あれは何処だったのだろうか。 ナビもスマホも無い時代。

CRM250でソロツーリングの締めに林道を求め山へ向かった。

幸い良い雰囲気の細い道に出会い嬉々として山中を走り回り、そして道に迷った。

 

知らぬ道を探し迷子になるのが冒険の様で好きだったちゃりんこ小僧、それと同じ事を単車でもしてるのだから常に道には迷ってる。

迷子である事に今更焦りは無い。

 

しかし今や私も社会人。 時が日曜夜となれば時間への焦りは芽生える。

 

フレックスを使えば昼前まで時間があるのでソレへの焦りでは無い。

現在地不明だがガソリンスタンドが少なく閉店時間も早い地域であろう事はわかる。

つまりはガス欠の危機が迫っている現実への焦りである。

 

CRM250は同クラスでは燃費性能は良い方だ。 

ノーマルクラスの草レースにも出ていた為に下手な改造など行っておらず、その優位性は保たれている。

それでも2サイクルエンジンらしく山を楽しんでいてはガソリンは減る、ウロウロ楽しんだ後では残量は随分寂しいもんだ。

街から山に入り、軽く周って街に戻ってくる腹積りでいたのに見当違いの方向へ下ってしまいこのざまである。

 

何故こんな事になったのか。。。

 

 

人通り少ない細い山道で更に奥へ奥へと進んでいると暗く成るのは早い。

山の天候は変わりやすく日没も早いと聞くが、それは登山家ばかりで無くオフ車乗りにも降りかかり、昼尚暗い樹木生茂る山中の林道では度々実感する。

 

この日は日陰の多い細道で夕刻を迎え、視界が急速に暗く変容し始めた。

当時のオフ車はライトが暗い、更に私のCRMはバッテリーレスなので暗い上にエンジン回転数に合わせて光量が瞬きする。

林道の暗さも光量の乏しさも見慣れた状況なのだが、それにしても今日は路面が見難い。

目の疲れかとも思ったが嫌な予感が湧き上がり、前照灯前に腕を伸ばしてみてもそこに光は無い。

停車して前に回るとやはり無灯火状態だ。

 

球切れでも接触不良でもヒューズ切れでも原因はなんであれ、ここでごちゃごちゃするより先に山を降り夜空が見える場所に出なければまずい、ここでは月明かりさえ届かない。

この日はいつもに増して軽装で修理準備も無く、作業の結果修理断念と成った時に月明かり届かぬ林道に居ては益々追い込まれる。

 

こうして山を下る事を優先するあまりどの方向に降るかを失念し人気の無い方向へ進んでしまったのだ。

 

悪い事は重なるもんで山を下る最中に雲が広がり平地に出た時には月は薄曇りの向こう側。 辺りは闇に包まれる。

視界に人工の光は無い。 民家も街灯も無くガソリンスタンドの気配も無い。

現在地も方角も判らんし、その解決方法も判断基準も持ち合わせて無い。

 

ライトも消えた暗がりの中だ、ここに留まり夜明けか或いは人が通る幸運を待つか?

不正解では無さそうだが妙案とも思えんし、そんな気分でも無い。

ならば先に進み閉店前にガソリンスタンドに到達せねば結局立ち往生、動くなら今すぐだがどっちに進む?

 

東京方角から来て左前方の山に入って一山越えて平坦地、その山が右後ろに見えて左前方に小さな山、そのまま小高い丘で右後ろの山に繋がる、左やや後方に山の切れ目が開く盆地状の場所。 今見える降りてきた山の高さと記憶に残る登る前の山の高さの差から平地に降り切れた訳ではなさそうだ。

空の雲に反射する街の明かりは前方に無く、左やや後方の山の切れ目側にソレらしい物が見えるのみ。

 

ダメだ判らん、どこだここ?

 

雲に反射する筈の街の明かりが見えぬ事から街が連なる登って来た側で無いのは判る。

同様に空の状況から眼前の小さな山の向こうは更に山が控えてる気がする、小高い丘側も同じく。

どうやら山と山の谷間に居るらしい。

 

とにかく山の切れ目でもあり、その上空には街の明かりらしきものを反射する雲が見える左後方へ進んでみる。

野生のカンでさえ無い、愚者の消去法でしかないがこれしか思いつかん。

幸い田畑広がる開けた場所で細いながらも舗装された道。

雲越しの月明かりは頼りないが、ゆっくり進む分には道路の境目はなんとか見える。

 

程なくT字路に突き当たり、ウインカーを出して左折。

見渡す限り遮蔽物の無い開けた場所で誰が居るわけでも無いのに何を律儀にと苦笑いが出ると同時に閃いた。

 

ウインカーだ。

 

間欠ではあるが照明には違い無く自前の人工の明かりではないか!

何故こんな事に気づかないのか、思いの外焦っている様だ。

ウインカーを出しっぱなしにしてみると一瞬一瞬路面が浮き上がり、先が読み易い。

僅かながらの安全を手に入れ心に余裕が生まれる。

 

それほど東京から離れてはおらず、山深い位置には到達してない筈。

ガソリンもまだリザーブにも入ってないのだから、この谷間の先までは進める筈。

雲を照らす街明かりまでにもう山は無く、平坦なら私でも徒歩で走破可能な筈。

筈、筈と願望的予測なのだが気持ちを明るくするのには十分だ。

 

途中、左ウインカーが消えてしまったが、右は最後にとっとく事にする。

再び暗闇走行に戻るが人間慣れるもんで頼りない月明かりでもそこそこの速度で走れてしまう。

穴や行き止まりがあると危ないので努めてゆっくり走るのだが、随分気楽な走行となった。

ここで緊張が解け出すあたりが馬鹿者の証明なのだが、気持ちに余裕があるのは良い事だ。

 

大馬鹿な事に今や前照灯を失いつつもゴールを目指し戦うBAJA1000選手の気分に浸り上機嫌でさえある。

 

その後、リザーブに入って直ぐに太い道路に出れた。

ガソリン消費に気を配りつつ進むと街に到達しなんとかガソリンを給油し難を逃れた。

 

今度は街中の無灯火走行が問題になるが、ごめんなさいごめんなさいと周りへ心の中で誤り倒しつつなんとか自宅へ到着。

 

 

山に入る時はガソリン残量と現在時間への配慮を忘れちゃならんと再認識させられました。