿の料理として成立している逸品でした。
締めは小ぶりの天丼。
ちょうど良い量。
「もう少し食べたい」と思う絶妙な余韻。
味噌汁と香の物まで含めて、美しく着地するコースでした。
Aシェフの天ぷらは、派手さではなく丁寧さ。
素材を尊重し、季節を表現し、食べる人を疲れさせない。
そこには、静かな美学がありました。
高輪の落ち着いた夜。
カウンター越しに揚がる音を聞きながら、ゆっくり料理を味わう。
そんな贅沢な時間を過ごせる、素晴らしい一軒です。